深雪狐7
「道西様。岩辺様と父上の元に突き出してやりましょ。」
七重が強気に言うと深雪狐は「ひえっ」と身を震わせた。
深雪狐は正体を現した後、道西に取り押さえられた。そして今、彼に首根っこを掴まれて宙ぶらりんとなっている。
「そうするつもりじゃったのだが…」
道西は深雪狐を持ち上げて眺め、大きく溜息をつく。
「何か問題ですか?」
賢寿丸は頭の後ろで腕を組み、狐を眺める。後ろでは福丸がふふんと息をならす。
「こいつを岩辺様たちに差し出した時。せめて道連れにとこう言うかもしれんのだ。『館の中に狸がいます。』とな。」
道西が深雪狐に目を移した。すると深雪狐は道西から顔を背けて目を合わせないようにした。
「狸が…?」
賢寿丸ははっとする。七重も同じことを思ったのか二人は同時に目の前の狸を見た。福丸は深雪狐に威嚇をしている。
賢寿丸は福丸を抱えて道西の前に出した。
「道西様が父上に誰が狐なのかはっきりと言わなかったのはこいつを庇うためだったのですか?」
抱え上げられた福丸はじたばたと暴れる。
「…ああ…そのためじゃ。」
道西が頷く。そして深雪狐に向かって言った。
「深雪狐よ。お前は望月丸に張り合って館に入ろうとしたみたいじゃが。失敗に終わった。他の者に見つかる前に立ち去るがいい。もちろん狸の事は秘密でな。」
道西は障子を開け、狐を外へと放った。深雪狐は少し考え事して顔を上げた。
「分かったよ。でも私これで望月丸に負けたと思わないからね。」
捨て台詞を吐くと勢いよく駆け出した。たちまち彼女の体が風に包まれ飛ぶように去って行った。
「何だ‼あいつ‼」
福丸が深雪狐の姿を見えなくなるまで睨みつけた。
「おいらの父ちゃんが…」
「これ声が大きい。」
台詞の途中で福丸は道西に口を押さえられた。
もごもごする福丸を横目に賢寿丸が道西に尋ねる。
「大丈夫ですか?あの狐また何かやらかしてくるんじゃ。」
「その時も同じようにまた見破ってやるつもりじゃ。」
道西はやけに自信満々だ。
「道西様。」
尾花が駆けてきた。
「道西様。今、森の方で…あら福丸‼」
尾花は道西に抑えられている子狸に目をやる。
「この子ったら館に入り込んでいたのですか?」
そう言い福丸の首元を撫で始めた。
「見つかっちゃいましたけど。」
賢寿丸が道西に語り掛ける。
「あの尾花…こいつの事だけど…」
七重がしどろもどろに尾花に話しかける。尾花はこちらの事情を察したのか笑みを浮かべた。
「大丈夫です。七重様この子は皆様には内緒にしておきます。」
「ありがと…」
七重はほっと胸をなでおろした。
「ところで…」
賢寿丸が言った。
「今、森の方で何かあったんですか?」
「あっそうだ…」
尾花はハッと思い出して報告する。
「森の方で白拍子の八十菊さんが倒れているのが見つかったそうです。本人は長い事、寝かされていたみたいですが命に問題ないと。」
それを聞くと道西がカカカと笑い出した。
「そうか。本物は無事じゃったか。」
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