第14話 ナックルボールの作戦会議


 3球目もナックルボールを投げてきた。


  フォームもボールの握り方も変わりはないのに、ナックルを投げ切れているのはギフトの影響だろう。ボールの軌道は完全にランダムでどこに来るかが読めなく、見逃してしまった。


「おい、少しタイムもらっていいか?」

とストライクを取られた瞬間に紅は言った。


「いいですよ」

これも無愛想に土御門は答えた。それに紅はいらっとした。


 ベンチにて、土御門の攻略について会議した。

「守備に関しては大丈夫だと思う。おそらく、あいつは紅の速い球は打てない。最初のボールは低めのアウトコースで狙い撃ちしたものだ。」

大和は解説している。


「毎朝、初球そこに投げていれば覚えてしまうな。」

風祭はすこし納得しながら言った。


「最近の朝の勝負では投げていないよ。それやりつづけると大和が不機嫌になるから。」

紅は弱弱しく反論した。


「紅は最近別のコースに投げていたが、今までの初球を考えたら低めのアウトコースに絞るのは当然だな。」

腕を組んで頷きながら、大和は答えた


「大和の話を聞いていると、土御門にとって、点取りゲームではなく1点を死守するゲームになっているのか。今、土御門はリードしているけど、あくまで1対4の試合で不利なのは確実だ。それだけのリスクは負わないといけない。」

考えこみながら風祭は言っている。


「つまりは、私たちが1点取れば最悪引き分けまで持ってこれるってことだよね。」

巻島は閃いたように言った。


「そういうことになる。私たちの課題は攻撃だ。」

大和は、巻島のこと言っていることに同意しながら言った。


「今の状況を整理する。私のプロペラによる進塁は完全に無効化されている。そして、私と巻島の関しては間違いなく150kmのボールすらもヒットにできないだろう。だから、お前ら2人が得点を取らないとな。」

風祭は淡々と状況を述べていく。


「私もそうだと思うよ。こういう時さ、情熱さえあればヒットにできるっていうやつは信頼できないね。情熱があれば、地球は四角になるのかって話だよ。」

巻島は悔しい顔を見せずに、堂々と言った。


「私たち2人は守備に全力でやることと、2人が打てないであろうナックルボールの考察を全力でやること。打つことが仕事じゃないよ。」

巻島は目に静かな闘志を燃やしながら言った。


「巻島、お前ってこんなに冷静なやつだっけ?」

と紅はなにげなく突っ込んだ。


「まぁ~ね。土御門はさ、私たちに勝つため2年前の試合からすべての試合をおそらく見ているんだよ。」

「紅との朝のバッター対決で紅のボールの分析、紅に油断を与えることと、土の塊で風祭の進塁を防ぐことを行っている。こんなに作戦を立てて、私たちと闘っているんだよ。そんな努力を気合で壊せるんて残酷だよ。」

と巻島は紅の返答に対して


「そうだな。知略で来たら、知略で打ち返さないとだな。」

紅は、やんわりとほくそ笑んだ。


「その返しは残酷だよ。紅があのナックルボールをあえて振らずに見て、ナックルボールを考察していたこと。紅が土御門にこの考える時間を貰っていること。その2つで、冷静に勝とうと思えたんだよ。」

「あなたの行動で99%冷静になれたんだよ。あの愛想の悪いくまのできた女の作戦で1%しか変わらないよ。紅は強いんだから、そこを自覚してよ。」

巻島は、激励と説教の2つの意味合いを混ぜて紅に言っている。


紅はその発言でうれしくなったのか、少し顔が赤くなった。


「うふふ。巻島は相変わらず面白い風が吹いているね。」

巻島の人柄に惹かれて、風祭にこやかに微笑んでいる。


「それよりナックルについて議論しよう。」

と大和はびっしと言って、話題を無理やり変えようとした。


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