第10話 高橋とひとみ…再会~恋人岬にて

真一に連れられた高橋は、柏崎駅から恋人岬へ向かった。予め真一がひとみに連絡して待ち合わせていた。


しばらくして、2人は恋人岬に到着した。



真一「ここからは、あんた次第や。例え気持ちが未だに前向きになれなかったとしても、無理してでもひとみちゃんのことを考えてやるんや。ひとみちゃんは、あんたのことを長い目で見とってやし、高橋くんもひとみちゃんのこと、長い目で見てるやろ?」

高橋「はい」

真一「全ては、あんた次第や」

高橋「堀川さん、ありがとうございました」



真一が頷く。高橋が恋人岬の展望台へ向かった。展望台には、ひとみが海の景色を眺めていた。



高橋「ひとみ」

ひとみ「歩くん」

高橋「ひとみ…」

ひとみ「うん…」


ひとみが高橋に寄り添った。


ひとみ「歩くん、大丈夫?」

高橋「うん。ゴメンな。マジでゴメンな」

ひとみ「歩くんのバカ」

高橋「あぁ…」

ひとみ「でも、良かった。戻ってきてくれた。記憶も戻ってるんだね?」

高橋「うん」

ひとみ「そっかぁ…。おかえり(笑)」

高橋「ただいま(笑)」

ひとみ「うん(笑)」


2人はお互い笑いあった。


ひとみ「歩くん」

高橋「何?」

ひとみ「見ず知らずのSNSで出会った人と会ったんだ…」

高橋「それが…、会わずじまいになったんだ」

ひとみ「記憶喪失になったから?」

高橋「それもあるけど…。出会う日に交通事故に遭って、亡くなったんだ」

ひとみ「え❗」

高橋「後で聞いた話なんだけど…」

ひとみ「そうだったんだ…。それで記憶喪失に…?」

高橋「うん…」

ひとみ「辛かったんだね…」

高橋「今から思えば、オレ、『バチがあたった』んだと思ってる。ひとみが引き留めていたにもかかわらず、振り払ってオレ会いに行ったのだから…」

ひとみ「そっかぁ…」

高橋「うん…」


少し沈黙が走る。


高橋「その代わりと言っちゃあなんだけど…」

ひとみ「なぁに?」

高橋「はい」


高橋はひとみに御守を渡す。


ひとみ「これは…、まさか歩くん…」

高橋「うん、松本に行ってきたんだ」

ひとみ「わざわざこれだけのために?」

高橋「いいや、これだけじゃないよ。祈祷もしてきたよ」

ひとみ「え❗ どうして?」

高橋「ひとみ、この前元気なかっただろ?

大学がコロナ禍で休講だったから、友達とも会えていないし、携帯電話で話すかLINEしてるくらいだったし…。だから、ひとみが行きたがっている『白線流し』の舞台の地に、あえてフライングして足を運んで、コロナが終息したら、2人で御守を返しに行こうって思ったんだ」

ひとみ「歩くん…、ありがとう」

高橋「うん」

ひとみ「高山には行ってないよね?」

高橋「高山にも行ってきた」

ひとみ「ちょっと、何してんのよ❗(笑)」

高橋「言われると思った。でもオレは、今回あえてひとみが行きたがっている所へ下見したかった」

ひとみ「どうして?」

高橋「ひとみと楽しみたいから、オレ、何もわかってないから、ひとみを案内したかったから…」

ひとみ「歩くん…。そんなことまでしなくても、連れてってくれるだけで嬉しいよ。もう、私のために無茶しないでね」

高橋「うん…わかった…。でもオレ、いっつもひとみに何もしてあげられなくて、こんなことくらいしかできないから…」

ひとみ「いいよ、気にしてないから。幼稚園の時から変わってないじゃん(笑)」

高橋「いくら幼なじみでも、高校の時まで何も変わってなくて…。さすがに大学生だから、せめて何かしてあげたかったんだ」

ひとみ「歩くん、ありがとう。ホントに幼稚園の時から優しいね…」

高橋「……だって」

ひとみ「…?」

高橋「…………」

ひとみ「だって…?」

高橋「オレ、ひとみのこと、今まで『姉貴』だと思ってた。オレのことなんでも知ってる。こんなオレなのに、いつも長い目でみてくれる。幼稚園の時からずっと…」

ひとみ「そっかぁ…」


2人に少し沈黙が走る。ひとみは高橋の顔を見ている。高橋は何か考えていた。ひとみは高橋が話すのを待っている様子だ。




高橋「ひとみ」

ひとみ「ん?」

高橋「オレ、ひとみと幼稚園の時からずっと同じクラスで、今、大学生になっても同じ大学に通ってる。毎日ひとみと一緒にいるのが『当たり前』なんだ…って思ってた。甘えていたんだと思う。でも、それはオレの勘違いだったかもしれない」

