09 水色の世界 (ナナ編)

 赤以外の色が見るようになったのに、ナナの心は、どこか穴が開いたように漂っている。病院から家を帰る間、空を見上げたり、海を見ていた。今までなら、すべてが赤く染まっていた。

 ナナは何度も空や海の色を確かめるように見ながら歩く。不思議だった。これが青という色なんだと確認するように眺めているが、不思議な感覚で、この視界が慣れない。ところどころ、2つの色が混ざった紫という色にも見える所もあった。それがさらに不思議を気分を倍増させる。

 

 

 朝起きて、目を覚ましても、視界がフラフラする。朝食も、コーヒーしか飲めなった。パパに「今日は家でゆっくり休みなさい」と言われた。ゆっくりと言われても、何かしていないと落ち着かない。何かやろうとはした。机で勉強したいが、色が増えたことで、視界が落ち着かない。少し頭が痛くなって、ベットに寝転んで、天井を見げた。ただ頭がボッーとしている。まだ、この視界の色の感覚には慣れない。気分的には悪くないのに、変な感覚だ。ふと、隣を目線を向ける。相変わらず、カーテンの向こう側にはリリーはないのだ。今もどこかで楽しんでいるでのだろうか。そんなことを考えるだけで、ズルいと思ってしまう。

 瞬きをして、天井を見返す。今まで、あれほど、視界の色が増えることを望んできたはずなのに、嬉しくない。それに、あまりにも実感がない。あまりにも簡単に見えている色が増えている。何もせず、自然現象で色が増えた。なんで、あれほど努力して薬を飲んできたのだろうか。意味がない気がして、苛立ちが募ってしまう。

 それに、病院でナナの前で明るく振る舞うとするパパやママの姿に見ると、何も変わっていない気がした。

 どこかで、もしかしたら、また赤い世界に戻るのではないかと思っているのかもしれない。そう思うと、ナナも不安になってしまう。また、赤の世界に戻るのは嫌だった。


 ベットから立ち上がって、机に座ってもやる気が浮かばなかった。気分が落ち着かず、何か食べようと、キッチンに降りることにした。1階に降りると、さっきまで居たはずのママの姿はなかった。買い物でもでかけているのだろう。今日はいつものように誘ってくれなかった。ナナが疲れていると思われたのかもしれない。

 ガチャと玄関のドアが開く音がした。コリーだ。

「ああ、ナナお姉ちゃん、どこか出かけるの?」

「うん、留守番してくれる?」

 なんで、こんなことを言ってしまったのだろうか。なぜか、家を出ることになってしまった。

「わかった」

 コリーはキッチンの方を見て、ママが居ないことを確認して言った。ナナにママが居ないかを聞く様子はなかった。たぶん、リリーだったら、ママはいないの?と聞いていのだろう。

「じゃあ、行ってくる」

 そのまま、ナナは家を出た。いつもリリーを意識してしまう。家族といてもこうだった。心地ちが悪かった。何か食べるために1階に降りたのに、そのまま勢いで、家を出てしまった。何となく戻ることもできず、ゆっくりと、丘を降りて行く。そこは赤と青も見えて、その2つの色が混ざった紫という色に見えた。

 道路を挟んだ向こう側にcafe店があった。リリーが友人のラーナと来るアレーズという店だ。

「どうしたの?」

 後ろから、誰かに話しかけられた。ジュオンだ。ラーナの兄で、今はナナが行こうとしていた薬学が学べるメディカリート学院に通っている。

「いえ、別に。」

「じゃあ。お茶でも付き合ってくれない?」

 ナナは少し驚いた。ナナは手ぶらだった。お金を持っていなかった。でも何か口にはしたかった。

「おごるからさ。」

 ジュオンはナナの手を引いて、店へと歩き出した。ナナも手を振りほどくことが出来ず。そのまま、アレーズの店内へと足を踏み入れてしまった。


「まあ、立ってないで、座ってよ」

 ジュオンに言われるまま、ナナは椅子に腰かけた。

「あの、」

 話そうと思ったが、ジュオンが持っていたメニューから顔を上げて、ナナの方を見た。

「何飲む?」

「なんでもいいです」

 ジュオンに、なんで、店に誘ったかを聞きたかったが、ニコニコと笑っているジュオンに言葉を失っていた。

「じゃあ、リンゴジュースでいい?」

「はい。」

 何でもよかった。それに初めて、アレーズに入った。リリーが来ていたから、入ることを避けていた。そんなリリーも今はこの街にはいない。

「ここのリンゴジュースが好きで、さあ。あ。ごめんね。俺ばっかり話してしまって」

「いえ、こちらこそ、すみません」

 たぶん、ナナの顔が仏頂面だったからだろう。いつもそうだ。人の話を聞いていても、表情がいつも怒ってるようになってしまう。気を付けたいが、自分の顔がどうなってるか確かめようがなかった。

