第3話 ヴェル公女

 魔装スーツの出現で戦争は劇的に変化した。


 各国の開発競争もそうだが、歩兵の死亡率がかなり下がった。

 魔装スーツと生身の人とでは戦力として比べ物にならない故に、魔装スーツ乗りは通常、歩兵を攻撃しない。

 また、歩兵も自軍の魔装スーツが敗れた時点で撤退を始める。

 都市の占領などで、歩兵の価値はあるものの、直接戦闘を行うのは魔装スーツ対魔装スーツという不文律が戦場を支配していた。




 正教歴1315年3月


 ダナン公国の魔装スーツ開発部門に公女ヴェルが視察に訪れた。


 ダナン公国の軍事部門の最高司令官である。


 愛機のダナンP-2に乗って現れた。


 P-2は3年前に開発された機体で魔法石は1個だがヴェルとの相性値が良く総合能力も帝国の量産機ヴァルドN-2の2.5倍程度あるとされている。


 「ヴェル様、P-2の調子はどうですか?」


 「調子はいいぞ、ザッカヴァーン」


 「それは、それは」


 ヴェルは15歳、身長は150㎝と小柄だが、いかにも気が強そうだ。金髪を短く切りそろえている。


 「ところで、あいつはいるか?」


 「ラスタのことですか?P-4のことですか?」


 「1つ1つには意味がないだろう、ラスタとP-4は揃っていることに意味がある」


 「現在、P-4は定期点検中です、ラスタは、おそらくその点検に立ち会っているかと」


 「分かった」そう言うとヴェルは歩いて整備工場のほうへ向かった。


 


 「ラスタ」


 「なんだ?ユーナ」


 「P-4のこと大事に使ってくれているね」


 「分かるか?」


 「分かるよ、P-4が全然大丈夫だって言っているもん」


 「そうなのか?」


 ユーナはラスタの幼なじみ、14歳の少女だ。長く黒い髪を今日は後ろに束ねている。ユーナはP-4の専属メカニックとして常にラスタと一緒にいる。


 「ねえ、ラスタ?」


 「んーなんだ?」


 「P-4はラスタしか乗りこなせないんだよ」


 「ああ、そうみたいだな」


 「ね、私もさ、ラスタしか・・・」


 「え?」


 そこに、カツンカツンという、ヒールの音がして、ヴェルが現れた。


 「ヴェル様!」


 「ラスタ、ご苦労だな、整備くらい放っておけばいいものを」


 「いえ、整備もパイロットの仕事ですから」


 「ほう、さすがだな、それが相性値1.3というところなのか」


 「それは分かりませんが」


 「私のP-2の模擬戦を頼みたいのだが」


 「ヴェル様の相手をですか?」


 「ああ、イシュル王国からレンタルされているイシュルZ-5では、私の練習相手にもならない、何機大破させたか分からないぞ」


 「模擬戦はいいですけど、定期点検が終わるのはまだ2時間かかりますよ、なあ、ユーナ?」


 「え、あ、はい、そ、そうなります」それまで黙っていたユーナが緊張しながら告げる。


 「そうか、じゃあ、2時間は私をエスコートしろ、ラスタ」


 「命令ですか?」


 「命令じゃなかったらだめなの?」急に女の子らしい仕草になる公女にラスタは胸を射抜かれて、そのまま言葉に従った。




 「ラスタの馬鹿ぁ」

 ユーナはいじけていた。

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