第11話

 私は、じっと艦長の目を見ていました。私の心の中では、あの探検の苦しかった思い出が、まるで映画でも見るように、ぐるぐるとまわっていました。そして、束の間、私はあの大氷原にいたのです。あの巨大な富士山を目の前にして、荒涼とした、南極の風に吹かれていたのです。

 私はあの時のことを思い出しました。私はあの時、この巨大な山こそ正真正明の富士山で、日本の富士山はただのコピーに、小さなにせものに過ぎないと思ったのでした。私は夢中で目をつぶって、首を振りました。

 いけない。戦争に負けた祖国の、最後の誇りまで奪ってしまってはいけない。富士山まで奪われてしまったら、私達日本人は、二度と立ちあがれなくなってしまうだろう。

 私は思いました。あの山のことを報告してはいけないのだと。死んだ仲間達も、きっと許してくれるだろうと。

 私は、そっと目をあけました。そして、艦長の目をじっとみつめながら言いました。

「探査は失敗でした。我々には、何も得るところはありませんでした。」

 艦長は、一瞬何か言いたげに口を開きかけましたが、目をそらすと、ふっと、ためいきをつきました。そして敬礼すると、黙って出ていきました。

 私は、それ以来この話を、ずっと心の奥にしまってきました。私が話したのは、あなたが最初です。信じるかどうかは、あなたにまかせましょう。

 ランプの光にぼんやりと映ったマスターのひげもじゃの顔が、ニコッと笑ったようにみえました。

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