死力検査の結果をまにうけないで

ちびまるフォイ

大事なものを失ったときの人間の力

「身長175cmですね。はい、じゃああっちで死力検査してください」


「はい」


案内板にしたがって進むと、コンクリートで囲まれた一室へとたどり着いた。


「それではこれから天井が落ちてきますので、必死に持ち上げてください」


「えっ!? はい!?」


ずずず、と天井がじわじわと迫ってくる。

天井に手をかけて必死に支える。


「はい、もっと頑張って!!」


「視力検査って聞いてたんですけどぉぉぉ……!!」


「ヒザがついてますよ! つぶれちゃいますよ!!」


「うおぉぁぁぁーー!!」


体がバラバラになると思ったとき、天井が一気に持ち上がって戻った。


「はい、死力検査終わりです」


「し……しりょくけんさって……思ってたのと違いますよ……」


「これは死力。あなたがギリギリの瀬戸際でどれだけ頑張れるかを計測していたんです」


「それで、俺の死力はどれくらいだったんです?」


「死力0.1です」


言われてもピンと来なかった。

はじめて円周率の数字を聞かされた子供のようになった。


「それって高いんですか?」


「めっっっっちゃ低いです。死力低すぎです」


「いやいやいや! めっちゃ頑張りましたよ!? 必死に天井支えてましたよ!?」


「あなたみたいな世代には多いんですよ。生まれたときから便利な環境にいたでしょう?

 望むものはすぐに手に入ったでしょう? だから踏ん張って、耐え抜く力が弱いんですよ」


「俺を通して世代全体をバカにするのやめてもらえますか……」


「とにかく、この死力じゃとても社会じゃ生きていけませんよ」


「なんで!?」


「いいですか。社会ではもっと理不尽で無茶苦茶で納得いかないことが多い。

 そのときにどれだけ逆境に立ち向かい、死力を出せるかが重要です。

 最近の企業では死力検査の値を重視しているところもあるんですよ」


「そんな! 俺はこれから就職活動しなくちゃいけないんですよ!?

 先生の力で死力をちょっと盛ることはできないんですか!?」


「手がないわけではないです」


死力検査の先生は胸ポケットからメガネを取り出した。


「これは死力矯正メガネ。これをつけているとあなたの死力は1.5になります」


「本当ですか!?」


「ただし、ずっとつけていると死力1.5に慣れすぎて

 本当に死力を発揮するタイミングで死力を尽くせなくなります。

 ここぞというときにかけてくださいね」


「わかりました!!」


死力検査を終えて数日、就職活動の日々がはじまった。

すでにスキルや人間性に問題無しと判断された候補者が最後に至るのは

社長との最終面接ではなく視力検査だった。


「最近の若者は根性無しが多くて困る。

 仕事をまかせてもすぐに逃げたり来なくなったりする。

 そういった意味で君の死力を見せてもらおうか」


俺はそっとポケットから死力矯正メガネを取り出した。


「いいでしょう。先に言っておきますが、俺の死力は1.5です」


「し、死力1.5……!?」


ついさっきまで「最近の若者は~」などと息巻いていた男は、

その死力の数字に驚いてしまい腰を抜かした。


「そんなばかな……死力1.5だなんて……」


「今この死力検査で証明してみましょう」


死力検査がはじまると天井がまた地面に迫ってきた。


「ふんぬらぁぁぁ!!」


天井を両手で受け止めて力を込める。

今の俺はメガネで死力1.5まで高められている。

踏ん張れる力は前以上だ。


パリンっ。



「へ?」


一瞬、なにが起きたのかわからなかった。


自分の足元に割れたメガネのレンズが飛び散っているのを見て理解した。

死力を込めて顔に力をいれたとたんにメガネが割れてしまった。

つまようじよりも強度のないメガネだった。


「あンのやぶ医者あぁぁぁ!!」


なにが死力矯正メガネだ。

ただの安いエセメガネを押し付けただけじゃないか。


絶対に許さねぇ!! 騙しやがって!!


「こんちくしょうがぁぁぁぁーーッ!!」




死力検査の結果を見た面接官は言葉を失った。


「死力2.0……!? 君のような人間を待っていた!!」

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