第7話 高橋の足どりと記憶喪失の秘密
南町に戻った真一は、翌日から仕事に精を出していた。仕事で納品があり、南町警察署に立ち寄る。会計課の上田と話す。
真一「こんにちは」
上田「まいど、お世話になってます」
真一「高橋くんは、その後どんな様子ですか?」
上田「相変わらず記憶喪失らしいですわ」
真一「そうですか…」
上田「堀川さん、あんた高山と柏崎へ行ってたんやって?」
真一「えぇ。何か手がかりになるもんがないか…」
上田「えらいすんませんなぁ、こんな大変なときに…」
真一「Go toトラベルっていうやつを使ったので…」
上田「そういうことか…」
真一「行くのに抵抗がありましたけど、高橋くんの事がちょっと気になってましたから、余計なお世話でしたけど…」
上田「いえいえ…。草野(刑事)呼びますわ」
真一「すんません」
上田は草野刑事を呼んだ。
草野「堀川さん」
真一「お疲れ様です」
上田「堀川さん、有給休暇とって高山と柏崎へ行っておられたんや」
草野「え❗」
上田「高橋のことが気になっておられたそうや」
草野「そうでしたか…」
真一「それでなんですが…」
草野「はい」
真一「高橋くんの親族が誰もいない…とお聞きしてましたが、何か理由があるんですか?」
草野「えぇ、私もそれが気になってまして、調べてたら、高橋は一人っ子で、両親は交通事故で5年前に亡くなっています。祖父母も10年以上前に病気で亡くなっています」
真一「そうでしたか…」
草野「親戚筋もあたったのですが、高橋の両親は『駆け落ち』していて、親戚とは縁を切っています。ですので、高橋の生まれる前から親戚とは縁がありません」
真一「それで親族がいないんですね…。身元引き受け人は彼の友人とか、例えば僕でも構わないのですか?」
草野「そうですね…。警察としては既に保護は終わっています。私が暫定的にですが彼を預かっています。ですので、堀川さんでも構いませんが、高橋を柏崎へ送るのですか?」
真一「えぇ。柏崎で彼の幼なじみと会えました」
草野「そうですか…」
真一「その幼なじみは女の子で、今の高橋くんを見るとショックを受けるかもしれないので、柏崎に戻るまでに何とか記憶をある程度よみがえらさないとアカンと思うんです」
草野「はぁ…」
真一「それと南町に来た経緯わかりましたか?」
草野「えぇ。何かSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で知り合った人に会うために南町に来たのですが、会えずじまいで途方に暮れたとき、誤って転けて、ちょうど川にかかった橋のたもとだったので、河川敷に転がったようです。それで、頭の打ち所が不味かったのか、そこから記憶喪失になったものと考えられます。というのは、高橋がこの南町で会う約束をしていた人物が、先日交通事故で亡くなっています」
真一「え❗ そうなんですか?」
草野「高橋はどこかで知ったのかもしれません。ちなみに私たちの方から、その人物が亡くなったことは高橋には話していません」
真一「そうですか…。僕も高山で聞いたのですが、『これから南町へ行く』旨を、高山の高校教諭が聞いていました。話が繋がりましたね…」
草野「そのようですね」
真一「それで、南町で転倒して記憶喪失に?」
草野「それだけでなく、SNSで知り合った人物が交通事故で亡くなったのをどこかで知ったから…」
真一「自分の両親も交通事故で亡くなっているからですか?」
草野「そうかもしれません。両親が亡くなった時の事が甦って…」
真一「そうですか…」
草野「それより堀川さん、高橋の記憶を甦らせるのに、方法があるんですか?」
真一「所持品にあった『白線流し』の本と御守2個は、おそらく幼なじみに本やドラマの舞台となった松本の神社の御守を1個渡して、もう1個は自分のためやと思います。高橋くんの幼なじみは、高校時代に『白線流し』の本を読んでいた事実があります。高橋くんと幼なじみは、幼稚園から今の大学までずっと同じ学校に通っています。高橋くん、幼なじみの為でもあり、幼なじみの事が気になってるんではないかと…」
草野「そうなんですか?」
真一「高橋くんには内緒にしておいてください」
草野「わかりました」
真一「それで、高橋くんに会いたいのですが…」
草野「今夜はいかがですか?」
真一「構いません。よろしくお願い致します」
そして夕方、真一は仕事を片づけて退勤し、南町警察署に向かった。
真一「上田さん」
上田「あぁ、堀川さん、お疲れ様です。何べん(何度)もご足労いただきまして…。ご案内します」
真一は上田に取調室を案内された。
草野「堀川さん」
真一「お待たせしました」
草野「こんなところへご足労いただきまして、ありがとうございます。何分、会議室が使われていまして、急遽こちらで…」
真一「初めてですな、取調室(笑)」
草野「ホンマはこちらに来てはいけないところですからね…」
真一「そうですなぁ…」
高橋「こんばんは」
真一「久しぶりやな、元気そうやな」
高橋「おかげさまで、刑事さんにお世話になってます…」
真一「うん…」
上田「ほな、ワシは帰るよって…」
草野「すいませんでした」
真一「お世話になりました」
上田が帰っていった。
草野「堀川さん、本題に入りましょか…」
真一「そうですな…」
草野「こちらに座ってください」
真一「はい…。高橋くん、記憶の方はどうや?」
高橋「はい。刑事さんにボクの名前と住所は調べていただいてのでわかったのですが、その他の事は…」
真一「そうか…。あんたが鞄の中に持っていた『白線流し』の本と御守2個、あれはどういう経緯で持っているかわかるか?」
高橋「それが…わからないのです」
真一「そうか…。高山と柏崎へ行ってきたんや…」
高橋「え?」
真一「あんたが南町に来る前、高山に行ってたんや。その前は松本へ。松本であんたが持ってる御守を買ってるのは、警察の方で分かったんやけどな…」
高橋「そうだったんだ…」
真一「うん。それでなぁ、あんたは高山では『白線流し』のことで、高山の高校に行って男性教諭に尋ねてるんや」
高橋「…………」
真一「松本にはオレは行ってないけど、この御守が全てや。そして、あんたの出身地・柏崎や」
高橋「…………」
真一「ちょっと見てもらいたいもん(もの)があるんや」
高橋「はい…」
真一はスマートフォンを取り出し、ひとみの顔写真を高橋に見せる。
真一「この人、知らんか?」
高橋は、真一のスマートフォンに写っているひとみの顔写真をじっと見ている。
草野が高橋の様子をじっと見ている。
真一も高橋の様子をうかがっている。
高橋は何も言わずに、ひとみの顔写真をずっと見つめたままである。
そして、それからしばらくして高橋がつぶやいた。
高橋「ひとみ…」
真一と草野が食い入るように高橋を見ている。
高橋「ひとみ…、ひとみ…、ひとみ…」
真一は小さく頷いた。
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