14 黄色い破片③
空を見上げると、木々の茜色に染まっている。箒で、リリーは放心状態で飛んでいた。前でアシッドは、一定のスピードで前を飛んでいる。
ペンダントを握った。黄色の破片を手にしたのに、嬉しさがなかった。
アシッドが、降下していく。小屋のエントランスが見えてきた。玄関を入るとベティが駆け寄ってきた。
「大丈夫だった。」
リリーは抱きしめられた。なんだろう。大丈夫かと言われたら、そうでもなかった。でも、ベティに抱きしめられて、少しほっとした。ただ、もう女性と会うことはないのだろう。考えてもきっと意味がないのだろう。そうやって、言い訳をして罪悪感を取り除こうとしていた。欠片のために誰かを犠牲にしていることに、どこか、引け目を感じてしまう。
「明日は、最後の欠片が見つかるといいな」
アシッドは、リリーに笑顔で話しかけてきた。
「そうね。もう、夕食は出来ているわ。食べましょう」
ベティとアシッド言葉を呆然と聞いていた。
テーブルに何品か料理が並んでいる。
「明日は、たぶん、アルトとリールが来ると思うよ。」
「そうなんですか」
「ああ、最後だからね。彼らも何かあるんだろう」
アルトとリールが何をするのかは分からないが、彼らも何か役割があるのだろう。
*
朝、起きて1階に行くと、すでに、アルトとリールの姿あった。
「私が、居ない間に2つの破片が見つかってよかったね」
少し不満そうな声で、リールが言った。ただ昨日の出来事はあまり思い出したくはなった。
「で、今日は、どうするの?」
アシッドにリールが言っている。
「今日は、先にトカラの店『タッド』に行ってみるとしよう」
「また、会うんですか?」
リリーは、トカラに会いたくなかった。
「まあ、欠片の破片は繋がりがあるからな。それは、トカラだからな」
つながりって何だ等と思った。最初の1つがトカラの店で買い物したことで、2つ目はトカラからの依頼で、現者探しだろう。一応は繋がっているのかもしれない。
「じゃあ、出発しよう」
アルトに言われて、アシッドとアルトとリールと4人で、トカラの店に向かった。
アシッドとリリーが店に入った。ただ、アルトとリールは、店には入らず、外で待っていると言われて、入口の外で、中の様子と伺っている。
「いらっしゃい」
トカラがレジカウンターにいた。
「どうだい調子のほうは?」
「上々だよ」
アシッドが言って、トカラは初めて会った2日前より、どこか顔がスッキリした様子だった。
「最後の欠片は、隣の店にいるよ」
「いる?」
”ある”ではなく”いる”という言葉をリリーは繰り返した。ただ、アシッドは驚く様子もなかった。
「じゃあ、オリーのことだよね」
「そうだよ。彼が持っているよ」
その会話が、どうしてもリリーは嫌だった。また、何かを奪ってしまいのだろうか。
「そう。分かった。じゃあ、これで失礼するよ」アシッドが言って、そのまま店の外を歩き出して行く。その後を俯いてリリーはトカラに返す言葉が見当たらず、店の外に出た。
「どうだった?」
外に出ると、アルトが近づいて来た。アシッドも隣とだけ指を指しながら言って、それ以上の会話もなく、店の隣の家をノックした。そこから、女性が出てきた。
「こんばんわ。ラセさん。」
「アシッドさん、何か御用?」
「えっと、オリーは元気かと思って」
「まあ、うん、元気よ」
ラセという女性は少し戸惑った様子で、リリーたちを伺っているようだった。
「ちょっと、会わせてもらうことはできないかな?」
「まあ、いいですよ。どうぞ」
ラセが家の中に入るように、玄関ドアを大きく開けた。
「中ではなく、ここに連れて来てもらえませんか。長居するつもりはないので。」
「そうなんですか。分かりました。」
不思議そうな顔をして、ラセは、そのままオリーという人物を呼びに行った。ただ、4人は室内の奥には入らなかったが、玄関先までは入っていた。
「中に入らなくていいですか?」