ひとみ「…………」

高橋「松本、高山、南町へ行くとき、ひとみは必死でオレを引き留めてた。『行っちゃダメ』って。確かに、コロナ禍で『緊急事態宣言』も出ていたけど、解除されて『Gotoトラベル』も始まったから、安易に行ったら、最後の南町でトラブルが起きて、記憶喪失にもなった。ひとみの言うこと聞いておけば良かったなぁ…って」

ひとみ「うん…」

高橋「ダメだよなぁ、オレ。ホントに昔から…。ひとみがいなければ、オレは今頃どうしていたかわからないし…」

ひとみ「…………」

高橋「それで気づいたんだ。ひとみはオレにとって『幼なじみ』だけど、ただの幼なじみじゃないんだ…って」

ひとみ「…………」

高橋「両親が交通事故で亡くなった後、オレ一人になって、いつもそばにいてくれたのは、どこにいてもひとみだった。ひとみはずっと、オレのことを気にかけてくれている。今でもそうだ。オレ、ひとみがいない世の中って、考えられない」

ひとみ「そっか…」

高橋「ひとみ…」

ひとみ「なぁに?」

高橋「大好きだ。オレの初恋の人で、幼稚園の時からずっと大好きだ」

ひとみ「歩くん…」

高橋「親族もいない、ひとりぼっちのオレだけど、これからもオレと一緒にいてほしい」

ひとみ「歩くん…」

高橋「今頃遅いけど、『大きくなったらオレのお嫁さんになってほしい』…。だから、付き合ってほしい」

ひとみ「歩くん…」


ひとみは泣いていた。泣きながら、ひとみは高橋に抱きついた。高橋は黙ってひとみを抱きしめた。



一部始終を遠くで見守っていた真一は、2人の様子を見て、安堵して大きく頷いた。そして、真一は恋人岬を後にし、国道8号を日本海沿いに柏崎駅までの長い道のりを、バスやタクシーをあえて使わず歩く。


真一は、2人の様子を見て、自分が優香と付き合わなかったので、高橋とひとみには同じ気持ちにさせたくなかった。その一心で真一は高橋に電車の中で説得していたのだった。


国道8号をひたすら歩きながら、高校時代の自分を思い出す真一だった。




(回想)

夕方、真一は一人で下校し、高校駅に向かっていた。後ろから優香が真一に手で目隠しをする。


優香「だーれだ?」

真一「……えーっと…、誰だっけ?」

優香「だーれだ?」

真一「………あ、わかった。優香ちゃん」


優香は笑う。


真一「どないしたん(どうしたの)?」

優香「何が?」

真一「『だーれだ?』って目隠しなんかして…。ハイテンションやなぁ」

優香「そうかぁ? こんなもんやろ」

真一「そうか…」

優香「先生のお手伝い、忙しそうやなぁ」

真一「うん…急いでるみたいやから」

優香「そうなんや…」


真一は自動販売機で冷たいミルクティを2本買って、1本優香に渡す。


優香「ありがとう」

真一「おう」





(回想)

優香は新潟の大学に入学後、高校時代に付き合っていた森岡と別れた。その話を森岡から聞いた真一は、しばらくして新潟で独り暮らしをしている優香と電話で話していた。


優香「森岡くんと付き合ったのは後悔してる。新潟に行ってから、森岡くんは何度か来たけど、森岡くんはしんちゃんになれなかった。しんちゃんに会いたかった。電話くれたとき、めっちゃ嬉しかった。電話くれたとき、今すぐにでも新潟に来てほしかった。一緒に居たかった。しんちゃんに甘えたかった。初めての気持ちになった」





一方、恋人岬では、高橋とひとみが展望台でハート型のプレートに名前を書いて、いつまでも幸せになれるように、手すり付近にプレートを結んだ。顔を見合わせて笑顔になる高橋とひとみだった。



その頃、真一は柏崎駅までの道のりで呟いた。



真一「『幼なじみ』と『白線流し』か…。そういえば…」





(回想・夢の中)

優香「なぁ、しんちゃん」

真一「うん?」

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」

真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」

優香「そっかぁ…」





真一(そういえば、優香ちゃんが夢でも言うてた『白線流し』のこと、あれは一体何やったんやろ? もうひとつの『幼なじみ』と『白線流し』か…。野暮やなぁ…)






(回想・夢の中)

優香「なぁ、しんちゃん」

真一「うん?」

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」

真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」

優香「そっかぁ…」






真一(どうも、高橋くんとひとみちゃんのことだけやないなぁ…。優香ちゃん、ホンマにあの時オレに何が言いたかったんやろ?)

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