第4話 ①

 私は陽月真理亜、女子高生です。ゲームではマリア=ソルナというキャラクターで生産職プレイをしています。ただいまゴールデンウィーク真っ最中で、たっぷりとゲームを堪能してます!


 今日もせっせと生産中。色々とお世話になってるフレンドさんに頼まれたものと別口の常連さんからの注文を消化しないとね。まあ、自分のやりたい生産活動を満喫しながら出来上がったもので他人から喜ばれるのって嬉しいよねー。


「ホッブさんの『虹色』シリーズは最高ランクだったから記号付きの素材を用意してもらったのに厳しかったー。ゴルトくんの『フレイムバイター』いい出来だったな~」


 完成させて引き渡しを終えた製品たちを思い返していると自然と顔がほころぶわ。サラサちゃんの刀も良いものができたのよ? 『顎刀・炎咬』っていう炎属性の刀ね。元のデザインだとちょっとギザギザトゲトゲしすぎてて女の子向けじゃないなって思っていたけど、神品質でデザインが変わって揺らめく焔のような刃紋が光を反射して浮かび上がる綺麗な刀になったわ。


「さて、あとは10個もあるアクセリオンさんの武器ね。――っと、ダーレスさんから依頼された回復系の茶葉10点セットとミュルリルさんから受注した花蜜石の首飾りも作らないと。あとはギルドからの依頼用に回復ポーションのストックを増やしておかないとゴールデンウィークイベントのギルド対抗戦のお陰で今までのストックが無くなったからね~」


 回復系のポーションばかりがやたらとギルドから注文入るから何事かと思ったら、夏休みと冬休みくらいしかしないと思ってたギルド対抗戦が開催されるみたいなのよね。ゴールデンウィーク最終日に、全ギルド参加の素材収集大会が開催されると告知されていたの。フリーの私は関係ないけど、このイベント中はエントリーしているギルド同士に限りPvP-プレーヤー同士の戦闘が解禁されるっていうからもう、あっちこっちで装備の発注や消費アイテムの買いだめが横行しているみたいなのね。


「稼ぎ時だから頑張っちゃうけど、私もなにかイベントに出品してみようかな」


 装備系のコンテストやオシャレ系のファッションコンテスト、変わったところだと高性能AIによるNPC審査員がジャッジする料理対決とかもあるみたい。


「へえ、どのコンテストも匿名参加がOKなんだ。名前を売るために出るものだとばかり思っていたけど、自信作をみんなに見てもらいたいけど自分が作ったことは秘密にしたいとかかな? 順位報酬は運営さんから倉庫へ直接送られるから顔出しの必要もないみたいだし、これなら気軽にエントリーできるわね」


 とはいえ、今からコンテスト用の装備を作る時間あるかなぁ・・・。


「あ、昨日作った刀でいいかも。最高品質の出来だし固有スキルもついてるし。なによりキレイだから!」


 そう言いながら私は装備倉庫から『氷刀・雪牙』を取り出した。本当はサラサちゃんに売ってあげるつもりだったんだけど、お金が足りないって落ち込ませる結果になったんだよね。普通に氷属性の刀として強いし、固有スキル:氷華の舞の効果で追加ダメージや状態異常を与えられるから、連撃主体のサラサちゃんとはベストマッチだと思ったんだけど・・・・・・このゲームって武器ごとに最低売却価格が設定されていて、品質が良くなるとその分最低売却価格も上昇するの。しかもこの刀に限れば固有スキルが付いたことでさらに最低売却価格が値上がりしちゃったのね。おかげでかなりの富裕層なプレーヤーさんくらいしか買えないレベルになったから、サラサちゃんは購入のためにお金稼ぎをすると宣言しちゃったし・・・。


「サラサちゃんたちにもランクに合った採集道具類を作ってあげようかしら。あ、でも記号付き素材を頻繁に持ち込んだりしたら変な人たちに目をつけられたりするかもしれないし、悩むなぁ~・・・」


 というか、サラサちゃんに売るならコンテストには出さない方がいいかな。誰から手に入れたんだー!とか騒がれたらかわいそうだし。


「やっぱり作るかな、新しく。そうなるとアクセサリーの方が制作時間が短くできるものが多いし、ファッションアクセサリーのコンテストにしましょうか。まあ、締め切りまでに制作できたらくらいのつもりでね」


