第10話
次に気がついたときは、もう潜水艦の中でした。私は狭いベッドの上に、このランプをしっかり握りしめたまま、横たわっていました。基地をひきあげる時、どうしてもランプを離そうとしなかったそうです。気がつくと、艦長が立っていました。私が起きあがろうとすると、艦長はそれを手で制して、こうおっしゃったのです。
「ごくろうでした。結局、あなた一人しか残らなかったのですね。」
そして、私が報告しようと口を開きかけると、艦長は暗い顔をして、
「報告を聞く前に、言わねばならぬことがあります。」
と、言いました。そして、ぐっと息を吸いこむと、私の目をみつめながら、
「戦争は終わりました。日本は負けたのです。」
そう言うと、艦長は顔をそむけました。
私には、しばらくの間、それがどういう意味かわかりませんでした。でも、しだいに実感が湧いてくるとともに、今までの悲惨な探検行や、死んでいった仲間達の顔が思い出されてきました。それでは、彼らの死は無駄になってしまったのか。そう思うと、涙があとからあとからこぼれてきました。
艦長は、そんな私の顔をじっと見ていましたが、やがて、こう言いました。
「報告を聞きましょう。あなたは、ただそれだけのために、あの悲惨な日々を生き抜いてこられたのでしょう。死んでゆかれた隊の人々も、そのためにこそ、命を捨てられたのでしょう。今となっては、無駄になってしまったかもしれませんが、私は聞かねばなりません。
それが、艦長であった私の義務なのです。この作戦のために多くの部下を失った私の最後の義務なのです。どうか、報告をして下さい。」
艦長の目には、涙が浮かんでいました。
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