17 光闇の欠片

 神殿を出ると、岩で出来ている山の斜面がゴツゴツとしていて、周囲を見渡しても何もないような疎外感を感じる。それが冷たさにも思えた。山から見える視界は半分が明るく、半分が暗い。どこか孤独を誘ってくるようだった。それにさっきの神殿で見たエモシカームは美しかったことを思い出す。でも鎖に縛られている姿は、どこか痛々しく映った。自由を奪われているような複雑な気持ちが込み上げてくる。

 ここは試練なのだろう。感情に流されてはいけない。リリーは自分に言い聞かせるように、欠片のことを思い出す。ニヒルを見つけないと、たぶん欠片も見つからないのだろう。 

 リリーはペンダントから箒を出して、足の力を地面に込めて、飛び立とうとした。上手く飛べない。空気が重く感じて、なかなか思い通りに飛ぶことができなかった。こんな状態で、本当にニヒルが見つかるのだろうか。少し山の周囲を確認するように、下降しながら、山の周りをまわるように飛んでいた。ほとんど変わらない風景で、太陽のある場所は明るく、月があるところが暗い以外は何も変わらなかった。それに、魔物もいない。

 長い時間、飛んでいるはずなのに、地面がなかなか見えなかった。空を見上げると山の高さもあまり変わっていない気がしてきた。リリーは周囲を注意深く観察するように、山の斜面を見ていく。

 太陽の光と、月の光が重なっている場所が少し変な気がした。歪んでいる。別の空間を繋ぐ膜があるのかもしれない。リリーそこに近づいて行った。

 

「見つけたんだ」

 背中までの伸びた紫のような髪をして、戦闘服のような恰好の男の子が箒も使わず、浮かんでいた。目の色が両目で違った。右目は金色のような瞳で、左目はエモシカームと同じ漆黒の黒だった。

「あなたが、ニヒル?なんで箒を使ってないの?」

 男の子は、無表情でただ、リリーを睨んでいる。

「そうだよ。箒なんて使わなくても移動はできるよ」

 薄く乾いた声が聞こえてくる。

「そうなの。じゃあいいや。だけど、あなたをエモシカームに連れてくるように言われたんだけど」

 身体が浮かんでいることは気にはなったが、魔法使いであれば、そんなことがあってもおかしなことではないのだろう。それよりも、やはくエモシカームの所にニヒルを連れて行って、欠片の場所のヒントでも欲しかった。

「なんで、俺は行かないけど。」

 冷淡な声でニヒルが言った。感情を流されてはいけない。

「でも…」

「で、連れて来いって本当に言われたの?」

「えっ…」

 言われたはずだ。でも、探してこいとは言っていた。

「たぶん、見つけてくるように言われたんじゃない。俺は毎日、神殿に行って、エモシカームには会ってるし」

「じゃあ、私は見つけたってことになるんだ。じゃあ、一旦、神殿に行ってもいいことだよね。」

「欠片はどうするの?」

 また、ニヒルの乾いた声が頭に響く。遠くにいるのに声はちゃんと届いてくる。ニヒルの言っているように、本来は欠片を集めるのが目的だった。

「この先にある異空間に、魔物が4体いる。それを倒したら、この光闇こうあんの欠片を君に渡すよ。」

 ニヒルの手には、光っている部分と暗い部分が半々になった欠片をあった。

「4体?」

「そう今まで、集めた欠片の集大成だ。そんなに難しくと思うよ。」

 あの先に魔物が居って、どうことなのだろう。

「じゃあ、倒せたら出ておいで」

 リリーに有無も言わせないで、ニヒルは行くように促してくる。リリーは、仕方がなく膜に近づいてその中に入ることにした。

「じゃあね」

 そう言った。ニヒルの顔が少し歪んだ気がする。


 入ると、広く暗い空間だった。地面が見えない。真っ暗ではないが光がない。月が照らすような光のみで、魔物などいるようには感じではなかった。

 何も音もしない空間の中で、何をどうすればいいのか迷ってしまう。

「うひひひ」空から、声がした。上を見ると黒い粉のようなものが浮かんでいて太陽の光を遮っているようになっていた。

「僕をここから出して」幼い子どものような声が聞こえた。

「でも、どうやって?」

「君がグリサーストにやった魔法を思い出して、あと、最後にイーアイを付けるといいよ」

 リリーはあまり思い出したくはなかったが、キルトと行った岩の下にある砂を燃やしたことを思い出した。

「火よ。この一帯を燃やしたまえ、イーアイ」

 空、一帯が燃えていく。そして、光が差し込んできた。

「ありがとう」また子どもの声が聞えてきた。姿は見えない。

「どこにいるの?」

「うん、砂の中からは出れたよ。次は地面に水を増やすんだよ。これは透視魔法と遠近魔法で、水のある場所を探して、次は底を破壊するんだよ。それも火の魔法で行えるよ。『この一帯に穴をあけたえ、イーアイ』と言ってね」

