ノースジョイ
10 土の神 ジョイカーム
すべてが緑に生い茂った木のみでを覆われている。空からは何1つ地面の様子など見えることはなった。なんだろう。この疎外感は。欠片を集めたはずなのに、何も達成感が得ることがなかった。双子の姉ナナの目には青や緑は見えるようになったのだろうか。確認することさえできなかった。アンイーストを出て、1週間しか経っていないのだろう。あまりにも激動だった。滞在が、グリサーストもウエプレストも、ともに2日間づつしか過ごしていない。あまりにも簡単に欠片を手に入れらている感触もあった。
「地上に降りないの?」
後ろから声が聞こえてきた。箒に跨ったアルトだ。
「何でここ居るの?」
「さあ、なんでしょうね?」
おどけた顔でリリーを見ていると感じて、少し不愉快な気分になった。
「まあ、怒らないでよ。プレジャカームが心配だから、『護衛してきて』って言われてからよ。」
それに何で、アルトは箒に乗っているのだろう。
「そんなに見ないでよ。私は魔法使いだから。ごめんね。騙しちゃって。そんなに怒らないでよ。」
アルトに何度も怒ってると言われて、少し腹が立ってしまっていた。
「別に怒ってません。」
リリーはアルトから視線を外した。
「だったら、いいけど。ここのノーストジョイの神殿は地下深いところにあるんだよね。だから空からは確認できないよ」
「えっ、そうなの?」
「あそこに、一旦降りよう。」
あそこと言われても、全くどこか分からなかった。アルトに言われるがままに、木と木の間にウッドデッキのような場所があった。そこに、アルトが降り立って、リリーも一緒に降りた。
「ここは周囲が木に囲まれていて、道もすべて、木と木の間に造られているから、すぐに地上に降りる不可能なのよ。」
ウッドデッキを囲う柵から、下を見た。すごく高い位置にあって、下が見えなかった。
「木々が成長しすぎなのよ。」
アルトは不満そうに言った。それを聞きながら、リリーは焦っていた。まずは、神殿に行かないといけないのに、なぜか知らず知らずのうちに、アルトの後を付いて来てしまったのだろう。
「あのさ、今まではある程度、簡単に欠片は集められたと思うんだけど」
アルトに言われて、リリーはアルトの方を見て、ムッとっしてしまった。
「簡単ではないですよ。」
アルトの言う通り、簡単だった感触はあったの事実だ。だけど、人が欠片に変化するなど、あまり気分のいい手に入れ方ではなかった。
「簡単って言ったことは謝る。でも、これは試練だから。すべて守り神の仕業でしょう。今まである3つの欠片は魔法使いにとって、基本的な欠片だから、ある程度、すぐに手に入れらるようにされているのよ。でも、これからは違う。」
「何が違うんですか?」
リリーはどこか流すように、問いかけた。
「そうね。まあ、今まで通りに守り神からの試練はあるのよ。すぐに、どんな試練のことが分かるわよ」
いままでも、何が試練だったのかはよく分からないままだった。どこか釈然とした返答に不快さしか残らなかった。
「あの、私、今すぐにでも神殿に行きたいんですけど。」
「そうね。もうちょっと待って、もう1人来るから」
もう1人って、そんな話を聞いていない。気分が滅入りそうになる。アルトがこちらを見て、少し笑っている表情していた。
「なんですか?」
「リリー、あなたは会ったことあるわよ」
「今から来る人とですか? どこでですか?」
「グリサーストで」
「えっ、キルト?」
「いやー。まあ、キルトの孫よ」
「ああ、あの若い女性ですか?」
「えー、女に化けてたんだ。」
リリーは頭を抱えそうになっている。アルトの真意が見当たらない。
*
「お待たせ」
1人の男性が降りてきた。その顔は、グリサーストで欠片に変わった男の子、キルトだった。
「君は本当に驚くね。たぶん、僕の顔した奴が、青の欠片になっていたのかな?」
リリーは返答に困って、硬直してしまった。
「本当に、グリフカームは性格が悪いからね。あれはよく人を玩具にするから、気を付けたいね。」
「あっ、はい」
顔が同じなのに、中身がは全く違う。
「話は終わった?リール?」
リール?って、もう、言葉に詰まりそうになる。
「ああ、じゃあジョイカームの所に行きましょう。」
2人は箒を跨いだ。そして、リリーの方を見た。リリーは慌てて、箒に跨った。
「森の中を通るから、見失わないでね」
アルトはしっかりリリーの目を見て言った。
「あ、はい」
「あと、神殿に着くまで、何も聞かないでね。」
「分かりました」
何で話してはいけないのかを聞きたいのだが、さっきと違ってアルトは真剣な顔をしていた。だから、聞いてはいけない雰囲気がして、何も言えなかった。
リリーの前にアルト、後ろにリールという男性が縦に並んで、森の下へとゆっくりと降下して進んで行った。
光が入らないほどの暗さになっていく。でも、アルトもリールも、魔法で明かりを灯そうともしなかった。暗くて、静かなこの空間に息が詰まりそうになる。それに、どこか恐怖さえ感じ始めていた。
「地上だ。降りるぞ」
リリーの隣で小さな声がした。リールだ。誘導されるまま、地上に足がついた。
「この下だ」
リールに言われて、下を見ると階段があった。その両端に街灯があって、それらが上から下へと光が付いていく。
「本当に、何でこんな所に神殿を造ったんだろうね」
アルトはウッドデッキの時と同じように不機嫌そうに言った。
「さあなあ。ジョイカームの趣味だろう。行くぞ。」
リールは階段の降りて歩いていく。
「リリー行くよ」
「はい」
アルトが隣を歩いてる。
「ねえ、リリー、ウエプレストの出来事って、ある程度は本当の出来事だから。ママは、生まれつきではないけど、魔法使いで、妹のソルトは魔法使いではないのよ。本物のリールは前を歩いている彼だから。ウエプレストで名乗っていたリールは私が、男に化けていただけだから。」
聞いてもいないのに、アルトが急に言い訳のように話を始めた。
「あっ、でも、なんでプレジャカームは、すぐに旅立つように言ったのだろう。」
リリーはプレジャカームの言葉を思い出して口にしてしまった。アルトがこちらを見た。
「う~ん、知らない。でも、何かあったんじゃない。」
「何か...」
「そう何か。気にしない方がいいわよ。守り神は気まぐれだから。」
「それはどいうこと…」
リリーは、よく分からなかったし、どこかアルトが核心を避けてるようにも感じた。
「ああ、やっと階段が終わったね。なんかあるよね。神殿の階段とかは箒使えないようにするのやめてほしいな」
神殿の扉から、うっすら中から光が差し込んでいた。
「なんで、中から光が…」
リリーはつぶやいてしまった。
「これが守り神が神殿を守っている証拠でしょうね。」
隣で、アルトが怒ったように言っている。
「入るぞ」
リールが扉を開いた。中は、すべて太陽に光がさしこんでいるように、明るかった。
「じゃあ、リリー、ジョイカームを目覚めさせて」
椅子の肘置きに右手の腕を置いて、頬杖をしている女性の石像があった。膝丈くらいの短いドレスを着ている。髪の毛が後ろで団子のようにまとまられていた。
「何を見惚れているの?」
「あ、すみません。出でよ。ジョイカーム」
『おはよう! あら3人もいるの?』
ジョイカームは目を覚ましても、頬杖をしたままで、足を組み直しながら、3人を流れるように見ているようだった。リリーは、誰かに腰が押された。右に居るのはアルトだ。まあ、挨拶をしろという合図だろう。
「ジョイカーム、リリーと申します。挨拶をさせていただきにここまで来ました。」
「こんばんは、アルトです」
「僕は、リールです」
『そう、候補生はリリーという1人の子だけね。他の2人は落第者ね。それに、使い魔なのね。大変ね。』
リリーはアルトとリールを交互にみた。落第者とは、使い魔とはなんなのだろう。
「なので、リリーの護衛をしています。」
リールが言った。アルトも頷くしぐさをした。
『ああ、使い魔を2人も付けるとは、リリー、君もすごいな』
よく分からず、呆然として知った。
『まあ、いい。ここには黄色の欠片がある。私も使い魔を放っている。人間とは限らないぞ。では、欠片を見つけることができたら、またここにおいで』
「承知しました」
それはリリーではなく、アルトが言った。
『頑張ってね』
ジョイカームは、リリーを見て言った後、石像に戻った。
「出よう」
リールが言って、神殿の外の扉の方に歩き出していた。アルトもすでに歩き始めていた。リリーも2人についていくことしかできなかった。ジョイカームの、あのヒントで、欠片を集めることが出来る気がしなかった。でも、それ以上にアルトもリールも聞く様子はなかった。
*
「やっぱり、欠片は人のようだな」
「そうようね。はやく見つけないと、私も罰が下るのよ」
2人はとても焦ってるように見えた。
「あの、なんで焦ってるんですか?」
「私たちがここに滞在できるのは今日含めて3日間ね。その間に、リリーには欠片を見つけてもらわないといけないのよ」
アルトは早口で言っている。リリーは言われてることが、いまいち飲み込めない状況だった。
「とりあず、アシッドの所に行こう。あそこは宿舎もあっただろう」
リールが、リリーではなくアルトに言っている。
「そうね。」
なんだか2人でことを進めていて、まるでリリーが蚊帳の外だった。
「リリー、とりあえず行くわよ」
2人は、やっぱり焦っている。もうすでに、アルトは飛び立っていた。
「リリー、とりあえず今は俺たちに従ってくれ。」
リールが切実そうに言われて、返す言葉が見透からず、ただ、腑に落ちない状態だが、リリーはそのまま箒を出して、アルトの後を飛ぶ。
少しの間、飛んでいるが、前と後ろから、荒い呼吸が聞こえている気がした。
<続く>
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