15 黄緑色の世界(ナナ編)
なんだか、空の色を理解すると不思議だった。ナナは自分が見える世界が色を合わせていくことに、折り重なっていく。こんな色のある世界で、ほかの人は生きていたのかと思うと、ズルいなと改めて思った。
今日も海を見ていた。今まで、来ようとは思わなかった。ここ最近、木の色が緑という名の色に見える。鮮やかで、どこか心を穏やかにしてくれる。それがどことなく嬉しかった。
「何を見てるの?」
男の声がした。見上げると、そこにモントがいた。その隣に、いつも一緒にいるユメの姿がある。モントは付き合っていないと言っているが、ナナからすると2人は付き合っているように見える。この2人とは、最近まで同じクラスメートだった。
「何か用?」
今すぐ、どこかに行ってほしいと考えを胸に留めて、ナナは2人に向かって言った。
「ナナって、今ままで、海なんか見に来ることがなかったよね?」
ユメは不快な声が、ナナの耳に届く。
「何か用があるなら、はやくどこかに行ってくれない?」
「別にないけど、ナナってインドアだと思っていたから、外に居るのが珍しいんだよね。」
モントは笑いながら言って、ナナが座っていた階段の横に腰かけた。
「もう用がないなら、どっか行ってほしいんだけど…」
ナナは1人の時間を邪魔しないでほしかった。
「ねえ、モント、向こうに行こうよ」
「いいじゃん。じゃあ、ユメが1人で行けよ」
「えっ、なんで、行こうよ。そんな女ほっといて」
「そもそも、僕たちは付き合ったないし、一緒に居る必要性なんてなくない?」
「なにそれ」
ナナは、隣で口喧嘩を始められて、うざくてしょうがなかった。
「ねえ、うるさいんだけど、どこか行ってよ。」
「なあ、僕と付き合わない?」
「はい?」
ナナは急な告白に呆気にとられる。
「何言ってんの?」
ユメが叫んでいる。
「ねえ、どうする?」
「嫌よ。あなたみたいな男はタイプじゃないから」
「お前って使えないな」
モントと目が合った。睨まれている。すぐにどこかに行くと思ったが、モントは動かない。ユメも何も話さず、立ち尽くしている。もう、ナナもここには居たくなくなって、立ち上がった。
「逃げる気?」ユメが言った。
「逃げるって何?私って、何も悪くないよね。勝手に来て、告白して来たくせに...なんか面倒なんだけど。じゃあ」
2人を置いて、ナナはそのまま歩き出した。モントの告白が、よく分からなかった。それに断り方が間違ってしまっていた気がした。でも、なんて言えばよかったのかナナには分からなかった。
cafeアレーズの前まで来ていた。この前、ジュオンと過ごした時間を思い出して、アレーズの建物を少し見つめていた。もう一度、ジュオンに会いたい。
「何、こんなところでボッーとして?」
振り返ると、ジュオンが居た。なぜ、来てほしいと思った時に居るのだろう。
「いえ、何でもないですよ」
「入る?」
ジュオンが店を指さした。
「でも…」
断る理由が思い浮かばない。
「まあ、休憩しようよ」
ジュオンに言われて、そのまま店を入るとこになった。
「僕も一緒に入っていいですか?」
モントが居た。なんで、この人は邪魔するのだろう。その後ろにユメの姿もあった。
「別にいいよ。」
ナナはどことなく断ってほしかったのに、ジュオンは断ってくれなかった。それを聞いて、2人きりじゃないことに残念な気持ちが込み上げてくる。4人は4人席で向かい会って座ることになった。前より緊張している。
「なんで、断ったの?」
ナナの隣にモントが座った。なんで、ジュオンじゃないのだろう。そして、向かいにジュオンが座った。
「君たち、どうしたの?」
ジュオンが言った。
「なんで...」
ユメがテーブルの横に立っている。ユメはモントと引き留めようと、入り口付近で腕を引っ張って、店を出ようとしたが、モントがどうしなかったので、ユメは諦めてついて来た。そして、ジュオンの隣にムスッとした態度で座った。
「それで、ナナって視界の色増えたの?」
ユメが言った。なんでそのことを知っているのだろう。ジュオンのように魔法使いではないはずだ。
「そんなに驚かなくてもよくない?そもそも、魔法使いなんてこの街にはいっぱい居るよ。」
「えっ?」
ナナは驚いて、固まっていた。
「君たちは、欠片集めに行かなくていいのか?」
ジュオンも、リリーが関わってることを否定していなかった。戸惑うこともなく、平然と2人と話している。
「ああ、あれ、もう集めたよ。リリーとは違うから。それに私は元から魔法使いだけど、モントはラーナと同じで、生まれつきじゃないよ。私は下層だからね。1週間ほどで、欠片は確保できたよ」
会話がナナにはまるで理解できなかった。なんで、リリーの名前が出てくるのだ。
「まだ全部じゃないみたいだよ」
ジュオンが言った。ナナにはさっぱり意味が分からなかった。
「ああ、そうなんだ。リリーの魔力って強いもんね。」
全く、話の意図がナナには理解できなかった。
「あのさ、」
ナナは思い切って言った。
「まあ、そうだよね。」
ナナが続き言おうとしたけど、その前にジュオンが話を終わらせてしまった。
「でも、いつか知る日は来るよ。その瞳の視界がリリーの影響で色がないことを」
ユメが言ってることが頭に入ってこない。ジュオンは、なぜか目の前でうなだれてるように俯いている。
「影響って何?」
ナナは思い切って、言った。
「だから、ここ最近、色が増えたのはリリーが欠片を確保したからよ。」
「リリーって魔法使いなの?」
それはナナではなく、モントが言った。
「モントって知らなったの? リリーが魔法使いってこと?」
「うん」
モントは俯いてしまった。
ナナは、頭が少し痛くなった。
「リリーが黄色の欠片の破片を1つ、見つけたみたいだね」
「何を言ってるの?」
ユメが言っていることがよく分からなかった。
「次は破片が3つで1つの欠片だからね。倒れることはないじゃない。」
「でも、なんで分かったんだ?」
ジュオンがユメの方向をみた。
「たぶん、私がアイズ魔法だからじゃない。」
「ああ、そう。」
ジュオンが納得している。
「少しリンゴジュースが薄く見えるでしょう」
ユメがナナを見て言った。そうえば、目の前にあるリンゴジュースが薄い色に見えた。
「もう、2人は今日は帰ってくれないか。ここのお金は俺が出すから。」
ジュオンがモントとユメを交互に見て言った。
「そうね。そもそも、モントもリリーが魔法使いって知ってると思ってた。」
先に、ユメが立ち上がって、歩いて行った。
「えっ、でも」
モントは少し声を出して、立ち上がって、歩き出して行った。
「ナナ、少し今日の話は理解できないことが多かったと思うけど、明日から2日間は気を付けてね。リリーが動いているみたいだから」
「あの、それってどういう意味ですか?」
「リリーは今、たぶん4つ目である黄色の欠片を集めている途中だ。あと2日で、黄色の欠片がそろうだろう。」
ジュオンが、言っている言葉が頭には入ってこなかった。
「ごめん、色々話し過ぎたかな。このことはまだ、両親に黙っていてほしい。3日後に、またここで会わないか。その時にもう少し詳しい話をするよ」
ジュオンに言われて、それ以上にナナも聞ける状態ではなかった。
★
2日間が不思議だった。ジュオンに言われた通り、頭痛がして、視界が少し、薄い部分が増えた気がした。2回、気絶するほどの痛みではなかったが、それでも激痛だった。ママたちに色が増えたことを言うべきなのか迷った。これまでのように、意識を失うことがなかったので、説明のしようがなかった。何も話さず、勉強して、平然を日常を過ごした。
★
アレーズに行くと、ジュオンとユメが向き合うように座っていた。
「どうも」
ユメが言ったので、少し腹立ってしまった。ジュオンと2人で会えると思っていたので、少し複雑な気分になる。ジュオンに隣に座るように促されて、そのまま座った。
「なんでユメが居るの? それに、モントは一緒じゃないのね?」
「うん、もういいかなと思って。なんか、すごい落ちんでるんだよね。それに、モントってナナが魔法使いだと思ってたんでしょうね」
「何それ?」
意味が分からなった。なんで、ナナが魔法使いだと思ったのだろう。
「今、その話はいらないよ。」
ジュオンに話を切られてしまった。
「そうですね。で、視界はどう?」
「まあまあですよ。」
「そう、で、何を聞きたいの? たぶんジュオンさんは気を使って話せないだろうから、私も一緒に行くように言われたんでしょう」
「えっ?」
ジュオンが驚くように、声を上げた。
「モリンに言われたんだけど。」
「えっ?! なんでおばあちゃんが?」
「お見通しなんじゃない。」
「まあ、いいけど」
ジュオンが不機嫌そうに目をそらしている。
「ユメはリリーの何を知っているの?」
ナナは何を言われて、頭を中をフル回転させる準備をした。でもナナもリリーとは、双子という関係以外で、それ以上でもそれ以下も知らなった。一緒に遊ぶこともなかったし、ただ、一緒に生まれて、毎日、同じの部屋で過ごした。それで、リリーのことなど何1つ知らなった。
「何も知らないわよ。ナナはこの休み中、リリーが遊びに行っていると思ってたんでしょう?」
「思ってたけど…」
それ以外に、何も言い返せなかった。それにユメにリリーのことを何も知らないと言われて動揺した。
「ふーん。そうだよね。リリーも両親が口止めはされたのでしょうし。」
「ママもパパも知ったの?」
「何で驚いているの? 知っているに決まってるでしょう。」
ユメがあっけらかんと言った。ナナだけが知らなかったのだろうか。弟のコリーはどうだったのだろうか。
「本当に何も知らないのね」
ユメの呆れるような声を出して、ナナの顔を見ている。
「ナナ、気にしなくていいと思うよ。君は何の罪もないんだから。ユメも
、そんな言い方しなくてもいいじゃないか。」
「知らないことが、いけないわけじゃないけど。何も知らないで、視界の色が増えたと思っているナナがちょっとね。。」
「だから、そんな言い方はやめた方がいい。これまで、ナナは何度も色んな薬を試して視界の色を増やそうとしたり、薬学などを調べて一生懸命だったんだからな。」
「それって、親が言わなかったからじゃないの?」
「ユメ、いい加減にしろって。ナナの家族の問題だろう。ユメには関係ない話だろう。」
「まあ、そうだけど。」
「リリーが、今、何をしているのかをユメは知っているの?」
ナナはジュオンとユメの会話を遮るように言った。
「さあ、でも大変なんじゃない。なんか、ちょっと...」
ユメは言葉を詰まらせている。
「えっ、本当に、何か知っているんだ。」
「まあねえ。欠片集めは、気力と体力がいるからね」
また、ユメとジュオンが会話をしている。どこか、疎外感をナナは感じてしまった。ナナだけが何も知らないのだろう。リリーはなんで欠片というものを集めているのだろう。でも、リリーはナナのために欠片というものを集めている感じはどうしてもしなかった。
<続く>
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