第3話 『白線流し』の本を読む真一と優香の夢

翌日曜日、みつきが唯一の休日で、撮り貯めしていたビデオを見ていたので、真一は前日に本屋で記憶喪失の男の子が持っていた『白線流し』の本を買って読んでいた。


その後も手が空いている時に、来日くるひも来日も本を読んでいた真一だった。しかし、記憶喪失の男の子が探しているようものは見つからなかった。


ある日、真一は仕事で南町警察署にいた。会計課の上田と話していた。


上田「あの後、男の子の記憶は変わらんし、なんの手がかりもない。全国から捜索願が出てるような感じやないし、とりあえず刑事の1人が面倒見てるんですわ」

真一「そうですか…」

上田「なんぞぅ(何か)手がかりおまへん(ありません)か?」

真一「…いやぁ、わかりませんね…」

上田「事件に関わってる感じではないので、何か強い衝撃が男の子にあったんかもしれません」

真一「そうですか…」

上田「ただ、所持品から何か手がかりないか調べてたら、2個あった御守なんですが、この御守、松本の神社の御守のようでして…」

真一「松本? 長野県の松本ですか?」

上田「ええ…。なんで松本の神社の御守なのかはわかりませんけど…」

真一「そうですか…」


真一は思った。『白線流し』の本を読んでいて、物語の舞台が松本だったからだ。


真一(どうも『白線流し』と関係あるみたいやなぁ…。これは難儀な話になりそうやなぁ…)


真一「上田さん」

上田「はい」

真一「あの男の子、いまどこにいてますか(いますか)?」

上田「とりあえず、刑事の自宅で一時的に預かってます。なんぞぅおましたか(何かありましたか)?」

真一「ちょっと話が聞けたら…と思って…」

上田「担当の刑事呼びますわ」


上田が電話で刑事を呼ぶ。するとすぐに刑事が階段から降りてきた。


草野「南町署の草野です。上田さんから聞きました。男の子の件で何か?」

真一「本人には面会できませんか?」

草野「私の自宅におります。ご案内しましょうか?」

真一「よろしいですか?」

草野「事件性はないようですので、一時的に私が自宅で本人を保護しています。ご案内します」


草野が真一を自宅まで案内する。

警察署から車ですぐ、草野の自宅に着いた。


草野「おーい、お客さんや」

男の子「はい」


真一は記憶喪失の男の子と面会する。


真一「まいど」

男の子「あ、この前の(人)…」

真一「どうや、具合は?」

男の子「何も変わりません。記憶もないままです」

真一「そうか…。ちょっと確認したいことがあるんやけど…」

男の子「はい」

真一「あんた、『白線流し』の本を持ってるけど、あれは何か意味があるんか?」

男の子「それが…わかりません」

真一「もう一つ、御守を2個同じものがあったんやけど、あれは誰かに渡すんか?」

男の子「それが、誰かに渡すんだと思うのですが、誰かはわかりません」

真一「長野県の松本にある神社の御守のようやけどなぁ…。松本に心当たりないか?」

男の子「ええと…ええと…、うーん…記憶がありません…」

草野「私も同じ質問したのですが、こんな感じでして…」

真一「そうですか…。(男の子に)あんたが持っていた『白線流し』の本をオレも同じものを買って読んでるんや。そしたら物語の舞台が松本になっとんや。それと何か関係あるんやないんかなぁ、御守…」

男の子「不確かですが、本を見て御守を買ったのかもしれません」

真一「そうか…」


真一は草野に話す。


真一「この御守の話、警察で松本の警察に確認とってもらうことは…?」

草野「やってみます」


真一が草野の自宅を後にした。

警察署に戻り、草野から話を聞く。


草野「堀川さん」

真一「はい」

草野「堀川さんの言うてた通り、御守は松本にある神社の御守でした。長野県警から連絡ありました」

真一「そうですか…。何か祈祷とかしとらんのですかね…? もししとったら、氏素性うじすじょうがわかるかもしれませんね…」

草野「男の子の顔写真と併せて、長野県警に確認してみます」



それから2日が経った。真一の携帯電話が鳴る。


真一「もしもし」

草野「南町署の草野です」

真一「あ、どうも」

草野「先日は失礼しました」

真一「いえいえ」

草野「先日の男の子と松本の神社の件ですが…」

真一「ええ…」

草野「長野県警から連絡ありまして、例の記憶喪失の男の子が松本の神社に行って願掛けしてるのを確認しています。社務所でウラ(裏付け)とってます」

真一「そうですか…」

草野「それで、名前もわかりました」

真一「そうですか❗」

草野「名前は高橋歩たかはしあゆむ22歳。住所は…」

真一「はい、はい…え? 柏崎? 新潟県の?」

草野「ええ。それで身元引き受け人がおらんのです」

真一「え? それはどういうことですか?」

草野「身内、親戚関係がおらんのかもしれません」

真一「そうですか…」


真一が電話を切って、心の中で呟く。


真一(男の子の氏素性はわかっても、身元引き受け人がおらんのはなんでや? 柏崎(新潟県)か…。松本、柏崎、『白線流し』…。それに、なんで男の子は南町におるんや?)



その夜、真一は『白線流し』の本の続きを読んでいた。何かつながる話がないか、探していたが見つからない。




真一(ところで、なんで最近の夢は優香ちゃんが言う『白線流し』の夢ばっかりやったんや? 夢の中の優香ちゃんは、オレに何がしたいんや?)

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