第5話 ①

 私は陽月真理亜。BSオンラインではマリア=ソルナの名前でプレイしている女子高生よ。つい先日、フレンドさんの一人から「実はクラスメイト」という衝撃のカミングアウトを受けたけど、お互いに反応はすこぶる淡泊。リアルじゃ今まで通りにしようって話したし。うん。私、普段火神くんと話しとかしてないもの。


 いつもの感じで始まった一日が過ぎれば、やっぱりいつも通り真っ直ぐ帰宅し、いつものルーティンからゲームにイン。ここから私は陽月真理亜からマリア=ソルナに変わるの。



 作成依頼をチェックして、出来るものから順次作成していく。ポーション系とかは大鍋で大量に作れるからね。


「ブレンドした薬草の抽出が終わるまでの間に、アクセリオンさんの大物を仕上げちゃおっか」


 ウェポンマスターの称号を持つアクセリオンさんから武器10種の作成依頼を受けているのよね。そもそもウェポンマスターは10種類以上の武器を極めていないといけなくて、アクセリオンさんは片手剣・大剣・短剣・鞭剣・槍・斧・ハンマー・格闘・棍・盾に長柄の11種類をマスターしてるって言っていたわ。それで、初依頼で作った長柄武器の『霊幻猛炎戦斧槍』、ゴールデンウィーク期間を費やして格闘武器の『炎顎手甲』と『烈牙のブーツ』、斧の『顎火砕竜斧』、ハンマーの『ブレイズブレイク』まで作ったんだけど、やっと半分といったところなのよね。


「“炎顎竜”フラージャルの素材はたくさん預かってるし、貴重な結晶石もあるから大剣は『炎顎烈紅大剣』を作りたいよね」


 GW前に巻き込まれたシークレット・イベントで討伐した“炎顎竜”フラージャルからたくさん素材――しかも品質の高い記号付き――が手に入ったから、炎顎竜系統の武器を作れるだけ作ることになったの。


 で、これから作ろうとしている大剣は現状最高レア度の炎属性大剣のひとつなの。激レア素材である炎顎竜の結晶石が2個も要求されるから、生産職ギルドのギルドマスターがこれまでに3振り鍛えたってだけの――幻とまで言われてる――代物なの。まず結晶石が激レアすぎてろくにドロップしないし、貴重な結晶石が手に入っても製作難度の関係で失敗作になる確率が高すぎるから挑戦する人もほとんどいないのよ。最低でも高品質以上の品質に仕上げないと注ぎ込む素材に対して割が合わなさすぎるし。


「アクセリオンさんからはどの素材を使ってどの武器を作るかは任せるって言質は取ってるしね。あ、後は片手剣と盾はセット武器にして、短剣と鞭剣と槍と棍は炎顎シリーズの定番でもいいかな~」


 結晶石程じゃないけど巨大鱗とか裂刃牙とかのレア素材がたくさん使える状況だから、今じゃないと作れない『紅蓮剣盾・番焔』とか作りたいよね?


「何はともあれ、今日は大剣に全力全開って決めてきたからね。幻の大剣、絶対に作りあげてやるんだから!」


 そう自分に喝をいれて、私は工房に入る。製作過程はリズムゲームのようなタイミング入力を繰り返すミニゲームだけど、それに合わせたキャラクターの動きはちゃんと加工製作をしている様子を見せてくれる。炉に火を入れてから素材を投入して融かし、型へ流し込んで冷却し、叩いて均質化させ、刃を研ぐ。それだけのことをタイミングよくボタンやレバーの入力をするだけで見られるのだから、ハマる人はハマるのよね。


【神へ挑みますか?Y/N】


「そっか。私なら、幻を超えた神品質が作れるんじゃない・・・・・・」


 素材の希少さと製作難度で幻と呼ばれる武器を、神品質で作り上げる。それは生産職人の心を惑わせるには十分すぎるほどに魅力的な選択肢だ。

「素材には高品質の“記号付き”もたくさんあるし、むしろ挑んだ方が製作難度はマシになりそうよね」


 表示された選択肢を凝視しながら私はつばを飲み込む。マイクが拾ったゴクリという音がやけに大きく聞こえた。そして、伸ばした指が選んだのは―――――


【GOD CHALLENGE START!!】



 2時間に及んだヘルモードのミニゲームを制した私の目の前には、これまでの神品質武器とは一線を画するオーラを放つ大剣が鎮座していた。


「これが神品質の『炎顎烈紅大剣』なのね。今までの神品質とは比べ物にならないくらいの威容だわ。形状はスラッとしてるし、ルビーのような透き通った紅色のオーラが溢れだしてるわ・・・・・・」