 いろいろ受けてる仕事もあるし、その合間で作れるアクセサリーだと入賞は無理だと思うしね。間に合わなくても自分でつけたりすればいいし、マーケットに流してもいいから。


「こんちは~。マリアちゃん居る~?」


 店舗側から発言の吹き出しが。発言者はホッブさんだわ。


「いらっしゃいませ、ホッブくん。何かご用ですか?」


「うん! 昨日から神道具で採取や採掘をしていてね。良さそうな素材がたくさん出たから買い取ってもらおうと思ってさ!」


 そういってホッブさんは素材倉庫を開示したの。そうしたらもう、レア度の高い素材が記号付きでゴロゴロと入っていたの! 記号付き素材の価格暴落が起こせるレベルだわ、これ。こうなるのを心配して相談したのにホッブさんは「まあ、なるようになるでいいんじゃないの?」だったもんね・・・・・・。


「あ、これ・・・ちょうど考えていたアクセサリーの素材にいいかも・・・・・・」


 私が目に留めたのは記号付きの煌紅玉というルビーみたいな鮮やかな赤色の宝石の原石。記号は“&”――変異の特性があるものね。アクセサリーで変異-私の予想では固有スキルが付きやすくなる-特性というのがどういう形で現れるのか知りたいし、かなり大きな原石だからゲームの仕様からして結構なサイズの煌紅玉にできるはず。大きな宝石をトップにしたペンダントを作ろうと思っていたのよね。


「ん? 煌紅原石かい? 記号付きの原石価格で、作れるのが煌紅玉だから――54万グランだね。マリアちゃんなら出せる額だと思うけど、買う?」


「ちょうど作りたい物のイメージに合致するので、買い取らせてください」


 54万は結構痛い出費だけど、今受けてる依頼を全部片付けたら余裕で回収できるしね。・・・というか、アクセリオンさんの武器を1~2個作ればお釣りがくるわ。


「まいどあり~。それで、アクセサリーを作るのはやっぱりコンテスト用かな?」


「――ええ。まあ、間に合えばだけどね。お仕事をそっちのけで取り掛かるわけにもいかないし、仕事の合間で作るから間に合うかどうかは微妙なところかしら」


「マリアちゃんは元々アクセサリーとか服とかを作っていたんだし、エントリーしたらきっといい線行くと思うんだけどな~」


「そうね。ホッブさんと知り合ったきっかけも、私が自作したアクセサリーを露天売りしていたところだったもんね」


「生産始めたばかりの子なのは見てすぐにわかったけど、なのにアクセサリーが全部念入りに微調整されたものばかりだったからね。物作りへの情熱というか、気持ちのこもった作品を作る子だなって。それで気に入っちゃったんだよね~」


 そうだったわね。ゲームを始めてそんなにしないうちに私はあんまり戦闘が上手くないことを悟っちゃったの。せっかく買ったゲームなのに楽しくないのは嫌だったから、いろいろとチュートリアルをやり直してみようと思ったのね。その中で生産工程のミニゲームが面白いな~って感じてきて、キャラクターを作り直したのが今の『マリア=ソルナ』なの。


 それから生産に必要なスキルを伸ばすためというより、いろんな物が作れるようになりたい一心でひたすらに生産活動をしていったわ。でも、すぐに資金不足になっちゃって。お金も稼がないと生産ができないから、当時の顔出しマーケットシステム-通称“露天市”でその頃に売れ筋だったアクセサリーを作って売っていたの。そこでやたら熱心に私の作ったアクセサリーを見てる人がいるな~って思ってたお客さんがホッブさんだったの。


『僕と契約して生産職人になってよ』


 ―――って言われた時には一瞬運営に通報しようかと思ったわ。


「ははは。確かにそんなこと言ったね。ちょっとオチャメなフレンド申請のつもりだったんだけどさ」


「初対面でいきなり言われたらドン引きですよ、ほんと」


 そんな思い出話をしながら、私はアイテム倉庫の整理とこれからの作業のための準備を着々と進めていた。だって、間に合わなかったら仕方ないけど最初から間に合わない前提でやるわけじゃないから。あれはあくまで間に合わせられるように頑張ったけどできあがらなかった時の事だから。


 それからしばらく他愛のない話をし、ホッブさんが座っていた椅子から立ち上がった。


「それじゃあそろそろお暇するよ。いくつかのギルドに素材を卸しにいかないといけないからね」


「――それでは、またのお越しをお待ちしていますね」


 私は店員さんのロールプレイでホッブさんを見送り、進めていた準備に従い生産活動を開始した。とりあえず、今日は茶葉10点セットと首飾り、それとアクセリオンさんのナックルとブーツを作るところまでやっちゃおう。

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