第3話 ③

「釣りの成果も良いが、なんか森の分布がおかしい気がする。さすがに“森狼”が多すぎる」


「数匹くらいの小さな群れがいくつかいるくらいの場所のはずですが、明らかに中くらいの規模の群れがいると思います。下手をしたら、ボス格の“森林狼”もいるかもしれません」


「気になるね。ちょっと調べてみるよ」


 警戒をしてくれていたゴルトくんとサラサちゃんの話を聞き、ホッブさんが周辺探索用のアイテムを使う。“警戒鳥”は名前の通り、使用者から一定の範囲にいる『ヒュージー』を感知してマップ画面に表示してくれるの。効果時間が20秒と短いのが玉にキズだけど、状況を把握するという意味では十分なのよね。


「これはちょっと変だね」


 言ってホッブさんがマップ情報の共有を行う。そして、表示されたマップを見て息をのんだ。


「森の深奥部から“森狼”が大量に中層域のエリアへ出てきてるじゃねえか!? そんなイベント、聞いてねえよ!」


 ゴルトくんが怒ったように大きな声で言った。・・・・・・ようにじゃなくて、本当に怒ってるわね。それでもどこかを目指すというより全方位的に出てきている感じだから、何かに追い立てられているというか、深奥部から逃げ出してきているというか・・・。


【シークレット・イベントが開始されました。“大森林の異変”開始のため、戦闘不能以外でのフィールドアウトは一時禁止となります。また、イベント終了までフィールドはロックされ、新規参加及び再参加はできません】


「シークレット・イベントか~。β版で実験的に2~3回実施されたけど、正式リリースからこっち全然話題に上らなかったから実施は見合わせたんだとばかり思っていたんだけどね」


 やれやれといった様子でホッブさんが言った。ホッブさんが言うにはβ版の時に全くの事前情報なしに突発的な大規模イベントが起きるということがあったらしいの。流れなんかも今回とほぼ一緒だったみたい。フィールド状況の急変というのはプレーヤーにとっては時に致命的なものとなるため、モニターアンケートではブーイングが溢れたらしい。正式リリースから4年目になっても全く音沙汰なかったので運営側も実施は諦めたのだと思っていたらしいわ。


「いま、この森フィールドにどれだけプレーヤーがいて、そのうちの何人が深奥部へ挑んでこの異変の謎を解こうとするかは未知数。だけどクリアしないとフィールドアウトできないってことは、下手をすると僕らで解決しないとせっかく手に入れた素材を全部放棄して強制ログアウトするくらいしか手がない状況だ」


 改めて現状を説明されるとゴルトくんが怒りたくなるのも、β版プレーヤーが実装反対に傾いたことも分かるかも。任意参加ならまだしも、強制的に参加させた上にフィールドロックされたら普通に困るもの。リアルの方で何かあって中座することも難しいじゃない? ちょっとした時間つぶし程度のつもりだった人がこんな閉じ込められたような状況になったら普通に困るでしょ?


「キャンプ地に戻ることもできないみたいですね。本当に、ゲームの電源を落として無理やりログアウトするしか中断できないみたいです」


「―――なら、異変の解決とやらをすればいいだけだ。違うか?」


 不意にフレンドチャットに発言してきた人がいた。反応したのは私とホッブさん。私たちの反応を見て遅れて反応したゴルトくんとサラサちゃんも含めた四人の視線の先にいたのはアクセリオンさんだった。


「β版の時も思ったが、イベントなんだからクリアすればいいだけだ。あの時もだいたい原因は強化された『ヒュージー』が暴れているからそれを倒せば終わりって感じのやつばっかりだったしな。追加実装の『ヒュージー』もないだろうし、ならいても“炎顎竜”くらいだ」


「ていうか、誰だお前。反応からしてホッブやマリアの知り合いみたいだが?」


「ああ、彼は僕の古い友達さ。アクセリオン、彼らは僕たちの友達だよ」


 アクセリオンさんとは初対面なゴルトくんが胡乱げな雰囲気を出していたからかホッブさんが仲介に入って双方に紹介する。サラサちゃんは納得した様子だけど、ゴルトくんはまだ警戒しているようね。


「その二人がマリア=ソルナのフレンドなのは装備を見ればわかる。神品質の武器や防具一式なんて装備、マリア=ソルナからしか調達できないだろ。しかもその作成は常連でフレンドという条件付きだったんだから答えは自明だ」


 そう言いながらアクセリオンさんはこの間私が作った戦斧槍を取り出して見せた。この『霊幻猛炎戦斧槍』は幻玉紅蓮斧槍というハルバードのユニーク武器なの。ちなみに命名したのは私ね。


「俺がソロで狩ってきた方が早い気もするが、お前たちがやる気ならパーティーに加わるぞ?」


 そう言ってアクセリオンさんは私にパーティー申請を送ってきた。そういえば今は私がパーティーリーダーだったっけ。


「彼はウェポンマスターだから強さは保証するよ。それこそ、本当に強化“炎顎竜”をソロで狩れるくらいの腕はあるからね」


 ホッブさんの言葉にゴルトくんとサラサちゃんが顔を見合わせて驚く。視点設定によってはVRバイザーの移動センサーによってキャラクターが向きを変えるくらいのアクションするからね。


「強い奴なら、まあ、俺は構わないぞ」


「私も構いません。マリアさんの判断に従います」


「じゃあ、パーティー許可、と。よろしくね、アクセリオンさん」


「ああ」


 ん? なんかキャラを通してアクセリオンさんの視線を感じるような錯覚が・・・。


 ま、まあ、気のせいよね。キャラの目がパーティーリーダーを追尾するのは仕様だし。


 そうして、改めて5人パーティーになった私たちは森の深奥部にいるであろうイベントボスを目指して進んでいくことになったの。

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