 完成品を検分して・・・というよりじっくりと愛でてから、収納して一度ログアウトする。晩ご飯の時間だからね。


「う~~ん! 久しぶりにこんなに集中したよ。あー、お腹すいた~」


 コントローラーとVRバイザーを置いて体をほぐすと、私は部屋を出てダイニング

へ向かう。この匂いは・・・今日はシチューだね!



 というわけで、晩ご飯も食べたしお風呂にも入った。勉強も終わらせたし再度ログイン!


「・・・・・・お客様、店の前で座り込むのは止めてもらえますか?」


「こっちはお前からのメールを受け取ってから1時間以上待ってたんだぞ?」


 ログインロビーである広場から自分のお店に来てみたら、店先に座り込みをしているアクセリオンさんと遭遇したのだ。しかもけっこう怒っているっぽい?


「メールでちゃんと書いたよね、私。一度落ちてご飯とかいろいろ済ませてくるって。何でその時間のあいだずっと待ちぼうけてるのよ?」


「あの幻の大剣が、それも神品質で出来たなんて聞いたらじっと待ってなんかいられるわけないだろ!?」


 あーうん、まあアクセリオンさんはウェポンマスターになるほどの武器オタ・・・マニアだからね。気持ちはわからないではないけど、だからと言って店の前で開店待ちはやめてくださーい・・・。


 今さらだと思いつつも店先で悪目立ちされては困るので、さっさとお店を開けてアクセリオンさんを招き入れる。


「で、俺の大剣はどれだ!?」


「ああもう、落ち着いてよ火神くん――じゃない、アクセリオンさん! 武器はちゃんとここにあるから!」


 興奮おさまらないといった様子のアクセリオンさんをなだめながら『炎顎烈紅大剣』を取り出す。元はちょっとゴツゴツした感じのデザインで、刀身も鋸刃みたいなギザギザだったりしていたんだけど、神品質になるとガーネットのような深い紅色のスラッとした両刃の刀身に甲殻と鱗と牙を組み合わせて竜の頭をかたどったナックルガードという洗練された形状になっているの。しかもルビーのような透き通った紅いオーラが強く放たれているわ。


「お、おお・・・これが神品質の『炎顎烈紅大剣』か・・・!?」


 逸る気持ちを何とか抑えているといった様子で大剣を受け取ったアクセリオンさんが装備して構えた瞬間、神品質を表すオーラが大きく膨れ上がって真紅のドラゴンをかたどった!? でもそれは一瞬で、すぐに形を崩してオーラの形でアクセリオンさんにまといつく。こんな演出が入ったのはこれが初めてだから、私にも何が何だかサッパリだわ?!


「なんだ・・・これ? 『紅帝の覇気』? 攻撃力+40%に炎属性ダメージ吸収・・・炎ダメージの吸収量に応じた与ダメージアップスキル『覇炎の絶刃』だと?! しかもこのスキル、炎関連の防御系効果を一切無効化したしたうえでダメージを与えるとか、ぶっ壊れすぎるだろ!?」


 あー・・・そんな効果が付いちゃってるの? というか、炎関連の防御系効果って耐性とかダメージ減少だけじゃなくて、反射とか吸収とか無効化とかもかしら?


 私が完成させた時にはそんなデータは存在していなかったんだけど・・・条件付き解放型の潜在能力ってやつかしら?


「一応言っておくけど、私もそんな効果や能力がその大剣にあったなんて知らなかったからね? アクセリオンさんが何か条件を満たしちゃって解放された潜在能力だと思うわ」


「あ、ああ、そうなのか? だが、その解放条件ってのは何なんだ? ウェポンマスターか? 武器レベルか?」


 当然というか、私だってそこまではわからない。生産ギルドのギルドマスターとか研究班の偉い人とかならわかるかもだけど、生産ギルドのギルドマスターが3振りしか作っていない大剣だからこういう隠し要素の研究は進んでいないかも?



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