14 黄色い破片③

  

 空を見上げると、木々の茜色に染まっている。箒で、リリーは放心状態で飛んでいた。前でアシッドは、一定のスピードで前を飛んでいる。

 ペンダントを握った。黄色の破片を手にしたのに、嬉しさがなかった。


 アシッドが、降下していく。小屋のエントランスが見えてきた。玄関を入るとベティが駆け寄ってきた。

「大丈夫だった。」

 リリーは抱きしめられた。なんだろう。大丈夫かと言われたら、そうでもなかった。でも、ベティに抱きしめられて、少しほっとした。ただ、もう女性と会うことはないのだろう。考えてもきっと意味がないのだろう。そうやって、言い訳をして罪悪感を取り除こうとしていた。欠片のために誰かを犠牲にしていることに、どこか、引け目を感じてしまう。


「明日は、最後の欠片が見つかるといいな」

 アシッドは、リリーに笑顔で話しかけてきた。

「そうね。もう、夕食は出来ているわ。食べましょう」

 ベティとアシッド言葉を呆然と聞いていた。

 

 テーブルに何品か料理が並んでいる。

「明日は、たぶん、アルトとリールが来ると思うよ。」

「そうなんですか」

「ああ、最後だからね。彼らも何かあるんだろう」

 アルトとリールが何をするのかは分からないが、彼らも何か役割があるのだろう。



 朝、起きて1階に行くと、すでに、アルトとリールの姿あった。

「私が、居ない間に2つの破片が見つかってよかったね」

 少し不満そうな声で、リールが言った。ただ昨日の出来事はあまり思い出したくはなった。

「で、今日は、どうするの?」

 アシッドにリールが言っている。

「今日は、先にトカラの店『タッド』に行ってみるとしよう」

「また、会うんですか?」 

 リリーは、トカラに会いたくなかった。

「まあ、欠片の破片は繋がりがあるからな。それは、トカラだからな」

 つながりって何だ等と思った。最初の1つがトカラの店で買い物したことで、2つ目はトカラからの依頼で、現者探しだろう。一応は繋がっているのかもしれない。

「じゃあ、出発しよう」

 アルトに言われて、アシッドとアルトとリールと4人で、トカラの店に向かった。


アシッドとリリーが店に入った。ただ、アルトとリールは、店には入らず、外で待っていると言われて、入口の外で、中の様子と伺っている。

「いらっしゃい」

 トカラがレジカウンターにいた。

「どうだい調子のほうは?」

「上々だよ」

 アシッドが言って、トカラは初めて会った2日前より、どこか顔がスッキリした様子だった。

「最後の欠片は、隣の店にいるよ」

「いる?」

 ”ある”ではなく”いる”という言葉をリリーは繰り返した。ただ、アシッドは驚く様子もなかった。

「じゃあ、オリーのことだよね」

「そうだよ。彼が持っているよ」

 その会話が、どうしてもリリーは嫌だった。また、何かを奪ってしまいのだろうか。

「そう。分かった。じゃあ、これで失礼するよ」アシッドが言って、そのまま店の外を歩き出して行く。その後を俯いてリリーはトカラに返す言葉が見当たらず、店の外に出た。


「どうだった?」

 外に出ると、アルトが近づいて来た。アシッドも隣とだけ指を指しながら言って、それ以上の会話もなく、店の隣の家をノックした。そこから、女性が出てきた。

「こんばんわ。ラセさん。」

「アシッドさん、何か御用?」

「えっと、オリーは元気かと思って」

「まあ、うん、元気よ」

 ラセという女性は少し戸惑った様子で、リリーたちを伺っているようだった。

「ちょっと、会わせてもらうことはできないかな?」

「まあ、いいですよ。どうぞ」

 ラセが家の中に入るように、玄関ドアを大きく開けた。

「中ではなく、ここに連れて来てもらえませんか。長居するつもりはないので。」

「そうなんですか。分かりました。」

 不思議そうな顔をして、ラセは、そのままオリーという人物を呼びに行った。ただ、4人は室内の奥には入らなかったが、玄関先までは入っていた。

「中に入らなくていいですか?」

