第6話 『白線流し』を旅する真一②…柏崎

柏崎(新潟県)に到着した真一は、1ヵ所思い当たる所があり出向いてみた。


日本海沿いに面した国道8号沿いにある恋人岬だった。ここにはカップルが岬の展望台のフェンスに南京錠で鍵をかけ、愛を誓った跡が無数にあったが、現在はハート型のプレートが無数取り付けてある。ここは昔、真一が甲状腺ガンから復帰し、優香と最後に幼稚園近くのファミリーレストランで会って、4時間も話したあと、大学に通っていた優香のところに行けなかった新潟へ、病み上がりから初めて一人旅をした時に、何気なく立ち寄った場所でもあったからだった。



真一(変わったなぁ…。整備されてる…)


コロナ禍ということもあってなのか、真一が訪れた時、人はいなかった。


真一は恋人岬にあるレストランに立ち寄った。真一はコーヒーを注文した。


店員「お待たせ致しました。コーヒーです」

真一「すいません。あの、少しつかぬことをお伺いしてもよろしいですか?」

店員「はい」

真一「この男の子、どなたかご存知ありませんか?」


真一はスマートフォンを取り出し、高橋の顔写真を女性店員に見せる。女性店員がまじまじと真一のスマートフォンの高橋の顔写真を見る。


店員「………、私は詳しくわかりかねますが、確か私の友人の知り合いだと思います」

真一「そうですか…。この男の子の名前はご存知ありませんか?」

店員「私はわかりませんが、友人なら知っているはずです」

真一「その友人はどちらにいらっしゃいますか?」

店員「電話してみないとわかりかねます。ところで、男性(高橋)のことで何か調べておられるのですか?」

真一「えぇ。彼、いま記憶喪失でして、手がかりになるものがないか、警察も調べているのですが、なかなか見つからないもので…。ただ、彼はこの柏崎出身ということはわかっていまして…」

店員「そうだったのですか…。友人に電話してみます」


女性店員は、私物のスマートフォンで友人に電話をした。


しばらくして、女性店員が真一のところにやって来た。


店員「あの…」

真一「はい」

店員「今電話がつながりまして、今からこちらに来るそうです。柏崎にはいるので、そう遠くないところにいるのだと思います」

真一「そうですか…。お手数をおかけします」

店員「あ、あと、お名前をうかがってもよろしいですか?」

真一「あ、私、堀川と申します」

伊藤(店員)「堀川さんですね。私は、伊藤と申します。これから来る友人は、丸山ひとみと言います。私と高校時代の同級生なんです」

真一「そうでしたか…。色々とありがとうございます」

伊藤「お役にたてたようで、何よりです。ひとみが来るまで、しばらくお待ちください」

真一「ありがとうございます」


真一は、ひとみを待った。

30分程して、ひとみがレストランにやって来た。


ひとみ「あの、堀川さんですか?」

真一「はい、堀川です。丸山さんですか?」

ひとみ「丸山ひとみです。はじめまして」

真一「こちらこそ、突然お呼び立てして申し訳ありません。どうぞ」

ひとみ「失礼します」


ひとみが席につく。ひとみもコーヒーを注文する。


ひとみ「それで、私にご用というのは…?」

真一「この男の子、ご存知ですか?」


真一がひとみにスマートフォンの高橋の顔写真を見せる。


ひとみ「はい。歩くんですよね。高橋歩くん」


真一がうなずく。

ひとみのコーヒーが届く。


伊藤「お待たせ致しました、コーヒーです」

ひとみ「ありがとう」

真一「…失礼ですが、あなたと高橋くんはどういうお知り合いですか?」

ひとみ「同級生です。幼稚園からの…。幼なじみなんです」


真一が心の中で呟く。


真一(やっぱりそうか…)


真一「そうですか…。ちょっとつかぬことをお尋ねしますが、『白線流し』という本、またはドラマをご存知ですか?」

ひとみ「本を読んだことがあります。青春ものでしたね。あの、何か…?」

真一「実は高橋くんは今、記憶喪失になっています」

ひとみ「え❗」

真一「それで今、警察の方で保護されています。事件性はないとのことでしたので…」

ひとみ「そうだったんですね…」

真一「一つ伺いたいことがありまして…、実は高橋くんの所持品の中に、『白線流し』の本が入っていました。なぜ持っているのか、本人は現在記憶喪失の為、理由がわかりませんでした。それと、身元引き受け人が高橋くんの親族がいない為、身元引き受けができないそうです。誰か知り合いとかがいたらいいのですが…」

ひとみ「私ではダメですか?」

真一「構わないと思います。ただ如何せん、いま彼は記憶喪失や。あなたが警察に出向いても、彼はあなたのことがわかるかどうか…」

ひとみ「…………」

真一「『白線流し』の本のことは何かご存じないですか?」

ひとみ「それは…多分、私のためだと思います」

真一「それはどういうことですか?」

ひとみ「私が高校の時に図書館で『白線流し』の本を読んでいたのを、歩くんが見ていたからだと思います。歩くんはわかっていないと思いますが、この本を読んでいた時、私、少し恋患いをしていました」

真一「そうですか…」


真一は、昔の自分と優香のことが脳裏に甦っていた。










(回想)

真一と優香が高校2年の秋、金欠病同士で初めて『デート』した。夕方、真一がバスで帰るのに優香が一緒にバス停でバスを待っている。夕方になると肌寒くなってくる。


優香「寒くなってきたね」

真一「ホンマやなぁ。大丈夫か?」

優香「うん」


真一が優香の手をさわる。


真一「冷たい手やなぁ。ほら、手袋」

優香「ありがとう」


真一は照れながら持っていた手袋を優香に渡した。優香も少し照れていた。


優香「寒いね…」

真一「うん。大丈夫か?」

優香「うん、大丈夫」


真一と優香はバス停のベンチに座る。バス待ちの人がいるにもかかわらず、優香は寒そうにしていた。


真一「寒いから、はよ帰った方がいいんやない? 風邪ひくで」

優香「大丈夫。しんちゃん見送ったら帰る」

真一「わかった。マフラーは?」

優香「大丈夫やから…」

真一「寒そうにしてるがな」


真一は優香の首にマフラーを巻いた。


優香「ありがとう」

真一「うん」

優香「しんちゃんは寒くないの?」

真一「大丈夫や」

優香「一緒にマフラー巻かへん?」

真一「大丈夫や」

優香「巻こう」


優香は真一のマフラーを少しほどいて、真一に半分巻いた。


真一「ゴメン、優香ちゃん」

優香「ううん、いいよ、しんちゃん」

真一「オレら密着してるけど、いいの?」

優香「いいやん。幼稚園の時とあまり変わらんやろ」

真一「そうかなぁ…。甘えたかったんか?」

優香「しんちゃんが私に甘えたいんでしょ?(笑)」

真一「いや、オレ何もないけど」

優香「顔赤いで(笑)」

真一「優香ちゃんも顔赤いで(笑)」

優香「しんちゃん」

真一「ん?」

優香「ありがとう」

真一「…うん」


優香は頭を真一の肩にもたれていた。真一は何も言わずに受け入れた。このときお互い、一瞬『幼なじみ』を越えた気がした。











真一「あの、彼は大学生ですか?」

ひとみ「えぇ。私と同じ大学に通っています」

真一「仲良いんですね…」

ひとみ「うーん、まぁ、幼稚園からずっと同じ学校に通っていますしね…。腐れ縁って言うやつじゃないですか…(笑)」

真一「そうですか…(笑) あの、差し支えなければここだけの話としてお聞きしたいのですが…」

ひとみ「はい」

真一「『白線流し』の本を読んでいた高校時代、『恋患い』をされていたとのことですが、それはひょっとして…」

ひとみ「…本当にここだけの話にしてくれますか?」

真一「はい。高橋くんの為にも…」

ひとみ「…そう思われているのなら、私が話すまでもありませんね…」

真一「そうですか…」



真一は大きく頷いた。そして真一は、最後にひとみにスマートフォンで顔写真を撮らせてほしい旨を依頼し、了承を得て撮影した。



本来ならこの後、柏崎で泊まるのだが、コロナ禍の状況を鑑みて、真一は南町に帰っていった。

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