第9話

 そして、私達は待ちました。ただ、もうひたすらに待ちました。もうその時の私達を支えていたのは、ただ、報告しなければならないという執念だけでした。

 私達は待ちました。必ず救援隊が来ると信じて、待ちました。でも、一週間過ぎても、十日過ぎても、迎えは来ませんでした。何日待っても迎えは来ません。二十日たち、一月たとうとする頃、仲間が一人死にました。朝になって、どんなに一生懸命ゆさぶっても、目をさまそうとはしませんでした。でも私達には、もうそれを悲しむ余裕さえ無くなっていました。いや、それよりも、一人減った分だけ長くもちこたえられると、逆にホッとしたくらいです。そして、また二週間ほどして、もう一人も死にました。とうとう、私一人になってしまったのです。

 とうとう、一人になってしまった。そりゃあ、最初は気が狂いそうでしたよ。じっとしているだけで、口も聞かなくても、仲間がいるというのは、心丈夫なものです。それが、あの南極の凍りつくような寒さの中で、一人ぼっちになってしまったんです。このランプだけが、私の友達でした。でも、だんだんと私の心は麻痺してしまい、ただランプの灯を眺めているだけで、ほかのことは気にならなくなってしまいました。

 もう、それからあとのことは、ぼんやりとしか覚えてはいません。ただ、やっと救援隊の連中がたどりついてくれて、入って来た時、私の顔を見て、ワッと叫び声をあげてあとずさったのを、覚えているだけです。あとで聞いた話では、ランプをみつめたまま凍りついてしまった、亡霊のように見えたということでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る