 男の子は、そう言って、姿を現すこともなく声が消えた。透視魔法とは、ノースジョイでベティに教えてもらったものだ。地面をみると水が枯れてひび割れしている。

 リリーは男の子が言ったとおりに、地面を通しすることにした、

「水よ、地面一帯の中を見せたまえ、クリアイ」

 広い範囲を見た少し離れた先に水が見えた。そこに移動して、リリーは唱える。

「火よ。この一帯に穴をあけたえ、イーアイ」

そう言うと、水か噴水のように飛び上がった。そして、いつの間にか、一帯は海のように水が溢れていった。

「よく、できたね。次は、ここから4m以内を外に木々で生やしてほしい。風の魔法で印をつけれることもできるから。」

 遠近魔法か。また、男の子の声が聞こえなくなった。

「風よ、この4m内を印で囲いたまえ、ファーイ」

 白い線のようなものがリリーの半径4m内を囲むように浮かび上がれせた。

「火よ。印の場所に木々を生やしたえ、イーアイ」

 4m以内に木々は生え伸び始めた。

「うん、ある程度は魔法が使いこなせるようになったみたいだね。では、最後にこの中に欠片を隠したよ」

 男の声がニヒルに変わった。それでも姿は現さない。

「ニヒル?」

「うん、僕が魔物だよ。魔物だけど、襲ったりはしないよ。で、光闇の欠片を探してね。手に入れる方法は知っているでしょう。土の魔法ね。では健闘を祈るよ」

 そう言って、ニヒルの声が消えた。

周囲を確認する。たぶん、この4m以内にあるのだろう。光るものを探さないといけない。下をみて「水よ、水面の中一帯を見せたえ、クリアイ」というと、澄んだ水の中が見えた。そこに光るものがあった。それを「土よ、欠片を取り出したまえ、テイクアイト」というと、光が現れペンダントに入っていった。欠片の半分だ。あともう半分がどこかにある。それも闇の方だ。木の中かもしれない。リリーは木に近づいて、円を回るように、クリアイの魔法を使って木の中を見ていった。少したら見えた。黒い欠片だ。そして、それをテイクアイトの魔法で取り出した。そうすると、ペンダントに欠片が入って行く。これで、すべての欠片を集めることが出来た。少し、ホッとして、目を閉じて開いた。目の前は、山の斜面になっていた。

「これで、欠片は揃った。あとは、エモシカームに報告してくれ」

 ニヒルが目の前に現れた。

「そうだね。ありがとう」

「じゃあ、僕はこれで」

 ニヒルはそう言って、消えてしまった。リリーはニヒルのスピーディーな行動に、何も反応することができなかった。



 山の斜面を上がっていくが、どこかしんどくなった。箒から降りてないので、魔力が相当消費している気がした。

 山に頂上について、神殿を眺める。やっぱり壊れそうな建物に見える。中に入ると、相変わらず、鎖で縛られたエモシカームの石像があった。やっぱり、石像でも痛々しい姿に見える。


「出でよ。エモシカーム」

『おかえり。揃ったのね。もうニヒルの奴...』

 少し、エモシカームの声が低くなった。

「あの、これで終わりなんですよね」 

『そうよ。では最後に、称号を与えるわ。』

 ペンダントが光って、今まで集めた光が混合するように光を放って、銀色に変わった。

「これは?」

『称号だ。魔法候補生から、リリーは魔法見習いに変わった。魔法に関する任務依頼が来る。それを幾つを完了させれば、魔法使いとして認められる。詳しくは、イーストアンにいるアンカームに聞きなさい。』

「アンガームですか?」

『ああ、アンカームがリリーの守り神だからな。本来、生まれた街とかは関係ないだが、君は生まれた時から問題を起こしているから、アンガームが守り神が主になる。』

 エモシカームの漆黒の目がこちらを見ている。

「主がアンガーム」

『そうだ。じゃあ、神殿を出た先に、膜を張ったから、そこからイーストアンに帰りなさい。では気を付けない』

 そう言って、エモシカームは石像に戻った。リリーは一礼をして、神殿を出た。

 神殿が出てすぐ先に、膜のような歪んだ場所が見えた。


<続く>

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