13 黄色い破片②
「現者を探したところで、きっと何も変わらないんだけどね。もう、年齢的にも欠片を探す候補生ではないし。トカラも、なんでそんな事をリリーに言ったでしょうね。今まで、そんなこと言った事なんかなかったのに」
ベティは不満そうに言葉を並べている。現者という魔法使いはノースジョイのどこかにいるのだろうか。
「ただいま」
そこに、アシッドが帰ってきた。
「おかえり」
「どうしたの? そんな深刻な顔をして?」
「なんか、トカラがリリーに代者を探してくれって頼んだらしいの?」
「ああ、何それ。なんか通じるものがあるのかな」
アシッドは、ベティではなくリリーの方と見ながら言った。
「どういうこと?」
ベティは困惑している。
「通じるものって何ですか?」
リリーはナナのことを言われてることを分かっているくせに、アシッドに不満げに言葉を発してしまう。
「リリーに代者が居ることに、トカラは気づかなかったのかい?」
「えっ、リリーって代者がいるの?」
「ああ、気づかなかったのか… リリーは双子でその姉ナナって子が代者だよ。」
「だから、トカラが言ったのね。何となく分かったけど。ノースジョイに居るのかな?」
「だぶん、居るよ。いないと、トカラは言わないだろう。たぶん、ジョイカームからの試練だろう」
「まずは、リリーに基本的な2つのアイズ魔法を教えてあげてくれ。」
「分かったわ。明日でもいいよね?」
「ああ。」
2人は勝手に、リリーの魔法の習得について決めてしまっている。それに関して、何も言えずに黙ってしまった。魔法を習得しないと、欠片は見つからない。
「じゃあ、夕食にしようか。すぐに用意するね。」
ベティはそう言って、キッチンに行ってしまった。
アシッドは、ソファを挟んで座るリリーの方に顔を向けた。
「それでだが、僕はトカラの現者について、あまり探すことをお勧めしないだよね。」
アシッドは両手の指を交互に重ねて、口元に寄せて言った。
「どうしてですか?」
アシッドの表情を曇っているようにも見えた。リリーは身構えてしまう。
「そうだよな。ごめん。たぶん...」
「準備できたよ」
奥でベティの声がした。
「じゃあ。僕たちも行こうか。」
アシッドは、そう言って、たぶんの続きを話そうとはしなった。ソファから立ち上がって、料理が運ばれているテーブルの方へと歩き出した。
リリーも後についてテーブルの方へと歩いて行った。その続きをリリーは後でもう一度、聞くべきか迷ってしまう。
テーブルには、幾つか見たこのない料理が並んでいた。
「まあ、口にあうか分からないけど」
ベティとアシッドが目を合わせて微笑んでいる。
「いつも、候補生が来るとこのメニュー出すんだよね」
「じゃあ、いただきます。」
リリーは料理を口にした。肉で野菜が巻かれた物やサラダ、スープなどすべて美味しかった。
アシッドはさっきほどの曇った表情はなくなり、美味しそうに料理を食べている。
食事が終わると、何日かはここに泊ってと、ベティが2階の部屋を案内してくれた。
途中で、ベティが小声で「ねえ、私が料理を作りにキッチン行った後、アシッドに何か言われた?」と聞かれた。アシッドにお勧めしないとは言われたことを素直に伝えると、ベティは「そう」とだけ言って、それ以上このことについて触れてはこなかった。
「部屋にシャワールームあるから使ってね。で、明日の朝にアイズ魔法について教えるから。」
ベティが部屋を出て行って、リリーは1人部屋に残された。明日、アイズ魔法を教えてもらった後は、トカラの現者を探さないといけない。その方法も、現者が男性なのか、女性なのかも分からなかった。それになんで、アシッドは勧めないと言ったのだろう。たぶんと言いかっけた言葉の続きが気になる。でも、良くないことを言われるのだろう。今聞かなくても、分かることなのかもしれない。ただ、リリーは精神的にも肉体的にも疲れてしまっていた。シャワーを浴びて、髪の毛を乾かすと眠気が襲ってきた。そのまま、ぐっすりと寝てしまった。
*
「おはようございます。」
リリーがキッチンの方に言うと、ベティは笑顔でおはようと返してくれた。
