第3話 ⑤
「じゃあ、さっそく解体するね」
言って私は解体用ナイフを取り出して“炎顎竜”の亡骸に近づく。これが元々の目的だしね。
解体による素材の獲得はパーティー単位になるのがこのゲームでの仕様だから、今回は一番いい解体ナイフを持っている私が解体を担当するの。複数パーティーの時はそれぞれのパーティーから解体担当の人が出てきてやるのよ。まあ、どうしても他人任せが嫌だという場合はパーティー脱退とか解散とかしてから個人個人で解体することもあるかな。あと、メンバーの枠に余裕があり、なおかつ自分より明らかに解体に長けた人がいるパーティーに解体の時だけ参加させてもらって解体の恩恵を受けるっていうことも、稀にだけどあるわ。もっとも、戦闘でよほど貢献してないと断られるけどね。
「おおっ! 記号付きの素材がどんどん来るな。しかもいつもより1~2個多い気がするぞ」
「偶然かもしれませんが、出にくい素材の方が多い気もします。もちろんマリアさんの解体レベルが高いのもあると思いますが」
「すごいね~。僕が解体した時くらいのレア排出率だし、その上で全部が記号付きになるなんてビックリだよ。僕が神品質道具で解体したら、市場経済を混乱させられそうだね!」
「あ、結晶石が2個きた」
「ふぁっ!?」
あ、最後のは私。私には記号付きだけど並みかちょっといい程度の素材ばっかりしか出なかったのに、他のみんなには結構いいものが出たみたいだったからつい・・・。アクセリオンさんに至っては、1%以下の排出率の炎顎竜の結晶石が2個も出たとか言ってるし!!
「ぶ・・・物欲センサー・・・・・・」
血を吐いて倒れ伏すアクション待ったなしだよぉ・・・・・・・・・。
街へ戻り工房へ引きこもると、私は気持ちを切り替えて受注した品の生産に取り掛かった。とはいえ、みんながみんなそれぞれに注文してきたから一度に全部は無理だけどね。
「えーっと、アクセリオンさんの武器10種とゴルトくんの大剣とサラサちゃんの刀とホッブさんの採集道具一式、と。・・・・・・私のゴールデンウィークを潰すつもりかしら」
ゴルトくんとサラサちゃんのは余裕を持っても1日でできるわね。ホッブさんの道具一式も自分の時を考えれば集中すれば1日か2日でできると思う。でも、さすがに武器10種は無理。まあ、急がなくていいって言ってくれてたし、今月末までに作りきれればいいかな。週末を利用してコツコツやって行けば間に合うでしょ。
「とはいえ、今日は変なイベントのせいであんまり時間が無いんだよね~。あ、そうだ。サラサちゃんが刀を使う時用にステータスや威力を補助するアクセサリーも作ってあげよう。レイピア主体だから器用は普通の戦闘職の人より高めだろうし、武器重量によるペナルティーを軽減する腕輪とか、武器のモーション速度をちょっとだけ速くする指輪とか。刀の方もバランス補正でプラスが付くようなやつを作ってあげたいな~」
そんな風に色々と妄想を広げつつ素材を眺めていて、ふと思い出したことが。
「あ、そういえば素材の加工で【神への挑戦!】ってしてないな。だいたい武器とかにしても作成をするときに使うものは加工済みのストックがあったからねー。合金系とかの加工素材は自分で加工したら神品質とかになるのかな」
うーん。考え始めてしまうと気になるなー。サラサちゃんのアクセサリーにも使える加工素材を作れば、ひいてはサラサちゃんの装備をより良くできるかもしれないし。今日はまず、加工素材の作成から初めてみましょう!
