08  緑の欠片 

「お姉ちゃんは、まだ帰ってこないの? ソルト、何も聞いてないの?」

「何も聞いてないけど…」

 ダイニングで、リリーはソルトとマルタと食事をしていた。メイドという人が、それぞれのテーブルに料理を運んでいく。ここに来た時に玄関先で会ったソルトの姉が、帰ってこないらしい。

「またリールの所かしら」

「たぶん、そうだと思うよ。」

 マルタは不機嫌そうだった。

「リールって方に何か問題あるんですか?」

「それは、あるわよ。なんで、あんなこと付き合うのかしら」

 リリーの質問に、マルタは間髪入れずに答えてきた。

「ごめんね。ママは、リールのことが気に入らないのよ。」 

 隣に座るソルトが小声でリリーに言った。

「でも、リリー、あなたはリールに会った方がいいかもしれないわね」

「そんなのダメだよ!!」

 ソルトが立ち上がった。リリーは2人を交互にみた。

「リールも魔法使いよ。きっと、あなたにとって、よい情報を貰えると思うわ」

 なんか違和感でしかない言葉だ。自らの娘が会っていることに関して怒っている相手に、リリーには会えというのはどこか矛盾を感じさせる。

「リリー、明日、街にある。『コンドル』というレストランに行ってみなさい。欠片の居場所が分かるかもしれないわ」

「そこに、リール方が居るんですか?」

「うん、昼過ぎには、いつもいるわよ」

「ソルト、あなたは付いていってはダメだからね。魔力がないんだから」

 ソルトは下を向いて、黙っている。

「分かりました。行ってみます」

「ダメだよ。呪われるよ」

 ソルトが叫ぶように言った。グリサーストと同じで、また呪い。今度はどんな呪いなのだろう。すでに、リリーはリールという人物に会いたくなった。呪いと言われたら、行くしかない。たぶん、その近くに欠片がある。欠片の情報が欲しい。

「分かりました。明日、行ってみます」

「じゃあ、気を付けてね」

 リリーが行くと即答したのが不愉快なのだろうか。マルタは、言葉に嫌みが込められてるような低い声だった。


 さっき、ソルトに案内された時、部屋にはベットなどが、すでに完備されていた。最初から誰かを泊める予定のような部屋の作り。友人を泊めるというより、客を泊めるような雰囲気だった。リリーはその部屋で、一晩を過ごすことになった。食事を終えて、部屋に戻ると、ノックが聞こえてきた。


「ねえ、リリー、部屋に入ってもいい?」

「どうぞ」

ソルトが部屋の中に入ってきた。


「本当に、明日、コンドルに行くんだよね」

「うん、欠片の情報があるなら、どこでも行くけど…」

 少しは嘘だった。どこでもではない。呪いという言葉に引っかかったのだ。欠片は呪いの近くにあるのではないのかと、グリサーストの時に感じてしまっていた。

「でも、危険だよ」

「危険かもね。でも行かないと、何も始まらないから」

「そうなんだ。みんなそう言うよね。」


「みんな?」

「うん、私がこの家に連れてきた候補生は、誰もがコンドルに行ってしまう」

「で、呪われた人はいるの?」

「うん、何人も毒死してる」

「毒死?」

「ママは、リールの仕業って言ってる。でも彼しか、欠片に関することに詳しい人もいない」

「そうなんだ」

「それでも、行くんだよね」

「行くよ」


毒で死ぬと聞いて、動揺する気持ちもあったが、欠片を集めるためにいるのだから仕方がない。

「ねえ、話が終わったなら、もう寝たいんだけど。」

「そう、じゃあ、おやすみ」

ソルトはもどかしそうに部屋から出て行った。



 朝を起きて、朝食を食べていた時、ソルトは何か言いたげだったが、たぶんマルタに止められてる感じだった。荷物をまとめて、もうここには戻ってこない方がいいと思った。昼過ぎにコンドルに着いた。


「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」

 店員に言われて、窓側の2人席に座った。普通に人で賑わうレストランだった。ここに、リールという人物は本当にいるのだろうか。


「ご注文はお決まりですか?」

「カフェラテをお願いします。」

「分かりました。」

 その店員と目が合った。その目がガラスのようにキラっと光った。


「僕になんか、聞きたいことでもある?」

 すっと、目の前を見ると男が座った。

「あなたが、リール?」

「だったら、どうするの?」

 どうって言われも、どうもしないけど、リリーからしたら助かった。リールの方から姿を現してくれて、手間が省けた。

「じゃあ、欠片の集め方を知りたいの?」

「欠片?ああ、君は候補生か。また、アルトの家に来たんだ。」

「アルト?」

 聞いたことのない名前だった。この街にやって来て、そんな人物にリリーは一度も会った覚えがなかった。


「ソルトの姉だよ。」

「ああ、そうなんだ。」

 そうえば、あの姉は家に帰って来たのだろうか。リリーからすると、そんに関心のないはずだ。あまり、深入りしない方がいい。ここの街に来たのは欠片を集めるだ。それ以外は何の用はない。


「そんなことより、欠片の居場所を教えてほしいんだけど?」

「僕は、何も知らないよ。」

 そう言いながら、リールはじっとリリーと見つめて、席から離れようとはしなった。

「じゃあ、私はあなたに何の用もないわ」

「そうみたいだね。まあいい。あの先に丘がある、そこに行ってみたら、きっといい情報があるよ」

 その目は何か、騙そうとしてるような気分の悪いものだった。

「ありがとう」

 リリーが言うと、リールこちらを少しに見えてから、席から離れて行った。カフェラテが運ばれて来た。それを一口飲んだ。一瞬、それに毒が入っているかも思ったが、何も起きなかった。しばらくして、様子を伺って、店を出た。


 *


 リールが言っていた丘へと目指すことにした。何もないかもしれない。それでも、リリーにとっては、それしか今は頼れる情報がなかった。すごく細い傾斜の道を進んで歩ていく。両側は、人が住んでいる家みたいだった。空から見たときはどこもかしこも、雲が広がって、灰色ように薄暗かった。けど、街を見下ろすと、整列されたよなレンガの家が等間隔に並んで建てれていた。丘に上に着くと、そこから、街が一望して見えるが、どこか気持ちが沈んでくる。


「本当に来たんだ?」

リリーは左に首を傾けた。表情はあまり見えなかったが、リールが立っていた。

「何で?あなたが来たらいいって言ったんじゃなってけ?」

「まあ、そうだね」

「で、君は、能力は何?」

「能力?」

「何の候補生なの?」

「ああ、アイズだけど…」

「そう、アイズ。どのくらい、その魔法が使うことができるの?」

「なんで、そんなこと答えないといけないの?」

「なんでだろうね?」

 質問し続けるリールは、とぼけるように言った。

「でも、本当に久しぶりに本物の候補生をみたよ」

「なにそれ?」

「ほとんどが偽物なんだよ。」

 何で、偽物が来るのだろう。来ても、欠片など手に入らないだろう。

「まあいいや。アルトや、その母親は本物の魔法使いじゃないんだよ」

 リールは鼻をびくぴくさせている。

「それって、生まれつきじゃない魔法使いのこと?」

「ああ、それとはまた違う。」

 違うって何だろう。でも、知ったところでリリーには関係ない話でも合った。

「僕が操っていると言ったら、驚く?」

 操っているって、何を言い出すのだろう。

「まあ、これも仕方がないことなんだよ。でもなんで、君は欠片を自ら見つけらえないの?」

「見つからないけど、何か?」

「ふ~ん」

 リールが凝視するようにリリーを見る。

「本当に、魔法使いなんだけど、なんか違和感があるんだよね。君って」 

 何が違和感なのだろう。マルタとは違う。

「ねえ、読む人ってどこにるの?」

 

「えっ、アハハハハ」

リールは笑った。


「もういいよ。情報が欲しかっただけど、ないみたいだから」

「そうだね。箒でいいから、今からプレジャカームのいる神殿に来て」

 リールは一瞬で目の前から姿を消した。あれはどういう魔法なのだろうか。リリーも使いたかった。リリーは迷ってはいられなない。リールの言われた通りに、箒で神殿の方に向かうことにした。

 


 空を飛んで、神殿の下の階段に着いた。階段を上がっていくと、踊り場にリールの姿が見えた。

「来たね。」

そう言って、こちらを見た。

「で、読む人って、リールのことだったの?」

「違うよ」

「それは、人の形をしていない。」

「どういうこと?」

「読む人って、誰から聞いたの?」

「プレジャカームだけど?」

「プレジャカームが、そんなこと言うはずないだろう。」

 リールは眉間に皺をよせ、声が太くなった。

「なんで、そんなこと言うの?」

「いやー別に」

 数十秒前とは明らかに違って、少し動揺しているように見えた。


「あっ、そういえばマルタの婆に読む人のこと聞いたりしたの?」

「聞いてないけど…なんで、そんなに質問多いよ」

「ああ、そう。じゃあ、いいや。それなら、大丈夫だ。」

 リールは独り言のように、言っている。

「何が大丈夫なの?」

「まあ、いいや。で、読む人だよね…」

「うん。」

「それは、たぶんソルトだよ」

「でも、彼女は魔法使いではないよね」

「うん、だから、彼女の何かに欠片が隠されている」

「どこに隠してるの?」

「さあね...」

 リールの様子が変だ。目が泳いで、ソワソワしている。

「そう、分かった。」

 リリーはそのまま、神殿に向かうことにした。

「どこに行くの?」

「プレジャカームに、読む人がソルトか確認しに行く?」

「なんで!!?僕が、ソルトだって言ってるんだよ。信じろよ?」

「私にがなんで、あなたを信じないといけないの? 」

 リリーは、そのまま神殿の中に入って向かった。リールは止めてくることはなかったが、リリーが入るのを拒む様子もあった。でも、リールはリリーをこの神殿の場所に来るように言った。何かしら、プレジャカームに用事はあったはずだ。

「出でよ、プレジャカーム。」

『何?ああ、リリー。おはよう。ヒントが分かったの?』

「おはようございます。はい、読む人はリールのことですね。」

『そうよ』

 プレジャカームはそう言って、リリーより後ろの方に目を向けていた。

「プレジャカーム、その…」

 そこに神殿の入り口の近くにリールが立っていた。

『リール、嘘というより、騙そうとするから、そうなるよ。全く、あなたは」

「僕は、消えるのでしょうか?」

『リールだけではなく、アルトの家族3人も消えるわ。いつまでも候補生を騙すからよ。つけが回ってきたようね』

 プレジャカームとリールの会話が意図が全くリリーにはつかめなかった。じゃあ、ソルトもマルタも消えることになる。

「消えるって、どういうことですか?」

 リリーは言葉を絞るように言ったが、プレジャーカームの耳には届いていないようで、目線はずっと、リールの方に向いていた。

『もう、魔法使いが減ってきているのに、リールは何で、そうやって邪魔ばかりするのかな。それに、私の所にもほとんど顔を見せないし。』

 プレジャカームは、リールに対して怒っている。リリーは完全に蚊帳の外だった。

「いや、そんなつもりはなかったんですけど…」

『でしょうね。リリーは候補生でもあり、完全な魔法使いとも言えないから、騙せなかったでしょうね』

「いや、騙すつもりは...」

『アルトを失ったことが受け入れらないのは、あなただけじゃないのよ。あの家族も受け入れていないのよ』

 リリーに、プレジャーカームはウインクをした。リールは困惑しているようで、どうすることもできないようだった。

「で、リールが読む人なのは分かったのですが、それ以上のことは分かりません」

『そうね。私もリールとここに連れて来てくれる人を探していたから、リリーにやってもらっただけよ。リリー、あなたの欠片はリールが持ってるわ。』

 何かとても怖いことを思い出した。グリサーストのキルトのように、リールも消えてしまうのだろう。

「それは、リールを消すのは私だということですか」

『ご名答、そうよ。でも、消えると言っても肉体では記憶よ』

「はやく、やってくれ」

 リリーは、リールを見つめる。何を言っているのか分からない、やると言っても何をやるのだろう。

『お前の記憶を返せと言いなさい』

「お前の記憶を返せ」

 リリーがリールの方を向いけて放つと、リールは倒れて身体から緑の光が放った。その光がリリーのペンダントに吸い込まれた。そして、リールはアルトの姿になった。

 『よくやった。欠片は手に入ったことだし、次の街にすぐに旅立ちなさい。それにもうウエプレストの街にはソルトもマルタの存在しないから。会っても相手は覚えてないよ。まあでも、あの子を街に送ってあげてほしい』

 目線の先には倒れているアルトの姿があった。

『じゃあね。気を付けなさい』

 そう言って、プレジャカームは石像の姿になった。



「はやく、行った方がいいよ。もう、ママもソルトもいないんでしょう」

 アルトが起き上がって言った。

「あ、うん。でもアルト、あなたを街まで、箒だけど、送りたいんだけど」

 「ああ、いいの?」

 昨日会った怒っていたアルトとは違って、柔らかい優しい笑顔を見せてくれた。


 箒に乗ると、ソルトと一緒で頭を背中に乗せる行為をしてきた。

「そう、私も騙されたんだ。リールという悪魔に。2人に合わせてあげるから、身体を貸してくれと言われたから」

 独り言のように、懺悔するように言っている。

「そうなんだ。」

 リリーは状況が読めないまま、アルトの話に耳を傾けた。

「そうよね。リールというのは、本当に悪魔だよ。」

「リールという人は存在していたの?」

「それがさぁ、よく覚えてないんだよね。ママとソルトを生き返らせるだけ言われたことは覚えてるんだけど、それ以上のことは思い出せないんだよね。実際に、リールという人物に会ったかさえも覚えてない」

 ただアルトはソルトにも母親のマルタにも会えないことは理解しているようだった。

 リリーは街にアルトを下ろして、そのままウエプレストの街を離れることにした。まあ、リリーの目的は欠片を集めることで、それ以上のことはしなくていいのだ。あまり深堀はしないようにした。


<続く>

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