「まあ、後で、ジョイカームの所に行かないといけないから、そんなに長くはいられないんだよ。それに、アルトとリールも、ジョイカームに用があるからね」

 リリーは2人を見た。頷くような素振りだけみせた。


「何ですか?」

 マスクをして、リリーと同じ年くらいの男の子が不快そうな声をしてや立っていた。この人がオリーなのだろう。

「オリー、そこに立って、舌を出してくれ」

「嫌です」 

 オリーは肩を震わせて、どこか動揺しているようにみえる。

「あの、それはやめてもらえませんか?」

 ラセが言った。オリーはマスクを付けて、眉間に皺を寄せている。

「オリーが味を感じることが出来るかもしれませんよ?」

「そんな嘘、もう聞き飽きたんですよ。何人もの医者に連れて行って、何の効果もなかったんですよ」

 ラセは呆れているような口ぶりだった。

「だまされたと思って、舌を出してほしい」

 アシッドは、まっすぐにオリーを見て言った。オリーは、マスクを取ろうとはしなかった。

「やめてもらえませんか? もう帰ってもらってもいいですか?」

 ラセが、オリーに目線を送って言った。

「分かった。」

 オリーがマスクを取った。そして、舌を出した。それは、赤ではなく黄色だった。

「リリー、オリーの舌に『土よ、欠片の破片を取り出したまえ、テイアイト』と唱えてくれ」

 アシッドが声に少し驚いた。リリーはアシッドとおれーを交互に確認する、戸惑いながらも昨日と一緒だったが、どことなく怖くはない気がした。リリーはペンダントを握った。

『土よ、欠片の破片を取り出したまえ、テイアイト』

 リリーのペンダントに黄色い光を飛んできた。そして、オリーの舌がみるみる赤く染まっていく。

「どういうこと?」

 ラセが言った。

「これ食べてみて。」

 アシッドがクッキーの缶を差し出した。昨日行った女性の店のクッキーだった。オリーはクッキーを1枚とって口に入れた。

「あ、味って、これを言うんだ。」

 オリーがそう言うと、ラセは泣いていた。

「すみませんが、私たちはこれで失礼します」

「ありがとうごます」

 ラセがリリーの手を握って、泣いていた。


 

「じゃあ、あとはジョイカームに報告にいくか」

 家を出ると、アシッドが言った。

「でも俺は、何もしてないけどね」リールが言って、「まあ、いいんじゃない。欠片はそろったんだし」アルトもそれに続いて言った。

 箒に乗って、木々の間を通って下降していく。神殿に着いて、ジョイカームの元へと階段を降いていく。

 

『よく来たな。集められたようだな。君の使い魔の2人は役には立たなかったよだがな』 

 ジョイカームが言った。2人とはアルトとリールのことだろう。

「まあ、今回は私が付いていたので、彼らの役割も奪ってしまったようで」

 アシッドが言った。

『まあ、いい。お前たちも黄色の欠片の確保の保証が認定された』

「本当に!!」

アルトが喜んでいる。リールも唇が歪んでいる。

「で、私はこれでよかったですよね」

『ああ、リリーよくやった。辛い目にもあっただろう。ここにある黄色の破片は奪うための魔法を使うために危険が伴う。悪い面にも作用するが、良い面にも作用することが出来る。まあ、今回はどちらも経験してもらったがな。次の街が、最後の試練だ。光と闇の欠片が隠されてる。今までのように、使い魔が居ないからな。十分気を付けなさい。では健闘を祈る』

 ジョイカームはそう言って、石像に戻った。



 神殿をでて、アシッドの小家のエントランスに着くと、アルトとリールが、「じゃあね、ありがとう」「気を付けるんだぞ」とリリーに言って、その場から、それぞれの街へと帰って行った。

 アシッドと小屋の中に入った。

「おかえり」

 ベティが笑顔で出迎えてくれた。

「出発は、明日にしなさい。」アシッドに言われて、もう1日泊っていくことになった。その言葉に甘えて、リリーはその日も家に泊った。そして、次の日、街を出ることになった。


<続く>

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