第3話 ④

 メンバーを1人増やして5人になった私たちは、さらなる森の深奥部を目指して移動を続けていた。その道中で、私たちはアクセリオンさんの強さというのをまざまざと見せつけられることになったの。


「ちっ、“森林狼”か――」


 『ヒュージー』でも中堅の壁役とされる“森林狼”に気付いてゴルトくんが武器を構えると、すでに片手剣-ブロードソード+10を手に一足飛びで間合いを詰めたアクセリオンさんが右前足を斬りつけていたの。そこから武器を-普通はできないんだけど-へヴィハンマー+10に切り替えて鼻面を強打し、よろめいたところをスマートレイピア+10に切り替えて右眼を貫き、のけぞったところへ霊幻猛炎戦斧槍を叩き込んでトドメをさした。


「フォレスト・ホーネットです!」


 巨大な蜂型の『ヒュージー』に対してサラサちゃんがレイピアを構えて警告を発した時にはジャベリン+10を投擲して右の翅を1枚貫き、バランスを崩して高度を下げたところへ駆け寄りグレートソード+10で左側の翅を切り裂く。飛ぶ力を失い地面に降り立ったところにシュートブーツ+10での回し蹴りを頭部に決めて討伐してしまった。


「す・・・凄いです・・・・・・」


「化け物かよ、マジで・・・・・・」


 戦闘系の育成をしてきた二人から見ても圧倒的な強さだったのね。絶句って表現が相応しい状態になってるわ。フィールドでの武器交換はウェポンマスターのスキルかなにかかしらね。


「強さもだけど、本当にほぼ初期かその次くらいの武器を強化して使っているのね。しかも+10って・・・。普通なら強化しても+5くらいで別の武器に派生させるかレベルに合った新しい武器を作るものでしょうに」


「スキルレベルとアクション補正、それに弱点を突くことでだいたいは倒せるし、+強化の方が素材が少なくて済むからな。+7以上は強化費も少し高くなったけど、+10まで鍛えたら上の下クラスの武器程度には比肩する性能になるしな」


「それでも、通常品質ってことはNPC鍛冶屋での強化でしょう? 腕のいいPC鍛冶屋さんに強化してもらえば+5以降は品質が良くなったかもしれないのに」


「じゃあ、素材と金は出すから一通りの武器を作ってくれ。数があるから時間のある時にぼちぼちやってくれればいいからさ」


「え? あ、そうか。ウェポンマスターって武器系技能をたくさん極めないともらえない称号だったっけ」


「ああ。10個は最低極めないとダメだから。ハルバードは作ってもらったから、あと9個は作ってもらうことになる。片手剣・大剣・短剣・鞭剣・槍・斧・ハンマー・格闘・棍・盾に長柄の11種類を最大まで鍛えてるから、できそうなやつから作ってくれ。どれを作る分にもそれなりの素材はあると思うから」


「何気に10個以上作るよね、それ。ハルバードの長柄をよけても普通に10個あるし、格闘は手と足で別武器だよね? あと盾を武器で使うところを見てみたい」


 と、そこまで言ってハッとなって振り向くと、他の三人が何とも言えない感じでこっちを見てたわ。


「うんうん。打ち解けてくれて何よりだよ。生産がらみの話に持ち込めばきっと意気投合してくれると信じていたよ僕は」


「そ、そっちがウェポンマスターなら、俺は大剣の限界突破をして極めてやるからな!」


 温い視線を向けながらなにやら満足そうなホッブさんと負けん気を爆発させるゴルトくん。サラサちゃんは何やら考えているような雰囲気だけど・・・・・・。


「あの、アクセリオンさん。武器のカテゴリーで刀があったと思うんですが、刀のスキルは鍛えなかったんですか?」


 おずおずといった感じでサラサちゃんがそう尋ねる。刀に興味があるのかな?


「このゲームに“刀”という武器スキルはないよ。武器の対応スキルは使って伸びるまでは何が対応しているのかわからない仕組みなのは知ってると思うけど、刀は片手剣と両手剣をそれぞれ使うタイプの武器だから。バスタードソードの系統と同じ扱いだな。片手で使うときは片手剣、両手で使うときは両手剣のスキルになる。β版の頃から刀スキルを作れって要望が殺到していたのに実装しなかったんだから、運営になにか強いこだわりがあるんだろ」


 そういえばそうだったわね。刀はもちろん私も作ったけど、その形状や使い方で使用するスキルが異なるの。アクセリオンさんが言ったように片手で使えば片手剣、両手で使えば両手剣、小太刀や脇差だと短剣の各スキルになるの。


「刀は武器スキルでの補正の付き方が普通の剣や両手剣と少し違っててクセがあるんだ。筋力ベースなんだけど器用の数値から一定の補正がかかる仕様で、筋力特化で器用が低いと却って威力に下方修正が入る。むしろ筋力がほどほどで器用が高い方が威力が増すんだ。だから鍛冶師みたいに筋力と器用が両方高くないといけないビルドをしているキャラの方が刀を使うには向いている。あと、収納状態からの抜き切りはモーション速度が最速設定になっているから居合の形はそこそこ使えるかな。片手剣スキル一本伸ばしで刀使うなら、派生スキルを厳選してジャストカウンターとかファストカウンター狙いの居合斬りに特化したほうが利点を活かしやすいかもな」


 おお~。なんかすごく語られてしまった。武器に愛着がすごいんだね、アクセリオンさんは。


「刀は使い方で性能に微妙に差ができるから。というか、それぞれのスキルに合った挙動になるっていうのかな? ただ、やっぱり刀は両手で使うのが基本の性能で、片手で使うことのメリットは本当に抜き切りが速いことくらいなの。刀カテゴリーの武器を片手で使うなら、短剣スキルになるけど小太刀とか脇差の方が良いかもね。短剣スキルならではの振りの速さとコンパクトさで手数を稼げるから、一撃の軽さは補えるしね」


「じゃあ、ずっとレイピアで片手剣スキルを伸ばしてきた私だと刀は向いていないのですね。残念です」


 あ、サラサちゃんからしょんぼりオーラが漂っているわ・・・。


「生産職人ギルドのマスターが作った最高品質の刀に固有スキルが付いたとかで、話題になったことがあったはずだけど、マリアは知らないか?」


「生産ギルマスの刀? ああ、『隻腕大刀・無影』のことね。普通の方より長いのに片手専用の刀とかいうやつよね。確か付いた固有スキルって――『隻腕剛鬼』よね。確かにあのスキルが付くなら片手剣専業の人でも刀を使えるかもしれないわ」


 『隻腕剛鬼』は両手持ちの武器を片手で扱えるようになるというスキルで、しかもスキルや補正が両手で扱っているのと同じ状態になるという代物なの。もちろん武器に付く固有スキルなので他の刀に持ち替えるとダメなんだけどね。


「マリアちゃんがまたとんでもアチーブメントを達成して、狙って固有スキルを付けられるようになったらいいのにね」


「そういう怖いことを言わないでください。本当にそういうのがありそうなんですから」


 例えば『最高品質生産で固有スキル付きを10個以上生産した』とか?


 さすがの私も固有スキル付きとか作れてないし、それ以前にそんなアチーブメント、本当にいらいないからね!?


「そういやマリアが固有スキル付きの装備を作ったていうのは聞いたことが無いな。やっぱりできないものなのか?」


「条件がわからないからね。最高品質以上の装備を生産した時に極稀に付くとしか公表されていないし、それに生産で固有スキルが付けられた装備品って今のところ全部で10個もないでしょう?」


 ・・・・・・まあ、私の場合は『素材還元』と『神品質の作成』を延々と繰り返していればそのうち1個くらいはできるかもしれないけど、あんまり試したいとは――少しくらいしか思っていないわよ?


「サラサちゃんが刀を使いたいなら、アクセサリーとかポーションでのブーストとかで補う方法もあるわ。だから本当に使いたくなったら相談に乗るからね」


「俺も実戦での使い方とかなら相談に乗れるから、必要なら声をかけてくれ」


「はい。その時には、お二人に相談をさせていただこうと思います」


 サラサちゃんはお辞儀のモーションをつけてそう言った。イベント終わらせて街に戻れたら、ちょっとその辺りの装飾品類を見繕ってみようかしらね。


 とまあ、すっかりと刀談義に花が咲いていたけれど、私たちは着実に森の最深部へと歩を進めていたわ。そして、ついに“竜のねぐら”と呼び習わされた場所へとたどり着いたの。


「あの巨大樹の根元近くの巨大なウロに踏み込めば“炎顎竜”とご対面だ。戦闘職構成じゃないマリアとホッブは少し離れてろ。強化個体でも3人いれば十分に倒せるからな」


 言われた通り巨大樹から少し離れた茂みに身を隠すようにしゃがみ込んで3人を見送ったの。そして、程なく物凄い唸り声が響き渡ったわ。戦闘が始まったんだなって思いながら巨大樹の方を見ていたら、凄い勢いで巨大なものが飛び出してきたの。赤茶けたワニを思わせる頭に同じ色合いの恐竜めいた胴体と尻尾、四肢は毛皮の代わりに鱗と甲殻で覆われたゴリラか熊の様な太くてごついものという姿。間違いなく“炎顎竜”フラージャルだわ。ただ、今まで見た中でも一番の大きさだけど。よくあのウロから出てこれたなって思うくらいには大きいわね。


 ゴルトくんたち3人もすぐに後を追うように飛び出してきて、攻撃を始めている。サラサちゃんはレイピアで足元を狙って連続攻撃を仕掛け、ゴルトくんは大剣でお腹の辺りや腕を重点的に狙っているわね。


「あ。アクセリオンさん、珍しい武器を使ってるね」


「彼はああいうクセのある武器が好きだからね~」


 アクセリオンさんはその使いにくさからほとんど使う人がいない『鞭剣』を使っていたの。しかも店でも買える「ウィップソード」の+10。形状は革紐系の鞭の先端にナイフ程の刃をつけて鞭の根元に剣の鍔をつけた感じかな。派生強化していけば鞭の部分も鎖や小さな刃に変わっていって攻撃力も上がるんだけど、ウィップソードは本当に先端の刃部分以外の攻撃力はごくわずかなのね。それを+10まで鍛えて使い続けるとか、どんな縛りプレイ大好きさんなんだろうって思うわ。


 だけどアクセリオンさんは本当に『鞭剣』の扱いが上手かった。唯一の利点とされる射程の長さを存分に発揮させて首から上へ攻撃を当てているし、振り回す使い方のために狙ったところに当てにくい欠点もキャラクターの挙動でうまく制御していて無駄がないの。派生スキルとかで補正が入っているんだろうなとは思うけど、本当に上手。だって払いのけようとした腕を支点にして振り子のように急角度で振れた先端が“炎顎竜”の目を傷つけるとか、偶然でもそうそうないことを明らかに狙ってやってるんだもの。


「あ、覚醒状態になったね」


 そういうホッブさんの発言と同時に“炎顎竜”の体色が赤茶けたものから紅蓮の炎を思わせる真紅に変わる。『ヒュージー』でも大型に分類されるものは一定以上のダメージを受けると容姿が変わり、攻撃行動のパターンにも変化が出る。それを覚醒状態というの。相手も痛手を受けて本気になったってところかしら。


「真紅爪、もらったぁっ!!」


 覚醒状態になると同時に鋭く伸びた“炎顎竜”の爪にゴルトくんが全身を投げだすような渾身の一撃を叩きこんだ。あれは大剣の派生スキルの中でも任意で使用する「アクティブスキル」の1つで、部位破壊に特化した『全力渾身斬り』ね。ちゃんと当てればほぼ確実にその部位を破壊できるという強力なスキルだけど、長めの溜め時間と大きく前に出る挙動とこれでもかっていう大振りのせいでなかなか狙った部位に当てるのが難しいという大きな欠点があるの。だから『ミス』か『クリティカル』かの大博打スキルと認識されているわね。


「こちらに注意を向けさせます!」


 言ってサラサちゃんが明らかにスキル挙動の多段連撃を叩きこんだ。


「『多連剣舞』か。なかなか渋いスキルをセットしているね、サラサちゃんも」


 感心したようにホッブさんが言う。『多連剣舞』は派手な動きと素早い連続攻撃で相手の注意を引くことが主眼とされる片手剣のアクティブスキル。だからたぶん、この連携は二人で打ち合わせ済みだったんだと思うの。素材収集の一環で狩りをすることは事前に決めていたからゴルトくんは素材獲得のために部位破壊-破壊された部位の素材が追加されるからね-を狙い、そのスキルで無防備になるゴルトくんをフォローするためにダメージと共に『ヒュージー』の注意を引きつける効果を持つスキルをサラサちゃんが付けるって感じでね。


 そんな二人の連携の横で、アクセリオンさんは盾を装備していたわ。しかも序盤のお店で買えるラージシールドの+10。・・・壁役でもしていたのかしら? 盾って+強化をしても受け流し率とダメージ軽減率が少し上昇するくらいの効果しかなかったと思うんだけど・・・。


「そういえば、なんで盾が武器スキルのカテゴリーなんだろうね」


 そうホッブさんが発言した直後、アクセリオンさんが真正面から盾でフラージャルの大顎を横殴りに強打したの。


「片手用の打撃武器扱い? それならハンマーのカテゴリーにある棍棒とかメイスとかでいいんじゃないの? あんな使い方したら盾の防具性能が発揮されないと思うんだけど?」


 もはや疑問符ばかりが頭の中をグルグルする。一応、片手用武器のスキルを一定以上成長させることで派生する『二刀流』スキルを使っているっぽい――って、いつの間にか鞭剣をショートソード+10に持ち替えてるし。あの組み合わせにしたらなにか補正でも付くのかしら?


「ふんっ」


 “炎顎竜”がその名を表す燃焼液を吐きつけてきたのをアクセリオンさんが盾で受け止め、その隙に左右に分かれたゴルトくんとサラサちゃんがさらなる攻撃を重ねていく。


「属性の相性は悪いが、素の攻撃力で押し切れるか」


 呟きというには大きかったアクセリオンさんの発言が表示され、何だろうと思って目を向けたらあの戦斧槍に装備を交換してギミックを使おうとしていた。元の幻玉紅蓮斧槍に組み込まれたギミック――それは『変形』。鉤刃を上向きに畳み、斧刃ごと下へ引き下げると槍刃を頂点とした炎の刃が形成されるの。『炎刃』形態って公式HPには紹介されていたっけ。


「炎属性の『ヒュージー』に炎刃じゃあイマイチだと思ったけど、今回の手応えからみてもこれで十分いけるだろ」

 そういうと、並みの両手剣より大きな炎の大剣となった霊幻猛炎戦斧槍を大上段から振り下ろす。それに合わせて足止めをしていた二人が離れ、“炎顎竜”フラージャルは一刀両断とばかりに頭頂部から斬り伏せられた。


【シークレット・イベント“大森林の異変”COMPLETE!!】


 あ。イベントクリアの通知がきたわ。取りあえずこれで街には戻れるようになったわね。

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