第12話 fly yakisoba to the sun
文化祭当日、学校は今までにないほどの騒がしくなって、生徒たち、いや、教師も含めて最高潮の興奮を迎えている。流行りの音楽が鳴り、笑い声、手をたたく音がまじりあい吐き気のする騒音を奏でている。友達同士で体を引っ付けながら独特のノリをグループ内で共有しあう。誰に言われたのでもなく2~7人グループを作り歩いている。1人で行動している人はほとんどいない。
僕と優は文化祭で使われていない三階の廊下で壁にもたれながら、さっき屋台で買ってきた焼きそばを持っている。見るからにてかてかと光っていて油だらけだった。普段料理をしないガキどもが油の分量もわからずに作ったのだろう。そのくせ600円もした。箸で1本だけ持ち上げ口に入れた。油のぬるぬる感と臭いでは吐き気がした。こんなものを作った奴、売った奴、こんなものでも許した奴らにこの焼きそばをたたきつけてやりたい衝動にかられた。プラスチックの容器がぺきぺきと音を立てる。
隣で優が大量の焼きそばを箸で持ち上げ、太陽に照らしていた。テカテカと反射していてニスが塗られているようだった。二人とも顔をしかめた。何を思ったのか優はそれを一気に口に放り込んだ。リスのように口を真ん丸にした優がこちらを見ていた。唇はあぶらでギトギトになっていた。しばらくすると顔がみるみる青くなってきた。ぼぇぇぇぇぇという声とともに口にしていた焼きそばが容器の上に吐き出された。半分以上減っていた焼きそばが元どうりの状態に戻った。さすがに見ていられないので目を背ける。
「クソ。どぶ水でもかかってんじゃねえのか。こんな汚物売りやがって!」
「ゴミだね。600円のゴミ」
窓を開ける。夏に残された熱い風が顔をなでる。余計に吐き気が増してくるようだった。急に、優が焼きそばを勢いよく窓の外に放り投げた。焼きそばはくるくると回転しながら、遠心力に負けた焼きそばのかけらが空中で分離しながら放物線を描いている。その軌跡には分離した焼きそばが反射してキラキラと光っていた。まるで流星のようだった。
「以外にきれいだな。まあ、六百枚の一円玉をばらまいた方がきれいだろうけど」
優なりの皮肉を言いながら、二投目を構えていた。
僕は呆気をとられた。
優は僕のことなんかお構いなしに二投目を投げる。途中まではさっきと同じような軌道をとっていたのだが、遠心力が弱まったのか突然中身がすべて容器から出てしまい重さを失くした容器はふらふらとどこかに降りて行った。焼きそばの塊はどこに行ったのかわからない。下に降りれば、無残な焼きそばの塊が見れるかもしれないが、そんなもの見たくはない。
「お前のやつは全然ダメだったな」
「まったくだ。全然600円の価値に届いていない」
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