もうすでに、テーブルには朝ごはんが出来ていた。
「食べ終わったら、地下にある部屋に行くから」
ベティにそう言われて、そういえば、アイズ魔法を教えてもらうことになっていることを思い出した。
地下の降りると、壁があった。そこが微かに揺れている。これはアンイーストにあった広場に入るときと同じな気がした。そこに膜があるのだろう。案の定、ベティは壁をすり抜けた。壁を通ると、白色で包まれた広い空間だった。その真ん中に大きなテーブルがレースで覆われているのだけが、置かれていた。そういえば、この小屋のような家も、もしかしたら膜で造られているのかもしれない。
「どうしたの?」
「ここって、膜で出来ているんですよね?」
「そうよ。膜の存在を知っていたんだ。」
「はい、アンイーストで飛行訓練の時に膜で出来ていた広場を利用していたので。それに、この家、全体も膜で覆われているのですか?」
「そうよ。外部にバレないようにね。」
やっぱりと思いつつ、気づかなかったことは致命傷な気もした。そういば、グリサーストの時の裏の街も膜をいつのまにか通っていたのかもしれない。
「では、透視魔法を教えるわ。」
「はい」
「箱を見て、『水よ、箱の中を見せたまえ、クリアイ』と唱えて。この箱の中にあるものを言って」
机の上に、箱が置かれた。リリーは、その箱を見て
「水よ、箱の中を見せたまえ、クリアイ」と唱えた。箱の中に丸くて赤い物が見える。
「リンゴですか?」
「正解よ」
少しホッとした。きちんと魔法が使えたことは何より、リリーを安堵させた。
「まあ、これは初歩的な魔法だから。続いては、遠近魔法よ。白い空間の遠くを見つめる感じで、『風よ、遠くの先にある絵を見せたまえ、ファーイ』と唱えて、この先30m先に絵が描かれているわ。」
リリーは遠くに集中した。
「風よ。遠くの先にある絵を見せたえ、ファーイ」
黄色いモノが見えた。すこしぼやけていて、きちんとした形は確認できなかった。
「たぶん、花ですよね」
「花は合っているわ。少し集中力のいる魔法だからね。初めてにしては、完璧なんじゃない。」
「そうですか」
「まあ、すべては最初から上手くいく訳じゃないからね」
ベティは励ますように言ってくれているのだろうが、リリーはどことなく落ち込んでしまう。
「それと対比する近くを見るときは、ニァーイというんだけど、これはあまり使う機会がないけど、一応は覚えといてね。基本的なアイズ魔法が透視と遠近魔法なのよ。けど、今日はこのくらいにしよう。午後から現者探し出し、あまり魔力の消費避けた方がいいから」
「はい、そう、ですね」
そうだ。トカラの現者を探さないといけないんだ。本当に見つかるのだろうか。
「じゃあ、上に戻りましょう」
ベティはそう言って、白い空間の膜の外へと歩いていく。リリーもその後を追った。
「リリーは、少し魔法は使えそう?」
階段を上がると、キッチンでアシッドが料理をしていた。
「まあ、上場じゃない。で、料理は出来上がったの?」
「ああ、今日はハンバーグを作ってみた」
テーブルについて、ハンバーグとサラダトパンが並んでいた。
「アシッドはテイストの魔法使いで、料理人だから、ほんと何を作って美味しいよね」
ベティは隣に座るアシッドを見て笑っている。
「ありがとう。」
2人の会話を聞いてると、居心地が悪かった。
「じゃあ。私は食器をあるね」
「手伝います。」
「いいわよ。たぶん、アシッドから話あるみたいだから」
ベティはそう言うと、アシッドは頷いて「座って」と言われて、リリーは元の椅子にもう一度、腰を掛けた。なんで食事中に話してくれなかったのだろうと心の中で思った。
「リリー、さっき、ジョイカームに会ってきたよ。相手は女性だ。年齢はトカラと同じ40歳だ。本人は魔法使いだとは知らない。」
「知らないって、どういうことですか?」
「どういうことだろうね。でも、リリーも自分が魔法使いであることは分からなったのだろう?」
「はい。そうですけど、パパ達に言われるまでは…」
「じゃあ、必然的に起きてしまうんだよ。それに女性とトカラは血縁関係がない。」
