第2話〜人外の化物との遭遇
濃い深緑の匂い。
ユウキは植物に、森の木々に匂いがあることを生まれて初めて強く認識した。
とても濃厚で、不思議な匂い。
嗅ぎ慣れない、しかしどこか懐かしいような香り。
雨上がりのせいなのか、それとも森とは本来はそういうものなのか。
ユウキは泥濘や水溜りを避け、少しでも木々の少ない通りやすい場所を進んでいた。
それでも慣れない森の中、それも人の手が一切入っていない森を進む以上、着ていた制服が泥だらけになり、水を吸って重くなって歩みが遅くなるのは必然だった。
ましてや教室にいた時の格好は校内であったこともあり、外履きではなく学校指定の内ばきで、浸水性もさることながら足に返る反発は普段の比ではない。
空もほとんど覗けない生い茂った木々のせいで薄暗かった森の中は、気が付けばさらに暗く足元が覚束なくなってきた。
同時にやや気温が下がって肌寒くなる。
着ている制服が冬用の学ランであることが幸いしたが、本来制服とは運動するようにはできていない。
濡れていることと、日が暮れかけていることも踏まえると、早急に森を抜ける必要があった。
「くそ、本当に、どうなってるんだ…」
突然森の中にいるというあり得ない現実。
制服のまま森の奥まで来て、そこで何かの衝撃で直前までの記憶がなくなった。
何らかの事件に巻き込まれて眠らされた状態で森の奥に連れてこられたせいで直前の記憶が曖昧になっている。
そんな可能性がいくつも頭の中をよぎっていくが、どれもこれもがしっくりとくることがない。
そもそもユウキの知る限り、ここまで人の手が入っていない広い森は電車で数駅程度の位置にはない。
携帯の電波も繋がらず、かれこれ1時間近く歩いているのに一向に人の気配も人工物も見当たらない。
もっともこれだけ深い森では、まっすぐ進んでいるつもりで同じ場所をグルグルと回っている可能性も否定できないが。
ついに足元はおろか数メートル先の木々すら見辛くなってきた。
不思議と先程から生き物の気配がまったく感じられない。
鳥の鳴き声も虫のざわめきも遠ざかったように、というか初めからいなかったように何もない。
時期を考えれば虫はいないのかもしれないが、しかし、紅葉した木々すら見かけないこの森の様子は、まるで季節が飛んでいるようにも…。
ザッ…
不意に近くの茂みから音がした。
どうやら足音らしい。
何か呟くような声も聞こえた。
疲れ果てていたユウキは獣などの可能性は考えず、ようやく人に出会えたのかという希望を持ってそちらを向いた。
そして”ソレ”と目が合った。
人のものではない、暗闇でも光る濁った瞳。
人外の化け物と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます