イーストアン

19 帰還

 エモシャンの神殿の膜が通り過ぎると、1カ月前まで、箒の練習をしていたイーストアンの広場だった。そんなに経っていないのに、本当に懐かしい場所だ。下降して、地面に降りると、誰も広場だったが、ただずっと広がっている。リリーは本当に欠片を集める旅が終わったことを実感した。


「帰ってきたか」

 後ろから声がした。懐かしい声だ。後ろを振り向くと、モリンと、その後ろに泣きそうなラーナの姿があった。そんなに離れて時間を過ごしていないはずなのに、再会は嬉しい。

 リリーはモリンとラーナを交互に見て「ただいま」と告げた。ラーナが「おかえり」と駆け寄って来てくれて、ハグをしてくれた。


「どうだった?」

「それは、しんどかったですよ」

「そう、顔が引き締まっているようだから。よかったよ」

 モリンの声が懐かしくて、優しい声が、リリーの心を埋め尽くして涙がでそうだった。

「あの、それでナナは、視界は戻ったんですか?」

 リリーはそんなに気にしている余裕はなかったが、やっぱり気にはなっていた。 

「ああ、戻ったとも」

 どこか歯切れ悪いの声でモリンは言った。

「なんか、意識が戻らないんだって」

 モリンではなく、ラーナが言った。

「なんで?」

 リリーは、自分に不備があったのか気になった。

「うん、最後の欠片は光と闇に関するものだからな。ナナは視界の光の加減が慣れなくて、起きれないという方が正しい。」

「ふ~ん」

「ねえ、リリー、ペンダントが凄いカラフルだね」

「うん。そうだね」

 そいえば、カラフルだった。なんか濃い時間を過ごした気がした。


「じゃあ、そろそろ、行くか。」

「はい」

 モリンの声で、リリーとラーナは歩いて、広場を出て行くことになった。再会に少し酔いしれてしまった。


 広場を出ると、イーストアンの空は夜だった。今更、思い出す。広場の空はいつでも昼間の天気なのだ。でも、久しぶりのイーストアンの夜空が懐かしい。どこの街よりも落ち着く居場所だ。

「空は綺麗だね」

「リリー」

 涙が出ていきそうだった。

「少し小屋に寄るか。疲れているだろうし、すぐには帰れないだろう」

「そうですね」

 リリーも疲れてたいたので、すぐに家に帰れる体力がそんなになかったので、嬉しかった。3人は、そのまま小屋に行くことにした。

 懐かしい小屋について、中に入る。殺風景の中にある6人掛けの椅子に腰を掛けるとホッとした。


「少し、休んだら、ナナの入院してる病院に向かうからな」

 モリンが言って、少し小屋を出て行った。

「はい、飲んで」

 ラーナが、少し湯気が立っているカップを、リリーの前に置いた。懐かしい。ここに初めて来たとき、モリンに赤い液体を飲んだ記憶が蘇ってくる。あの時、魔法の魔も知らない状態だった。もう、魔法のない頃には戻れない。リリーはペンダントをみた。

「どうしたの?」

 目の前に座っているラーナが言った。

「うん、私って何ができるんだろうと思って、モリンみたいに魔法を使って薬を使うことは出来ないし」

「そうっか。」

 ラーナとだけ言った。何か困らせてしまったようで申し訳ない気がした。

「で、モリディカリの方は忙しかったの?」

 何となく、リリーは話を逸らしてしまった。

「うん、おばあちゃん忙しそうだった。私は箒で薬を配達していただけだどね」

「作るのを手伝ってたんじゃなかったんだ?」

「うん」

 ラーナは俯いてしまった。リリーは、何にかまずいことを言ってしまった気がして、何か言おうとした時、玄関のドアが開いてモリンが戻ってきた。ラーナに何も言えず、そのまま、病院に向かうことになった。



 病院まで、モリンとラーナに付き合ってもらった。その間、ラーナも気にしていたのか、薬の配達するときのエピソードなど話してくれた。でも、あまり耳に入ってこなかった。たぶん、お互いに離れていた間に距離ができてしまったような気がして、どう聞けばいいのか分からなくなってしまった。

 病院内に入ると、モリンの進むままにリリーとラーナはついて行くと、ある1つの病室に入った。そこに、ナナの姿もなく、ママもパパもいなかった。ただ、清潔で背の高い女医が1人いた。その女医にモリンが近づいて行き、

「テイラ、この子がリリーだよ」

 テイラと呼ばれた女医がこちらを見た。

「こんにちは、申し訳ないけど、今日は家族に会わせることが出来ないの。明日には、ナナの病室を案内するわ」

「どうしてですか?」

「今日は少し疲れているようだから、ここで寝てほしい」

「えっ、でも…」

 この女医も、モリンも何かを隠している。

「リリー、申し訳ないけど、今日はこのベットで寝てほしい」

 モリンに言われて、何となく悪いことはないと思ってしまった。

「わかりました」

 それにここで、疑問を追求したところで、意味がないし、駄々をこねるような子どもような真似もできなかった。

「リリー、何も問題はないから、心配しないで寝なさい」

 もう一押しするようにモリンが言う。ラーナも少し混乱気味で、「じゃあね、リリー、明日来るね」と言って、モリンと一緒に病室を出て家に帰って行った。


 シャワールームのある部屋だったので、シャワーを浴びた。でもなんか、急に寂しくなった。ペンダントを握って、ナナのいる部屋を透視しようと思ったが、どこの部屋にいるか分からなかったので諦めることにした。

ベットに横たわった。病室のドアが開いた。

「リリー、帰って来ていたのか?」

パパが病室に入ってきた。顔も声も驚いている様子だった。

「うん。でも今日は、やめた方がいいって、医者に言われたから」

「ああ、テイラ先生か。」

「うん、そんな名前だった。ただいま」

「ああ、おかえり」

 すごく不安そうな顔だった。

「何があったの?」

「いや...」

 パパはそう言って言葉に詰まって、何も言えないようだった。

「ねえ、もう今日は疲れたから、話なら明日にしてほしい」

「ああ、そうだな。じゃあ、ゆっくり寝なさい。」

 パパは、リリーの反応が意外だったのか、そのまま黙って部屋を出て行ってしまった。


 *


 朝、目を覚ますと、ママが寝ていた。ベットの横に椅子を置いて。そこに座って、ベットに両手を重ねた上に顔を置いて寝ていた。

「おはよう」

 ママ顔が気づいたのか、眠そうな顔を上げて言った。

「ただいま」

 笑顔だけど、少し混乱しているようにも見える。病室のドアがノックされて、人が入ってきた。昨日あった女医のテイラという人物だった。

「気分はどう?」

「いいですよ。絶好調ではないですが。」

「そう、元気そうで何よりだ」

「リリー、そんな態度は先生にとらないで。」

 ママが少し顔を赤らめて言っている。でも、なんで赤くなるのかは謎だった。

「じゃあ、ナナの病室に案内したいから、用意してくれない?」

「わかりました」

「で、お母さんは、外で話をしたのですが?」

「ああ、はい。リリー、着替えはそこに持って来たから」

 部屋の奥の棚に大きな鞄が置かれていた。1つの服でいいのに、なんであんな2,3日泊るような感じなのだろう。どこなく、ナナの入院を思い出す。ママはいつもあれくらいの鞄に荷物を詰め込んでいた気がした。

「わかった。ありがとう」

「じゃあ、着替えてここで、呼びにくるから待ってくれ」

 女医が言って、ママは一度、リリーの顔を確認して、女医と部屋を出て行った。どことなくママが顔を見ると、リリーに気を使っている気がした。昨日のラーナと同じだ。変な距離を感じてしまう。



病室の部屋にノックの音が聞こえた。

「リリー、用意できたか?」

パパの声だ。

「うん、もう行くの?」

「ああ」

「じゃあ、すぐ行く。

 リリーは、ママが用意してきてくれた何枚の服から、好みでもないが楽なかっこをしたかったので、ワンピースを身に着けて、ペンダントを首にぶら下げた。病室を出ると、パパがいた。昨日と同じで、どこか困惑している様子に見える。そいえば、弟のコリーはどうしてるのだろう。お土産なんて、買ってくるのを忘れていた。


「どうだった?」

 パパはどこか会話に困っている感じだった。

「何が?」

「旅だよ。」

「ああ、しんどかったかな。慣れない土地だったし、色々とね」

「そうか」

 それ以上の会話が続かなかった。エレベーターを2つ上に上がって少し歩いた先の病室のドアをパパは開いた。ナナの病室にだろう。パパの後について部屋に入ると、ナナはベットに寝そべっている。動く様子がない。

「リリー、光の調整する魔法とか知らないの?」

 女医が言った。

「えっ、知りません。」

「なんで」

 ママが叫んでいる。何らかの問題はあるのだろう。リリーには何もできなった。そこにモリンも入ってきた。そして、そこにラーナの兄であるジュオンと、どこかで見たことなる女の子が入ってきた。

「リリー、私のこと忘れたの?」

「はい?」

 女の子に言われて、身に覚えがなかった。

「まあ、別のクラスだったからね。ユメだよ」

 ユメ、、、そういえば、ナナと同じクラスだった人だった。制服を着ていないと、人の印象は変わってしまう。

 

 目の前が、一瞬、揺れた。病室内に、ニヒルの姿が現れた。

「モント」

 ユメという人が言った。リリーはよくわからなかった。目の前に居るのは、リリーの知る限り、エモシャンで会ったニヒルだった。

「リリー、君は僕が違う人に見えるんだよね」

 モントと言われた人が言った。

「まあ、そうですけど」

「うん、まあ分身してるから、どっちも僕だよ」

「どっちが本当の名前なの?」

 ユメが言った。

「ユメ、僕はニヒルだよ」

 ユメは絶句するように、黙ってしまった。ユメという人は、たぶん騙されていたのだろう。

「任務依頼だ。」

 リリーは呆気にとられた。任務依頼って何だっけ、エモカームも言っていた気がする。

「ニヒルって、ずっと指示しかしてこないよね」

「で、僕の言うことを繰り返してくれ」

 ニヒルは相変わらず、素っ気ない。

「なんですか?」

 リリーと何となく、反論することが面倒くさかった。

「ペンダントを握って、ナナに向かって『光と闇の聖霊よ。双子の姉であるナナの視界に光と闇の調整を行いたまえ、ライダークアイ』と唱えなさい」

言われた通りに、ペンダントを握って、唱えた。

 そこに明るい光と、暗い黒の光が現れて、ナナに吸い込まれた。そして、ペンダントが灰色に変わった。

「これで、1つの任務完了した。あと、ペンダントなしで、魔法が使えるようになった。後のことは、アンガームが知っている。」

 ニヒルはそう言って、消えてしまった。


<続く>

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