「ナナちゃん、視界の色が増えたんだって」

 少し驚いた。なんで、ジュオンがそのことを知っているのだろうか。戸惑って、すぐに言葉が出なかった。

「あ、はい。まあ、そうです。でも何で、視界ことを知ってるんですか?」

「ああ、うちのおばあちゃんから聞いたんだよ」

 モリンのことか。そうだった。モリンはジュオンのおばあちゃんだった。どこか納得してしまった。

「そうでしたか、、、」

「でも、あれだけ薬試して、呆気にとられたでしょう。」

「薬試験は受けますよ。まあ、呆気にはとられてますけど…」

「気を落とさないでね」

 落としてるようにみえてしまっていたのろうか。

「ごめん、ナナちゃんって、今もメディカリート学院を受けるつもりなの?」

 それを聞かれて、少し戸惑った。そのつもりだった。でも、今は少し気持ちが揺らいでいる。

「ごめんね。なんか気になって、」

「気になる?」

「うん、だって君は、自分の視界のことでいっぱいだったのに、なんか今はどこか、気が抜けた感じにも見えたから」

「そうですね。何もしてないのに、急に色が増えたから」

「急じゃないよ」

 ジュオンの声が少し小さかったが、はっきりと聞こえた。

「急じゃないって、何ですか?」

「あ、ごめん。聞こえたんだ。気にしないで」

「どいう言う意味ですか?」

「ほんと、ごめん」

 

 急にナナは立ち眩みのような、色が増えた時と同じよな感覚に襲われた。「大丈夫?」ジュオンの言葉が遠くなっていく。



 目が覚めると、2日前と一緒だった。また、違う色が見える。色が薄かったり、濃かったり。

「目、覚めた?」

 ベットの脇に、ジュオンがいた。

「すみません。急に倒れてしまって」

「いいよ。で、僕がおばあちゃんの代わりに魔法使うね」

「魔法使えるんですか?」

「まあね」

 ナナはジュオンを不思議な気持ちで見てしまった。知らなかった、なんで魔法が使えるのに、メディカリート学院に通っているのだろう。

「じゃあ、やるね」

ジュオンはナナの目を覆うように右手をかざした。


『ナナの見ている世界を浮かび上がらせたまえ』


「うん、緑だね。これで3色は集まったよだね。」

「どういう意味ですか?」

「まあ、時間が経てば分かるよ」


病室のドアが開く音がした。テイラ先生だ。

「緑でした」

「なんで、勝手に調べた?」

「いいじゃないですか。おばあちゃんが来ても同じでしょう」

「まあ、いい。ジュオン、お前は興味本位でいらないことをしないでくれ。」

「じゃあ、僕はこれで帰るね。ナナちゃんもじゃあね」

 ジュオンはそのまま、部屋を出て行った。

「ナナ、気分はどうだ?」

「別にそれほど、何も。」

「そうか。ただ、ジュオンの言われたことは忘れなさい」

「どうしてですか?」


「ナナ、大丈夫?」

 ママが病室に入ってきた。

「少し休んだら、今日はもう帰ってもいいですよ」

 テイラ先生はママに言って、病室を出て行ってしまった。ナナはジュオンが言ったことは忘れなさいとなぜ言ったのかを知りたかったけど聞くことができなった。

「よかったわ。もう…ちょっと用事があって、家を出て行っていた間に、外出するとは思わなかったわ。」

 ママは言葉をかみ砕くように、本音を言わず、ナナをギュッと抱きしめてくれた。ママの温もりを感じると、やっぱり安心してしまう。

 

少し休んで、歩いて帰ることになった。海の方を少し見ると、青の色の濃さが少し薄い部分があることに初めて気づいた。


<続く>

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