20  視界良好 ナナ編

 目の奥にあった強い光が薄れていく。ベットから身体の上半身を起こすと、ベットの向こう側にリリーがいた。その雰囲気はまるで、変わっていた。よく見ていたワンピース姿だが、スッキリした表情している。どこか、垢抜けた様子だった。ただ、瞳が左が黒、右が黄色のようなすこし明るい色になっていた。ただ、数秒したら、元の茶色の瞳に変わった。そして、リリーの近くにモントがいた。でもすぐに消えてしまった。そして、リリーが床にしゃがみこんだ。


「リリー、大丈夫なの?」

 ママがリリーの方に駆け寄って行った。ナナが起き上がっていることに気が付いていなかった。

「うん、少し魔力使い過ぎた。」

 リリーの久しぶりに聞く声が聞こえてきた。


「ナナ、起きていのか?」

 横を見ると、パパがいた。

「うん」

「そうか。」

 パパはナナとリリーを交互に見ている。落ち着かない様子だ。

「あの、ここは僕がいるので」

 そこにジュオンがやって来た。

「そうか、じゃあ頼めるかな。ナナもごめんな」

「うん、いいよ。リリーのところに行って」

「ごめんな」

 パパはそう言って、リリーとママのいる所に駆け寄って行った。そして、パパにリリーは抱えられて、病室を出て行った。その後を追うように、テイラ先生も出て行った。リリーの容態を診に行ったのだろう。


「ナナ、良かった。気分はどう?」

 ママは慌てて、こっちに来た。でも、どこかリリーが気になる様子だった。

「大丈夫だよ。リリーの方に行ってあげて」

「そう、じゃあ、ジュオンくん、よろしくね」

 ママは少しためらいながら、ジュオンの方をみた。

「はい」

「ナナすぐ戻ってくるから」

 ママはナナの頭を撫でて、病室を出て行った。


「気分はどう?」

 ジュオンに言われて、ハッとしてた。

「良好かな。」

「そうか」

 どうしても、リリーのことが気になって、ジュオンの言葉が入ってこない。


「ねえ、私の魔力ってやっぱり弱いんだよね」

 ユメが壁にもたれながら、言っている。ナナは、ユメは話すまで、病室に居ることに気づかなかった。

「まあ、リリーは本物だからな。」

 ジュオンがユメの方を見て、言った。

「そうだけど、モントが分身ってどうい事なのかな?」

「見張り役ぐらいいるだろう。」

 モントが分身って何だろう。ナナの頭の中はパニックだった。


「モントが分身って何?」

 ナナは恐る恐る聞いた。

「そう、ナナはそこら辺は聞いてなかったんだ」

 ジュオンの顔はすこし困惑してるようにも見えた。

「でも、分身ってできるのかな?」

「知らないけど、ナナを休ませるほうが先なんだけど。」

 ジュオンが、ユメの言葉にイライラし始めている。

「分かった。私は帰る」

「ああ」

 ユメはそう言って、病室から出て行った。ナナはジュオンと2人きりになった。

 

「ごめん、大丈夫だった。」

「どうして?大丈夫だよ。」

 ナナはジュオンが何が言いたかったのかよく分からなかった。

「気にしてないんならいいよ。ユメと会話すると、何となく怒りが湧いてくるから」

「そうなんだ。」

「でもよかったよ。ナナが無事で。」

「ありがとう」

 ジュオンが笑ってくれた。それが、嬉しくなってしまった。

「でも、リリーがどこか成長しているようで、悔しいかな」

「そう、まあ欠片を集めは、相当きついって聞いているし」

 ナナはジュオンの顔を覗き込んだ。

「ジュオンも集めてたんだよね?」

「まあ、集めたよ。基本的な色である赤、青、緑はね。ユメもだけどね。」

「うん、前に言っていた気がする。でも、リリーは基本的な色以外にも欠片を集めていんだよね」

「うん、そうだよ。説明が難しいんだけど、まあリリーの場合は、ナナの視界の色に関する関係もあって、赤、青、緑以外に、黄色と、光と闇を現す光闇の欠片も集めないと行けなかっただよね。この2つの欠片は本来は集めるのは17歳以上からなんだよ。」

「そうなんだ。」

「ごめんね。上手く説明できなくて。」

 

 病室のドアが開いた。モリンだ。

「なんで、ジュオンがいるんだ」

「ああ、おばあちゃん、そんな怖い顔しないでよ」

「私は怒ってないぞ。まあいい。で、気分はどうだ?」

 みんな、同じことを聞いてくる。当たり前なのだろう。ここ2日ほど、目を開けれなかったのだから。

「大丈夫です。」

「そう、それは良かった。」


 また、病室のドアが開いて、パパとテイラ先生が入って来た。

「リリーの様子はどうだ?」

 モリンが聞いた。

「本人曰く、『大丈夫だ』って。ただ、『魔力を使い過ぎた』とも言っていたわ」

「まあ、本当に使い過ぎたんだろう。今までは候補生として、魔力に規制がかかっていたからな。見習い魔法使いになってしまったから、魔力の制限は自分でしないといけなくなる。」

「あの、それは...」

 パパは、テイラ先生とモリンの会話に入って行った。

「とりあえず、リリーが落ち着いたら、アンガームの所に連れていく。」

「はあ、、、でもあの子は、もう魔法使いなんですよね」

「そうだ」

 パパは混乱するように、言葉が震えている。

「なぜ、あの子が魔法使いなんでしょう。私たち夫婦とも魔力など、ないんですが...」

「いや、血筋には魔法使いがいたはずだ。」

「それは...」

パパは、言葉を失っている。

「では、私は失礼する。リリーの病室は、昨日と同じでいいのか?」

「うん、そっちで休んでもらっている」

「そう、じゃあ。あとジュオンも早く、店に戻ってくれ」

「はい」

 ジュオンはバツの悪そうな返事をした。そして、モリンは病室を出て行った。


「ナナ、気分の悪いところとかはない?」

 テイラ先生の顔を見た。少し間が空いてしまった。

「あ、はい、ないです」

「そう、じゃあ、どうします? 今日中にでも、退院はできますが?」

 テイラ先生はパパの方を見て言った。

「ナナ、どうする?」

「うん、もう少ししたら、帰る用意する」

「そう、分かったわ。」 

 テイラ先生は、ナナの顔をみて、大丈夫だと思ったのか、病室から出て行った。

「じゃあ、僕も帰りますね。おばあちゃんに怒られそうなので」

「ありがとう、ジュオン君」

「じゃあ、また」

 ジュオンはそう言って、病室を出て行った。パパもいたので、引き留めることはできなかった。


 入れ替わるように、ママが入ってきた。

「ママもこっちに来たのか?」

 パパがママに向かって言った。

「うん。リリーが『すぐ行くから、先に行って』言われたの」

「そう」

「で、ナナも帰れそうなの?」

 ママがナナの方を見た。

「うん、テイラ先生も大丈夫だって」

「そう。」

 ため息交じりにママが言う。


「ママ」

 リリーが病室に入ってきた。

「ああ、リリー、モリンとの会話は終わったの?」

「うん、明日、神殿に行くことになったから。」

「それって、ママも付いて行ったらダメなの?」

「えっ?でも、アンガームが言動なんかは見えないんだよね。」

「そうだけど、心配だし」

「えっ、旅に出したくせに」

「リリー」

 パパが、ママとリリーの会話を止めた。リリーと目が合う。久しぶりだ。こんな顔の色だったんだ。赤の色でしかリリーの顔なんてみたことがなかったから不思議だった。

「ナナのためじゃないから」

「リリー」

パパが言う。やっぱり思ってたんだ。

「私、先帰ってる。疲れたし」

 リリーはそのまま、病室を出て行った。その後をパパも追いかけるように出て行ってしまった。


「大丈夫だよ、ママ」

「でも、」

 ママが気にしてることは分かっていた。

「何となく気づいてたし、魔法の欠片を集めることはジュオンに聞いたし」

「やっぱり」

「でも、ママとパパの血筋に魔法使いっていたの?」

 ママの顔が少し歪んだ。

「どうして、そんなこと聞くの?」

「なんか、さっき、モリンとパパの会話で血筋って言いたから」

「そうね。ナナには言っておいた方がいいわね。ママとパパのお母さんである、ナナ達のおばあちゃんが当たる人が居るんだけど。ママもパパもどちらも魔法使いだったのよ」

「どっちもなの?」

「そうね。ママもパパも、お互いに隠していたから」

「あっ、そうなんだ」

「でも、リリーが魔法使いになるとは思っていなかったのよ。それでナナに影響があるなんて、思っていなかったの。ごめんね。ちゃんと産んであげれなくて。」

「ううん、産んでくれてありがとう。ママとパパの元に生まれてこれてよかったよ」

「ありがとう」

 ママが泣きそうになってしまった。

「帰る用意しよう」

 ナナはそう言って、身支度をした。これ以上は、聞いてはいけない気がした。ママもパパも悩んでいたのだろう。それを責めることはナナにはできない。それに、目の視界が良好だったことが嬉しかった。もう、視界の色で悩むことが無くなった。この先、リリーは魔法使いとして生きていくのだろう。ナナは、やっぱり薬学を学んで、やっぱり薬剤師になりたい。


<続く>

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