第5話

 それから後は、何日も何日も会議の連続です。計画を、微に入り細に入り検討して、結局詳しい作戦計画が完全にできあがったのは、それから半年もたってからのことでした。詳しいことは省きますが、探検隊は総勢二十人で、期間は約一年、南極までは、潜水艦を使ってできる限り接近し、そこからは氷上をそりを使って行くことになっていました。完全に戦線を避けた隠密行動で、途中の補給基地も極力減らしました。隊員は、先生方も含めて、みな冬山のベテランで、日本でもトップクラスの猛者が揃っていました。私も彼らのレベルとまではいかないものの、やはり、冬山はかなりの回数をこなしていました。みんな、祖国を救うんだという気持と、まだ見ぬ南極大陸ヘの期待とに、熱く燃えていましたっけ。

 そりゃあ、長い苦しい旅でしたよ。あなたは、潜水艦に乗ったことはありますか・・・。ない、そうでしょうなあ。潜水艦の中っていうのは、実に狭っ苦しくて、暑いものなんですよ。それに隠密行動ですから、できる限り長い間潜航していくわけです。だから、赤道を越える頃の暑さっていったら、もうそれはひどいもんでしたよ。昼間は殆ど潜りっぱなし、夜になると、やっと浮上して航行するわけです。そんな時、狭くてツルツルすベる甲板に出て風にあたるのが、何よりの楽しみでした。それでも、南極に近づくにつれて寒くなってきまして、ある日、とうとう氷山が見えはじめました。

 もう、これ以上は潜水艦では危険だってところまで行きつくと、いよいよ潜水艦にも別れを告げ、そりに荷物を積みこんで出発しました。凍結しているとはいえ、いつパックリ口を開くかもわからない大氷原を、もう今とはおはなしにならないくらいひどい装備で、とぼとぼと進んでいくんです。私達の燃える心なんてものは、あの大氷原を見た瞬間にふっとんでしまいましたよ。もう、とても生きて帰れるとは思えませんでしたね。

 このランプは、その時持って行ったものなんです。吹雪に閉じ込められた時なんかは、テントのなかでこのランプをともして、ただじっと待っているんです。油が少ないから、ほんの少ししかつけられないんですが、それでもこんなうす暗い灯りが、なんともうれしかったですねえ。

 マスターは、ここでほっとためいきをついて、またパイプをふかしました。

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