「まあ、後で、ジョイカームの所に行かないといけないから、そんなに長くはいられないんだよ。それに、アルトとリールも、ジョイカームに用があるからね」
リリーは2人を見た。頷くような素振りだけみせた。
「何ですか?」
マスクをして、リリーと同じ年くらいの男の子が不快そうな声をしてや立っていた。この人がオリーなのだろう。
「オリー、そこに立って、舌を出してくれ」
「嫌です」
オリーは肩を震わせて、どこか動揺しているようにみえる。
「あの、それはやめてもらえませんか?」
ラセが言った。オリーはマスクを付けて、眉間に皺を寄せている。
「オリーが味を感じることが出来るかもしれませんよ?」
「そんな嘘、もう聞き飽きたんですよ。何人もの医者に連れて行って、何の効果もなかったんですよ」
ラセは呆れているような口ぶりだった。
「だまされたと思って、舌を出してほしい」
アシッドは、まっすぐにオリーを見て言った。オリーは、マスクを取ろうとはしなかった。
「やめてもらえませんか? もう帰ってもらってもいいですか?」
ラセが、オリーに目線を送って言った。
「分かった。」
オリーがマスクを取った。そして、舌を出した。それは、赤ではなく黄色だった。
「リリー、オリーの舌に『土よ、欠片の破片を取り出したまえ、テイアイト』と唱えてくれ」
アシッドが声に少し驚いた。リリーはアシッドとおれーを交互に確認する、戸惑いながらも昨日と一緒だったが、どことなく怖くはない気がした。リリーはペンダントを握った。
『土よ、欠片の破片を取り出したまえ、テイアイト』
リリーのペンダントに黄色い光を飛んできた。そして、オリーの舌がみるみる赤く染まっていく。
「どういうこと?」
ラセが言った。
「これ食べてみて。」
アシッドがクッキーの缶を差し出した。昨日行った女性の店のクッキーだった。オリーはクッキーを1枚とって口に入れた。
「あ、味って、これを言うんだ。」
オリーがそう言うと、ラセは泣いていた。
「すみませんが、私たちはこれで失礼します」
「ありがとうごます」
ラセがリリーの手を握って、泣いていた。
*
「じゃあ、あとはジョイカームに報告にいくか」
家を出ると、アシッドが言った。
「でも俺は、何もしてないけどね」リールが言って、「まあ、いいんじゃない。欠片はそろったんだし」アルトもそれに続いて言った。
箒に乗って、木々の間を通って下降していく。神殿に着いて、ジョイカームの元へと階段を降いていく。
『よく来たな。集められたようだな。君の使い魔の2人は役には立たなかったよだがな』
ジョイカームが言った。2人とはアルトとリールのことだろう。
「まあ、今回は私が付いていたので、彼らの役割も奪ってしまったようで」
アシッドが言った。
『まあ、いい。お前たちも黄色の欠片の確保の保証が認定された』
「本当に!!」
アルトが喜んでいる。リールも唇が歪んでいる。
「で、私はこれでよかったですよね」
『ああ、リリーよくやった。辛い目にもあっただろう。ここにある黄色の破片は奪うための魔法を使うために危険が伴う。悪い面にも作用するが、良い面にも作用することが出来る。まあ、今回はどちらも経験してもらったがな。次の街が、最後の試練だ。光と闇の欠片が隠されてる。今までのように、使い魔が居ないからな。十分気を付けなさい。では健闘を祈る』
ジョイカームはそう言って、石像に戻った。
*
神殿をでて、アシッドの小家のエントランスに着くと、アルトとリールが、「じゃあね、ありがとう」「気を付けるんだぞ」とリリーに言って、その場から、それぞれの街へと帰って行った。
アシッドと小屋の中に入った。
「おかえり」
ベティが笑顔で出迎えてくれた。
「出発は、明日にしなさい。」アシッドに言われて、もう1日泊っていくことになった。その言葉に甘えて、リリーはその日も家に泊った。そして、次の日、街を出ることになった。
<続く>
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