「今回、けっこうな数が手に入った“森狼”の素材と緑鉄鉱を使って『獣鋼』を作ってみよう。獣鋼は普通に“森林狼”素材と併せて装備品や装飾品を作るのに必要だしね」
そう。釣りや移動の時に遭遇した“森狼”や“森林狼”の素材もちゃんと解体して手に入れていたのよ。まあ、私の解体ナイフは大物まで取っておこうということでホッブさんが解体してくれたんだけどね。解体マスターって特上品質のミスリル解体ナイフで記号付きが混ざるレベルの解体ができるんだもん。神品質で同じ道具を作って渡したら、本当にマーケットブレーカーになりそうよね。
んん。気を取り直して。加工素材の作成、と。
【神へ挑みますか? Y/N】
やっぱり出たわね。もちろんYESよ。
【GOD CHALLENGE START !!】
相変わらずのヘルモードな生産工程という名のミニゲームを制し、神品質の『獣鋼』を完成させた。
【アチーブメント:神品質の加工素材の作成成功を達成】
【称号付与“素材の秘奥を識る者”:神品質の加工素材の作成に成功したことを称える称号】
【『素材の品質判別』:解放】
「相変わらず何かすごいことが起きてるよー!?」
またアチーブメントを達成してしまった・・・。というか、『素材の品質判別』ってあれだよね。
「やっぱり記号付きか・・・・・・」
素材に付いていた記号の横に品質を表す文字が表示されるようになっていたわ。
!/上質、#/高品質、%/特上品質、@/最高品質、&/変異、となるみたい。
「変異? どういう意味かしら・・・。私もこの記号が付いた素材はあんまり使ったことがないからなぁ・・・・・・」
今のところ手元にある“&”付きの素材は今回の採取で採れた薬草2個と、結構前にホッブさんから買った燐氷石と“雪蛇竜”の凍牙が1個ずつ。回復ポーションか『氷刀・雪牙』なら作れるかしら。
「回復ポーションはすぐできるし、氷刀もそれほどかからず作れるわね。まあ、明日ログインしたら試しに作ってみようかな」
今すぐやるにはさすがに時間も遅いので、気にはなるけどぐっと我慢してログアウト。電源を落としてVRバイザーを外すと思いっきり伸びをして体をほぐした。やっぱり長時間ゲームをやると体のあちこちがこるわー。おっさんくさいとか言われそうだけど。
翌日、午前中のログインでさっそく生産に取りかかる。
「消費アイテムには【神への挑戦!】はないのよね。まあ、あとは寝かせておけばOKだし氷刀の作成を始めようか」
そしてふとある事を失念していたことに思い当たった。それは普通に作るか神品質で作るか、ということ。変異という品質?の素材を使うことで起きる効果が「ユニーク品質になるorなりやすい」というものである場合、神品質で作ると意味がない。【神への挑戦!】は失敗か最低品質か神品質かのどれかになることは確定しているからね。
「・・・今回はユニーク化を起こす予想で普通に作ろう。変異っていうくらいだからただ品質が良くなるとかじゃないと思うし」
そうと決まればサクサクと準備を進めて生産を開始よ。燐氷石と“雪蛇竜”の凍牙の他に“雪蛇竜”の白鱗と氷殻も使うけど、これもなるべく記号付きのものを使って品質を良くできるようにっと。でも、記号付きの素材は【神への挑戦!】だと生産を簡単にしてくれるけど、通常生産だと真逆で難易度を跳ね上げてくれるのよね。
凍牙をひたすら研磨して刀身を作り、白鱗で鍔を作り、氷殻で鞘を作る。燐氷石は柄頭にはめ込むので適切なサイズに切りだし研磨し、その過程で出た欠片を粉末状にまで砕いて錬金液と混ぜたものに刀身を浸ける。ベストタイミングで刀身を取り出すとパーツ組み立てに移行。刀身に鍔と柄をつけ、柄頭に燐氷石をはめ込む。鞘には白鱗を配置しながら装飾を施す。氷の結晶が花吹雪のように舞う光景を思い描きながら仕上げの微調整を行い、『氷刀・雪牙』が完成した。
「最高品質にはなったけど、ユニーク武器にはならなかったわね・・・。そうなると変異素材の影響は―――って、あれ? 説明文に次のページがあるわね」
武器のテキストに「次のページ」なんて表示があるのは初めて見たかも。少なくとも自分で作ったもので見たことはないわ。
「――!! 固有・・・スキル・・・!?」
次ページを開いた私の目に『固有スキル:氷華の舞』の文字が飛び込んできた。
【アチーブメント:固有スキル付きの装備の作成成功を達成】
【称号付与“武具覚醒者”:固有スキル付きの武具の作成に成功したことを称える称号】
システムメッセージが来たわね・・・。何か報酬もつくんでしょうけど、またチートめいた能力の解放じゃないといいな・・・。
「と、それより固有スキルよ! えっと、『固有スキル:氷華の舞』は攻撃時に氷属性の追加ダメージと鈍化の状態異常値の蓄積か。連撃系の派生スキルが多い片手剣スキルで使う方がこのスキルは効果的かもね」
これはサラサちゃんに売ってあげようかな。一応“炎顎竜”素材での刀を受注しているから、そっちはそっちで作るけど。変異素材はないから固有スキルがつけられないだろうし。あ、変異の素材で固有スキルが付くだろうなってことは私の中ではほぼ確信に近いわ。今までほとんど使わなかった変異素材を使った今回の生産で固有スキルが付いたのが根拠だから、絶対だとまでは言わないけど。
「あ、そうだ。報酬の方も確認しておかないとね。今までの傾向だと、称号と関連した何かだと思うけど―――」
【報酬:『覚醒の星』】
星型のアクセサリー? 効果は――変異を含む高品質素材を使用することで固有スキルを発生しやすくする、ですって?! ・・・って、なんで“変異を含む”のところが色違いの文字になってるのかしら?
「まあ、確率を上げるっていうだけだから確実に固有スキルが付くわけじゃないしね。そもそも“変異”の記号付き素材自体があんまり流通してないし」
それこそホッブさんに神品質の道具を持って記号付きの出やすいところで採集してきてもらうくらいしないとねー。
「ってえっ!? 今からまさにホッブさんの神品質道具を作るところじゃない!」
・・・・・・これは、ホッブさんに最高品質や変異の記号付き素材はうちに卸してもらうようお願いするべきかしら。現状だと記号付きかそうじゃないかだけが価格に反映されているだけだから、特定の記号が付いたものを選り分けたとしてもホッブさんの懐には痛手にならないと思うし。まあ、受注した道具を作って引き渡すときに相談しよっと。
【第3話・終】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます