エモシセン

16 光と闇の神 エモカーム

 

 ノースジョイを離れる際、とても寂しい気持ちになった。

 アシッドは「気を付け行っておいで。エモシャンは、魔法使いとしての認定の場所でもあって、魔力を使う機会が増えるだろう。頑張って来なさい。」と言って、寂しさを紛らそうとしてくれた。 

 ベティも「自分の力を存分に発揮してきてね。リリーは自分を信じなさい」と言って、優しい眼差しで見送ってくれた。色んな言葉をくれる2人と別れるのは辛く、寂しかった。たった数日の付き合いのに、凄く親切にしてもらって、別れることが、とても嫌だった。最後にベティにハグされた時、寂しさが倍増してしまった。リリーは成長して、また、2人に会い来ようと、改めて思った。


 *


 空をただ浮遊するように飛んでいた。リリーは最後の欠片があるエモシャンという名の山に向かっている。その場所がどういう所なのかを詳しくは分からなかった。ただ、アシッドからエモシャンについて、アナリア島の中心に存在していて、魔法使い以外が見えないらしく。大きな膜で覆われているので、見ることはできない。そして、アリアナ島にある4つの街、イーストアン、グリサースト、ウエプレスト、ノースジョイが重なった場所にあるため、魔法使いの最後の関門と説明してくれた。 

 

 下はすべてが緑に囲まれているような森だった。そして、リリーの目の前を見ると、ただ青く澄んだ青空がどこまでも続いていた。もうすぐ、この欠片を集める旅が終わる。リリーは、この先のことは今すぐは考えることはことはできなかったが、このまま魔法使いとして生きるのだろうかと、どこか漠然に思えてきた。もう魔力を身に着けてしまうと、それ以外で生活できる自信がなくなってきた。ママとパパは元気かな。ラーナは今何をしているのだろう。モリンのお店は忙しいのかな。イーストアンが恋しくなった。そういえば、あまりイーストアンのことを考える暇がなかった。欠片集めに必死だったのだろう。

 そういえば、ナナは今どんな状態なのだろう。色のある世界を身に着けて、どう変わっているのだろう。それとも何も変わっていないのだろうか。ただ、目の色が戻ったことで、リリーには感謝はしないのだろう。パパもママも言わないだろうし、でもナナはどう過ごしているのだろう。まだ、薬学の勉強をしているのだろうか。


 目の前が歪んで見えてきた。少し息を飲んで、その歪みの中へと入って行く。そこを抜けると、目の前が、だんだんチカチカと点滅するように、明るかったり、暗かったりを繰り替えていく。何度か、瞬きすると、断崖絶壁のような山の斜面が現れた。空を見上げると太陽と月があり、半分は太陽の光で昼のように明るく、半分は月の光だけで夜のように暗かった。  

 木々のような緑が全く生えていなくて、すべて灰色の岩がむき出しの状態だった。どこか冷たい雰囲気に息を飲んでしまう。見上げると、少し上がった先に、頂上らしい所が見えた。

 山の頂上に神殿があることをアシッドから教えてもらっていた。リリーは頂上に向かうことにした。少し上昇しようとしたが、空気が重いのか、なかなか上昇しようとすることが出来なかった。ゆっくりと上がっていく。少し時間はたったが、頂上に辿り着いた。少し脱力感があった。地面に足を浸けると、じんわりと頭痛のようのものを感じる。そして、周囲と見渡した。少し右側に錆びれて崩れそうな神殿がポツリと寂し気に建っているのが見えた。それ以外に建物は一切なかった。

 リリーは神殿に歩いて近づいて行くことにした。近づくと、そこに錆びれて崩れそうな神殿が寂しそうに佇んでいる。壊れそうに少し傾いて、壁にひびが入っていた。入口のようなところも少し傾いていて、いつ崩れ落ちるのだろうと思ってしまう。崩れそうだなと思いながらも、リリーは神殿に足を踏み入れることにした。

 神殿の中はとても整備されているようで、外の崩れた感じとは少し様子が違った。神殿の奥に目を向けた。そこには、これまでと一緒で、きちんと石像が凛として存在していた。エモシカームだ。近づいて行くと、今までとは少し違ってみた。椅子に座っているが、鎖で胸から腹にかけて縛られている格好をしていた。今までの石像と一緒でドレスを着ている女性には変わりはなった。

 リリーは呼び出すことを少しためらってしまう。石像を見ながら、深呼吸をしてした。石像のエモシカームを見つめる。

「出でよ。エモシカーム。」

 頭のてっぺんから声を出すように声を張った。石像が黒と白のドレスに色が変わって、首すじまで伸びたストレートの髪の毛が金髪に染まった。

『何?』

 リリーはエモシカームの漆黒の目と見つめ合った。どこか冷たい印象が漂っている。

「あの?」

『ああ、候補生。久しぶりに見た気がする。』

「ご挨拶に参りました。アイズ魔法の候補生で、リリーと申します」

『そう、じゃあ、ニヒルを探してきて』

「はい?」

『ニヒルという、男が居るわ。あなたと同じ年くらいだから、すぐに見つかると思うわ。見つかるまで、私を目覚めさせないで。』

 エモシカームは目を閉じて、石像になってしまった。ニヒルという人物を探さないといけないのだろうか。

 神殿を出ることにする。どこか、途方に暮れそうだ。この強大な山で、ニヒルという人物は本当に存在するのだろうか。


<続く>

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