第8話

 我々はこの場所を正確に測量して、位置を記すと、引き返し始めました。この時、既に私達は、半数の十人に減っていたのです。

 帰路の悲惨だったことは、もういうまでもありません。食料は少なくなる一方、頼みの目印を見失って同じところを堂々巡りしてみたり、ブリザードに閉じ込められて、それこそ一週間近くもテントの中から出られなかったことも、一度や二度じゃありません。そのうちにも、体力の衰えは激しくなっていきました。ずっと行進していて、さて一休みしようと立ち止まると、いつのまにか一人足りなくなっていたり、夜が明けるとシュラフの中で眠ったまま死んでいたり、神経がおかしくなって、ブリザードの中ヘふらふらと消えていってしまったやつもいました。

 でも、もう私達には、行方不明になった連中を探したり、死んだ人を埋めてやったりする気力もありませんでした。私達に残っていたのは、とにかく一人でもいいから、生きて報告しなければならないという執念だけでした。それだけが、私達を支えていたのです。今考えても、なんで私が生き残れたのか不思議でなりません。今でもあの時の夢をみて、飛び起きることがあるんです。

 もう、何回あきらめてしまおうと思ったかわかりません。でも、とうとうたどりつきました。そこから母船に連絡すれば、迎えに来てくれることになっていました。あらかじめ基地にするつもりで、そこにはある程度の装備を残しておいたのです。盗聴を防ぐため、最小限の短い暗号文を打ちましたが、無線器はうんともすんともいってくれません。何回か打ってみて、もうだめかとあきらめた頃に、ようやく母船から返事が入りました。その時の嬉しかったことといったらなかったですよ。でも、もうその時には三人しか残っちゃいませんでした。

 母船から迎えが来るっていっても、ここは南極大陸の一番はしっこ。そして母船は海の凍結を避けて、大氷原のはるか彼方にいるわけです。私達のいるところまでたどりつくのに、何日かかるかわかったもんじゃありません。それまでの間、この基地に残された僅かな食料と燃料で、なんとしてももちこたえなければなりませんでした。例え一人だけでも、直接口頭で、報告しなければならなかったんです。私達は、常にスパイや敵の襲撃の妄想にとりつかれていたため、とても文章にして残しておく気になれなかったんです。

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