血縁関係がないって、どういうことだろう。リリーの血の気が一気に引いていくのを感じた。
「あの…、どういうことですか?」
「僕にもさっぱり分かんないけど、とりあえず、別の場所で同じ時刻に生まれたことだけで、現者と代者という立場に分かれてしまったんだよ。」
そんなことって、ありえるのだろうか。でも実際には起きていることだ。
「どうすればいいのですか?」
「一度、女性に会いに行ってみないか?」
「今からですか? それに、トカラの現者を探してくれって頼まれたのに、もう見つかったってことですよね。」
「ああ、そういうことになるね。でも、欠片の破片に関連することだからね。それに探すって、何の情報もなくては、無理だろう。探すだけではなく、他に何かあるのだろう。」
「他に何かって?」
「トカラは何をしようとしているのかを知っているのかい?」
「それは、知りません。聞いてないので。」
「トカラは、たぶん、現者から魔力を奪いたのだろう。現者が使わないのなら、代者が引き取ることが出来るはずだからね」
「そんなことって、本当に出来るんですか?」
「ああ、一応ね。血縁関係がないことが条件だけどね。」
「そうなんですか...」
なぜか、リリーはどこか沈んだ気持ちになった。欠片を集め終わったら、いっそのこと、ナナに魔力を渡したかった。
「まあ、血縁関係って、母胎が同じって意味でもあるからね。双子であるリリーの場合は母胎で何カ月も一緒だったから魔法の影響が強かったんじゃないかな。」
「影響ですか...」
影響か。それはリリーにはどうすることもできないが、ナナの疑った目を頭によぎった。その目と合うと、責められてる気分に襲われてしまう。
「で、僕も付き添うから、一旦、女性に会いに行かないか?」
「でも、突然、家に押し入っても...」
「押し入って?!そんな、大胆な想像されるとは思わなかったよ」
アシッドが大笑いしている。
「いや、家ではなく店に行くんだよ。トカラと一緒で、店を経営している」
「じゃあ、客として、店に入るってことですか?」
「そうだ。では、あと少しで出かけよう。準備できたら、下に降りて来てくれ」
リリーは、何も準備することが特になかったが、一旦、着替えて下に降りることにした。
階段を降りた踊り場で、アシッドとベティの会話が聞こえてくる。
「大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。リリーは、やるしかないのだかから」
「そう、仕方ないわよね」
何だろう。この会話は、とても不吉な気分になってしまう。呼吸を整えて、下に降りて行った。今の話を聞いていなかった振りをした。どこか、その不吉そうな話を今は知りたくなった。欠片を集めるには、もう後には戻れないのだから、何があっても乗り越えないといけない。そうやって、自分を奮い立たせるしかリリーはできなかった。
「じゃあ、行ってくる。」
「行ってらっしゃい」
沈んだ顔のベティに見送られて、リリーとアシッドは、トカラの現者とされる女性の元に行くことになった。
少し森の中を箒で飛んでいると、アシッドが人差し指を下に向けた。降下の意味だろう。アシッドはそのまま降下していくので、それに続いた。
木の道の踊り場に到着した。そのまま、アシッドが歩き出したので、リリーもその後について歩いていく。
「どうも」
そこにトカラがいた。
「どういうことですか?」
「僕が伝えた」
「じゃあ、私の役割は何ですか?」
「本来は、欠片の破片集めでしょう。」
アシッドはリリーをあしらうように言って、トカラに近づいて行く。
「君は、店の外で待ってて」
アシッドはトレカに言った。
「分かってるよ」
トレカの顔は少し怖かった。
「リリー、中に入ろう。」
どこか、緊張していく。リリーはアシッドの後について、『トウチャ』と書かれた看板の店の中に入った。女性が「いらっしゃませ」と声を聞こえてきた。店の棚に花の形をしたクッキーが並んでいた。焼き菓子専門の店だった。レジカウンターのようなところに40歳くらいに見える女性が立っていた。
