Color Pieces 

一色 サラ

ウエプレスト

07  風の神 プレジャカーム


 もうすぐ、ウエプレストの街に到着しそうだ。

 数時間前、もう一度、おじさんに会いたくて、グリサーストの街にあるホテルを見に行った。街の様子は全く違って、人で賑わっていた。まるで、別の場所に来たようだった。歩いて、ホテルの場所を確認したが、そこはホテルではなく、雑貨屋さんになっていた。そこに雑貨屋の若い女性の店員さんに話を聞くことにした。

「すみません。」

「いらっしゃませ」

「あの、お聞きしたんですが、昔ってここホテルだったんですか?」

 少し女性の目が鋭くなった気がした。

「へえー、裏の街に来たんだ。まあ、裏って言ったけど、私は行ったことないから詳しくないんだよね。ただ、この場所が昔はホテルだったのは事実だよ」

「そうなんですか。ありがとうございます。」

 女性の対応が少し素っ気なくなって、これ以上はここに居てもしかたがないので、別れを告げて立ち去ろうとした。

「お嬢ちゃん」

 女性の後ろ部屋から、年配の男性が出てきた。風貌がホテルのおじさんに似ている。

「おじいちゃんが出て来るなんて、珍しいね」

 女性が不思議そうに言った。

「まあ、そうだな。」

 男性は孫らしき女性にそう言って、改めてリリーの方に目を向けた。

「ああ、君は候補生だね。だから裏の街に来れたんだな。気を付けなさい。」

 ホテルのおじさんと似た男性は、何事もなく話すので、どこか違和感を感じた。

「どこかで、会ったことはありますか?」

「裏の街でか?」

「はい。そうです。」

 リリーははっきりと言った。

「そうだな。僕もそういう時代があった。」

 はっきりとは返答してはくれなかった。でも同一人物としては、男性はホテルのおじさんより年配だった。他人の空似もあるが、ただ男性は否定をしてはいなかった。魔法使いであれば、何らかの工作はできるのだろう。

 年配の男性が笑って、「あとこれを」と言った。そうすると、リリーのペンダントが光った。

「何をしたんですか?」

「魔法をかけた。私と通信ができる。何かあれば、私を呼びなさい。私の名はキルトだ。」

 男性の言葉に、リリーが血の気を引いていくのを感じた。

「裏の街で、君の欠片はキルトという名の魔物だったのか?」

 リリー、怖くなって何の反応もできなかった。

「そうか、あれはグリフカームが見せた幻影だ。気にすることはない。まあすべて、キルトという名だと思っても構わない。それはきっと、僕にグリフカームが会わせるための口実だろう。どこかで迷ったときに、『キルトへ、通信を』と言えば私に繋がる。まあ、何かあれば、連絡をしなさい。アイズの候補生よ」

 なんで、リリーがアイズの候補生だと知っているのだろう。

「あの、最後に1つだけいいですか?」

「なんだ?」

 男性は優しくリリーを見た。

「欠片は人の形をしているんですか?」

「そうか、君の欠片は人だったのか。そうだな。君の場合は欠片は人だろう。姿が消えることもあれば、何かを与えることもある。あまり詰め込み過ぎない方がいいぞ。じゃあ気を付けなさい。」

 どこで、モリンにも言われたことある気がした。年配の男性はそのまま、奥の部屋に消えて行った。

「ごめんね。おじいちゃんって変わり者だから。で、用が済んだら、帰ってほしいな」

 2人の会話に入ってくることもなかった女性が冷たい視線を向けて言った。

「すみません。でもこれで、失礼します」

「ねえ、あなたの名前って何て言うの?」

「リリーです」

「そう。リリー、気を付けて、欠片を集めてね。」

 最後に女性は少し優しそうな笑顔を見せてくれた。



 ウエプレストの街が、ボンヤリと姿を現してきた。その奥の方に、神殿らしいものが見えてきた。その神殿にいるプレジャカームに挨拶を最初にしなくてはいけない。決して、欠片の居場所のことを聞いてはいけない。リリーは自分に言い聞かせた。


 段々と、周りはコンクリートのような、灰色の建物が並んでいるが見えてきた。そこには人が住んでいる様子があった。まあ、本来は、春休みに、ラーナとここを訪れる予定だった場所だ。

 その奥にある神殿のような建物に、引きつけられるように、箒で近づて行った。

 街の西に神殿にあって、その近くに海があった。イーストアンガームとは東に神殿があったので、どちらも海に近い方に神殿が建てられるみたいだった。


 神殿の近くを降りよと降下していく。降り立つと石畳だった。そこに長い階段があった。アンガームの神殿と似ていた。でも階段の両脇には川は流れていなかった。底が深くて、暗く、どのくらいの深さがあるのか分からなかった。両脇に手すりなどなく、一歩、踏み外せば、奈落の底だ。

 それに、強い風が、階段を上がるた日に強く吹いている。バランスを保ちながら、上がって行った。

 神殿があらわれた。レンガが何層に積み重なっていて、茶色の濃さが多少違うレンガが積み重なっていて、色鮮やかな建物だった。

 リリーは中へと入って行く。今までの神殿と同じように、中央に女性の石像があった。

 きちんと両足をくっつけて、両膝に両手の指を揃えて、きちんと置いている。ロングの髪型で、目を閉じている。まだ、動いていない石像を少し眺めた。深呼吸をして、心を整える。

「出でよ、プレジャカームよ」


『何?どうしたの?誰?』

 プレジャカームは大きな目を開いて、声はかわいらしくて、とても幼い子供のような声だった。目がくっきりとしていて、さらに幼く見えた。目が合った。グリフカームのように騙してくる様子はなかった。


「アイズの候補生のリリーです。ご挨拶に参りました。」

『そうなんだ。よろしく!!あっ、私、欠片の場所は知らないよ。でも、みんな街の中にあるよ。』

「あっ、街にあるんですか…」

 なんか、リリーは呆気にとれた。そんなに簡単に欠片のどこら辺にあるか教えてくれるとは思っていなかった。前のグリフカームの影響で、場所の特定がそう簡単ではないと思っていた。


『なんか、みんな、同じよな反応するよね。簡単には見つからないわよ』

 プレジャカームに先読みされている気がした。

「あっ、はい。」

『まあ、いいけど…気を付けてね~。私、もう眠いから寝るね』

 プレジャカームは睨むように、もう話したくはないと雰囲気という圧を感じた。

「でも…、ヒントとかないんですか?」

 このままでは、引き下がれない。あまりにも情報が少なすぎた。答えてもらいないかもしれないが、リリーはプレジャカームしか情報源がなかった。

『ヒント?えっーと、読む人を探して、その人が情報をもってるわよ。きっと。じゃあ、おやすみ』

「あの!」

『もう何も答える内容はないわよ!!ヒントの答えが分かったら、ここに来てね、その時、またおしゃべりしてあげる。』

「承知しました。」

 とりあえずは読む人を探さないと、いけないらいし。プレジャカームは目を閉じて、石像に戻った。そのまま、一旦神殿の外に出た。



 神殿から階段まで高さが1mくらいで長さが5mほどのフェンスが設定されていた。その右側の中間がぐらいな所に、ニットにズボン姿の女性が見えてきた。その場から身動きしない。プレジャカームにいる神殿に入ろうとする様子もなった。女性を横目にリリーは通り過ぎることにした。

「街に行くの?」

リリーの後ろから声がして、先ほどの女性が後ろから階段を降りて来ていた。

「はい、ウエプレストの街なら、今から行きますけど」

「そう。」

 女性は何か用なのか、後からついてくる。

「ねえ、神殿で、プレジャカームと話してたよね?」

「そうですけど、それが何か、問題でもありましたか?」

「うん、見てたんだけど。でも私、魔力ないから、プレジャカームは石像のままで、あなたが1人で話してから」

「ああ、そうですか…」

 魔力のない人間は、守り神の言動が確認できないとラーナから教えてもらっていた。だから、女性は魔法使いではないことは分かった。魔法使いではない人が、なんで、神殿に来ているのだろう。グリサーストでの出来事もあって、突然会う人に警戒心もあった。リリーは、そのまま階段を下って行く。

「ねえ、聞いた来ないの? 魔力がない者は、守り神が話したり、動く姿は見えないと。」

「知ってますよ」

「欠片の居場所を知りたくないの?」

 リリーは、後ろから付いてくる女性の方を見た。何を企んでいるのだろう。

「何か、知ってるんですか?」

 一応、何でもいいから情報が欲しかった。

「知らない」

 ため息をついてしまう。

「じゃあ何で、そんなことを聞くんですか?」

「さあ、それは教えない」

 リリーは階段を降りて、箒を出した。

「ねえ、あなた以外の魔法使いに会いたくないの?」

 女性はリリーに追いついてた。女性の方を疑うように見る。もう仕方がない。このまま、街に行っても、そう簡単に魔法使いに会うことは不可能だろう。

「会いたいわ」

「じゃあ、乗せて」

 リリーは何を言い出すんだと戸惑ってしまう。箒で2人で乗ったことなんてない。

「大丈夫よ。私って軽いから」

 そいう問題ではない。

「2人で乗ったことなんてないので、無理です。それに、ここまでどうやって来たんですか?」

「もちろん、歩いてよ」

「じゃあ、歩いて帰ってください」

「なんで? 優しくないわね!」

 どこか腹がっ立った。

「分かりました。腰から手を放さないでくださいね」

「了解」

 ふっと、上空に浮かぶ。でも1人の時より、コントロールが難しい。風が少し強い。凄い勢いで、魔力削られるようで気分が悪い。

「遅いのね」

「私だって、人を乗せてことなんてないだから、慎重になんです。」

「えっ、始めてなの。怖いじゃん」

 何か、さらに腹が立ってくる。

「で、どこに降りばいいですか?」

「もうちょっと先、あの茶色いレンガがある場所。」

 女性が腰から手を放して、指を指した。少し揺れた。

「もう、もっとちゃんと飛べないの?」

「飛んでますよ。」

「ああ、そうね。ごめんなさい」

 女性はふてくされるような声で言った。しっかり、リリーの腰に手を回して、頭を背中に乗せてきた。


「ねえ、何て名前なの。魔法使いさんは?」

「今ですか?リリーですけど、そちらは…」

 なんかイライラしてくる。ふつう名乗るなら、自ら名乗るのか常識な気がするけど、この女性に常識とは通じそうになかった。

「ソルトだよ…男のみたいな名前でしょう。」

「いい名前ですね」

 あまりにも、神経を使って、飛んでいる。あまりに人と話している余裕などなかった。

「そう、ありがとう」

 皮肉のつもりで言ったのだが、通じなかった。ソルトに言われた茶色のレンガが近くなってきた。


「あそこで、いいですよか?」

「いいよ」

 少しづつ、下降していく。近づくと、思っていたより、建物が大きかった。地上に降りたった。少し人通りがあったが、あまりに箒のことは気にしていなかった。

 イーストアンガームでは、箒で移動する者はいなかったので、不思議な感覚にに陥てしまった。


「あっちだよ」

「うん」

 ソルトの後をついていく。少し細い階段を上がった先に、門があって、その奥に立派な家が建っていた。


 門を通って、少し迂曲した階段を上がると、建物のドアをソルトは開けた。

「どうぞ」

 ソルトに言われて、中へと足を踏み入れる。


「ああ、ソルト、帰ってきたのね」

「あっ、お姉ちゃん。ただいま」

 そのお姉ちゃんと呼ばれた人が、リリーの方を見た。

「魔法使い!? また、ソルト、お前は神殿に行ったの?」」

 少し怒った顔をしている。なんで、魔法使いと分かったのだろう。

「いいじゃん」

「ママに、また怒られるといいよ」

 お姉ちゃんと呼ばれた人はそのまま家を出て行った。


「いいの?」

「うん。でもママに会ってほしいの?」

「なんで?」

「ママが魔法使いだから」

「あっ、そうなんだ」

 言われるがまま、廊下の奥へと進んで行く。その突き当りのドアにソルトは止まって、ノックをした。


「どうぞ」

 ソルトとはドアを開けた。一緒にその部屋に入って行くと、壁一面に大量の本が並んでいた。

「ママ…」

 ママと呼ばれる人は、魔法使い服ではなく、緑のシックなワンピース姿だった。それからリリーの方を凝視するようにみた。


「また、あんたは魔法使いの候補生を連れて来てしまったの…」

「ごめんなさい。」

 ママと呼ばれた人が、リリーの下から上に目線を動かして見てきた。

「まあいいわ。ソルト、お前は部屋から出て行きなさい」

「えっ」

「ちょっと、その子は問題がありそうだから」

「でも…私も知りたい」

「あんたには、ママやお姉ちゃんのように、魔力がないでしょう。」

「わかった。リリーを怖い目に合わせないでね」

「わかってるわよ。」

 ソルトは、リリーに目配せして、そのまま、部屋から出て行った。目配せの意味で、何を伝えたかったかは分からないが、ソルトは身勝手だなとは思ってしまう。


「名前って何て言うの?」

「リリーです」

「そう、リリー。私はマルタよ。でもあなたは魔法使いとして不完全ね。何か欠けているように見えるわ」

 マルタにそう言われて、リリーは驚いた。

「候補生なので、それは仕方がないと思いますけど…」

「そうじゃない。何を隠してるの?」

「よく分かりませんが?」

「魔力はあるのよ。でもなんか違うのよ。」

 たぶん、双子の姉ナナに視覚の能力が影響しているせいだろう。でも、リリーが欲しい情報は、欠片のある居場所だ。それ以外は余計な話だ。ナナの話をしたところで、欠片の居場所が分かるわけではない。


「あの、欠片の居場所が分かるなら、教えてほしいんですが...」

「うーん、そうね。それは私には知らないわ。欠片は魔法使い自身しか居場所を把握することは出来ないから。」

 やっぱりそうなんだ。それに、読む人の話も言いたくなかった。どこか、マルタは信用に欠けているような危険な匂いがした。


「今日は、遅いから、ここに泊って行きなさい。」

「いいんですか?」

「いいわよ。貴重な候補生は大切しないとね。」

 なんだろう、この違和感は...さっき、ソルトのお姉ちゃんが怒られると言っていたが、マルタ、そんなに怒っている様子はなかった。


「ソルト、ドアの外で聞き耳を立てて居るんでしょう。入っていらっしゃい」

 ドアが開いて、ソルトが入ってきた。

「なんで、分かったの?」

「外で、立て耳を立ててたことぐらい分かるわよ。客人を案内して上がて」

「分かった。リリー、行こう」

 そのまま、ソルトと一緒に部屋を外に出た。


「ママ、怖くなった?」

「別に怖くなかったけど、やっぱり、欠片の居場所は分からないみたいだった。」

「ふ~ん。そんなに欠片って必要なものなの?」

 魔力のないソルトからすれば、欠片など何の意味もないのかもしれない。

「うん、必要だよ」

 ソルトという人物にも疑問が出てくる。こんなに魔法の知識が乏しいのだろう。母親と姉が魔法使いなら、ある程度の情報は知ってる気がした。でも、ソルトは魔法に関することを何も知らない感じがした。  


<続く>

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