夜中の人影4
道西は雨でぬかるんだ道を踏みしめていった。その後を賢寿丸たちが続いた。
「駒十郎の家から離れた所にもう一軒の家があって。そこの住人は夜眠れず縁側に出て涼んでいたという。」
道西が振り返る。
「そして、その住人は見ておったのじゃ。見回りをしていた男が二人で藪に入っていくのを…ほら、こないだの深雪狐の件で見回りが強化されたじゃろう。」
「はい。」
賢寿丸が頷く。
目代の館に忍び込んだ深雪狐を道西は見逃した。
賢寿丸も七重も同じくその事を誰にも伝えなかった。道西に固く口止めされたからだ。そして道西は桑次郎たちには深雪狐が自ら正体を現して館より立ち去ったと伝えた。
それ以降、深雪狐捕獲のために荘園周辺の警備が強化されたのだった。
「その見回りたちが久作を見つけたのじゃ。藪に入った所、悲鳴を聞きつけ駆け付けたらその先の原っぱで見つけたとな。そしてすぐに二人は代官の館に知らせに行った。近所の者はそれを見ておった。だが、その人は何事かと思ったが気にも留めず、また部屋に入り寝てしまった。」
地面は歩く度にぐちょっとぬめる。四人の草鞋に泥がねっとりと付き、道には四人分の足跡が出来上がる。
「ただ、その人は見回りの二人を見る前にも別の人影を見ていた。駒十郎が家から出たと思ったら、すぐにまた家の中に入って行く所を。それ以降、駒十郎が家より出て行こうとしている所は見ていないという。その次に見回りの二人が藪に入っていくと思ったらすぐに藪より出ていく所を見たのだ。」
家から出て…家にまた入って行く…。
「それって…。」
賢寿丸が清丸を見る。清丸も心当たりがあるようだ。
「もしかして…その人影は本当は私のことなのでは…」
「そうかもしれん。」
道西が大きく頷く。
「見回りの者は藪に入ってから悲鳴を聞いて駆け付けた。まだ息が少しあり見回りたちの前で事切れたという。もしも駒十郎が久作を殺したのなら奴はその時は原っぱにいなくてはおかしい。しかし近所の人が言う事を信じるとしたら駒十郎は家の中にいたことになるのじゃ。」
七重が声を上げる。
「じゃあ今、駒十郎は清丸さんと間違われて家にいたから違うってことになって、久作を殺したのは別の人となっているの?」
「ああ。そうとも。」
「でも。その人影は清丸さんなんだよね。じゃあ駒十郎は家にいたとは言えないでしょ。」
七重が訴えるように道西に言う。
「そうですよ。道西様。それなら清丸さんが駒十郎に追い出された理由が分かります。清丸さんが昨夜家から出た事を誰かに言ってしまったらバレてしまうから。」
賢寿丸がそう言うと横で清丸が「そういう事か」と納得し始めた。
道西は静かに首を横に振る。
「今はまだ早いのじゃ。近所の人が見た人影が清丸さんだという事。駒十郎が久作を殺した事をはっきりと示さぬ限りは奴は言い逃れしつづけるだろう。」
あと少しで駒十郎の家が見え始めた。
「だから、もう少し調べてみる必要があるようだ。駒十郎が言い逃れできぬようにな。」
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