「年の差の夫婦かしら」
「違いますよ。彼女は従妹です」
リリーはアシッドの従妹と設定にしていると事前には言われていたが、少し夫婦と言われて恥ずかしくなった。
「そうなんだ。夫婦に見えたのに、残念」
女性は、少し唇と尖らしていた。この人が現者なのだろうか。
「で、ここは1人で営んでいるんですか?」
「うん、この前、ママが亡くなって。1人でやることになったのよね。まあ、ほとんど客は来ないけどね。せっかく美味しく焼けているのに、誰も買ってくれないのよね。ママが居た時は、焼いたクッキーは売れたのに、私はクッキーだけはいつも売れ残るのよね。」
少し殺風景な店内だった。リリーの目からしても、繁盛しているようには見ない。それにこんな場所で、焼き菓子を買う人なんているのだろうか。
「なんか、急に外が暗くなったね。雨降るのかな?」
「さあ、どうですかね」
リリーが振り返ると、確かに雲で覆われているような灰色になっていた。でもさっきまでは晴れていた。アシッドが魔法をかけたようだった。
「ふ~ん。」
女性はそんなに気に留めている様子はなかった。
「で、あなたのお母さんは魔法使いだったの?」
「えっ、客じゃないの?」
女性は少し不愉快そうな顔になった。
「じゃないと言ったら」
「帰って、あなたと話はしたくない」
明らかに女性は不機嫌になった。ただ、女性は様子がおかしかった。追い出したのであれば、レジカウンターから出て来くればいいのに、女性は出てくる様子がなかった。
「足以外も、まともに動かなくなりますよ。」
「何を言い出すの?あなたに、何が分かるの?」
女性は右足を引きずって、レジカウンターから出て来た。歩きづらそうだ。
「リリー、彼女の右腕を透視してみなさい」
「どうしてですか?」
「そこに欠片の破片がある。」
まだ大丈夫だ。透視するだけだ。何も起きない。
「水よ。右腕の中を見せたまえ、クリアイ」
リリーは魔法を唱えた。女性はレジカウンターで右手を隠しが、レジカウンターを越して、リリーには手の平に欠片の小さな破片が見えた。
「見えた?じゃあ、抽出するんだよ。『土よ、欠片の破片を取り出したまえ、テイアイト』と言ってみなさい」
その魔法を唱えたら、女性はどうなるんだろうと不安がよぎった。アシッドは女性が逃げないように見張っているようだった。女性は店の中にあるドアを開けようとしたが、開かないようだった。
「リリー、はやくしてくれ。僕もそんなに長くは魔法が使えないんだよ」
アシッドの声で、リリーは焦ってしまう。でも、やるしかない。女性がどうなろうが、リリーには何も関係ないんだと言い聞かせて、呼吸を整えて、「土よ、欠片の破片を取り出したまえ、テイアイト」と唱えた。
女性の手から、黄色の破片がリリーの方へと飛んでくるように光って、ペンダントに吸い込まれた。
「イヤァー---」女性の高い声の悲鳴が店内を響き渡った。「右手が動かない」女性がそう言った。目には多くの涙をためていた。右手は骨が抜かれたように、伸びていた。
「では、これで、失礼します。」
「待って、どうしてくれるの?」
女性が泣き叫ぶ声を無視して、アシッドはリリーの背中を思い切って押して、店を出た。外には、満面の笑顔のトカラが立っていた。「ありがとう」と言って、姿が消えた。
後ろを振り向くと、さっきまであった店がなくなっていた。
「これは、どういうことですか?」
「今、入った店は、違う次元にあるんだよ。」
「また、膜を通して入った別次元ですか?」
「ああ、まあ、リリーの場合は膜が欠片を取りに行くための行為だから、今は場所を移動するためには使えないんだよ。まあ、欠片をすべて集めたら、移動はできるよ」
「彼女はどうなるんですか?」
「そんなの君が考えることじゃないよ。家に戻ろう」
アシッドは箒を出して、上昇していく。リリーはアシッドの後を箒で飛ぶことしかできなかった。女性がどうなったかを知る伝手はリリーは持っていなかった。
<続く>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます