第3話 ①

 大人気オンラインゲーム『BSオンライン』で「マリア=ソルナの生産ショップ」を開いている、生産職プレーヤーの女子高生1年目の陽月真理亜です。看板にも入れてるマリア=ソルナが私のPC名よ。戦闘アクションはそれほど上手いってわけじゃなくて、どちらかというとキャラクターを着飾ったりする方が好きだったからアクセサリーや服を作りたくて生産系のスキルを伸ばし始めたんだけど、このゲームでは生産工程がリズムゲームやパズルゲームみたいなミニゲーム仕様になっていて、それが戦闘よりも私にはまったのね。


 そのまま勢いで色々と作り溜めて、資金調達も兼ねて他のプレーヤーさんたちに私が作ったものがどう評価されるのか試そうと思って販売を始めたの。最初はマーケットボードやフリーマーケット広場で小出しに売り出したんだけど、思いのほか好評で良く売れたのよね。それで予想以上にお金が貯まったから思い切ってお店を構えることにしたの。


 だけど注文が殺到して忙殺されるとかっていうのは遠慮したかったから街外れの入り組んだところを選んで、顔出しでやってたフリーマーケットで仲良くなったフレンドさんを中心に、原則紹介制の常連さんをメイン顧客として営業しているの。


 時々自力でたどり着いたり迷い込んできたりする人もいて、そういう人はそういう人でちゃんと対応するけどね。あとはまあ、たまにだけど常連さん経由でギルドさんからの大口注文も受けるかな。


「さて。今日は久々にフィールド探索に出るけど、武器はどれにしようかな・・・・・・」


 今日は素材採集のためにフィールドへ行くつもりなの。普段はマーケットボードで買ったり、常連さんやフレンドさんから買ったりしているんだけど、ちょっと前から作れるようになった『神品質』で作った採集道具や装備を自分で試してみたくなったのよね。


 それで、街の外に出るとやっぱり『ヒュージー』がいるわけだから武器くらいは持っていかないとってことで選んでいるんだけど・・・・・・我ながら色々と作ったせいでどれを持っていこうか迷ってるの。


 実のところ、戦闘が苦手なわりに武器関係のスキルは全体的にそこそこ伸ばしててね。一通りの武器種を作ってみて、どういう使用感になるのかを確認するために全部自分で使ってみてたらある程度あがっちゃって。


 最近新しくフレンドになったアクセリオンさんみたいに“ウェポンマスター”の称号が付くほど極めたわけじゃないけど、どんな武器でも脱初心者といえるくらいには使える程度の武器スキルにはなっているわ。


「――まあ、採集用の道具でも武器代わりにはなるのよね。マイナス補正が大きくて普通は誰も使わないけど・・・・・・ああ、いや、現実逃避は止めよう。・・・・・・もう、これでいいかな」


 悩んだ結果、選んだのは短剣のカテゴリーから『銀嶺の氷竜刃』――絶零氷塊とミスリル銀と白氷竜の爪を使って作った氷属性の短剣よ。短剣カテゴリーの武器は生産職の命ともいうべき器用の能力値が基準となってダメージが算出されるから使い勝手がいいのよね。それに銀嶺の氷竜刃は属性効果値が高いから、攻撃した対象の動きを鈍らせる「鈍化」の状態異常を付与しやすいの。相手の動きが鈍れば逃げたりするのもしやすくなるからね。ちなみにこれは自分用に作った神品質の武器の1つなの。


「採集道具も入ってるし、緊急用の回復アイテムも入れたし。それじゃあ出発しましょうか」


 そういって店を出て『CLOSED』に切り替えたところで見慣れた人たちと出会った。


「ん? 今日は珍しく外に出るのか?」


 そう声を掛けてきたのは長身美青年のゴルト=ヴェーガくん。


「それですと、今日はお店をお休みにされるのですね」


 ちょっと残念そうに言っているのはモデル美女風のサラサ=スーンちゃん。


「見た感じからして素材採取かな? 欲しいものがあるなら言ってくれれば売ってあげるのに」


 そう言ったのは色違いの目をした少年のホッブ=ラースさん。


「久しぶりに勢ぞろいですね。素材集めに1時間程度いくつかのフィールドを回ってこようと思っているだけですので、その後からはお店は営業しますよ」


「マリアちゃん、店員さん言葉になってるよ~」


 おっと。フレンドさん相手にお店でたまに素の自分が出ることはあったけど、お店の外で店員言葉が出たのは久々だわ。ホッブさんもスルーしてくれればいいのに・・・。


「どうして急に素材集めなんだ? 急ぎの仕事か?」


「そういうわけじゃないの。みんなの装備を作る時にも言ったけど、私って『神品質』が作れるようになったでしょ? 今まではみんなや自分の武器とか防具とかばかり作ってたけど、生産や採集に使う道具も作ってみたら『神品質』が作れちゃって。その道具を使って採集したらどうなるのか試してみようと思ったのよ」


「へ~。神品質の採集道具か~。いいな~」


 うん。予想通りにホッブさんが食いついてきたわね。


「最初はホッブさんに試してもらおうかと思ったんだけど、ホッブさんだとスキルレベルが高すぎて道具の効果かスキルレベルのおかげかわかりにくいかもって思ったから、まずは自分で試してみることにしたの。今回の検証が済めば次はホッブさんに試してもらうつもりよ」


 そう伝えるとホッブさんのキャラが小躍りを始めたわ。とりあえず喜んでもらえたみたいね。


「それでしたら、私たちもご一緒しませんか? 護衛と言うと偉そうかもしれませんが、せっかくの道具類を試すのですし、採取難度の高いものでも試してみる方がいいと思いますので」


「サラサの言うとおりだな。それに、せっかく久々に集まったのに1時間待ちぼうけっていうのもつまらんし」


 あれ? これはみんなついてくる流れなの? そういう高難度の採取はホッブさんにお願いするつもりだったんだけどなー。


「待ってるくらいなら一緒に行く方が良いよね、やっぱり! そういうわけだから、いろんな採集活動を網羅できる僕お勧めの採集ツアーを案内してあげるね~」


 あ。これ、拒否権が無いやつだ。・・・まあ、この人たちなら見られてもいいか。



 そういうわけで、私はフレンドさんたちとパーティーを組んでフィールドへ出向いた。現在実装されているフィールドは森・高原・荒野・沼地・雪山・火山・孤島の7種。それぞれのフィールドはシームレスの広大なマップになっていて、外縁部から深奥部に向かうことで難易度が上がっていくという仕組みなの。


「ほい。それじゃあ『清澄なる大森林』へ行くよ~」


 街門でホッブさんが行き先を指定して出発する。この森のフィールドはゲーム開始時のチュートリアルで使われるくらい初心者向けの場所なんだけど、それだけにいろいろと序盤から必須となるアイテムの素材が手に入りやすいからベテランと言われるようになっても定期的に通う人は多いわ。あと、深奥部が上級者でも歯ごたえのある高難度のフィールドになっているのはお約束ね。


 読み込み時間を移動演出のアニメーションで過ごし、到着したのは森の入り口に設けられたキャンプ地。ここはパーティー単位でしか入れない作りになっているけど、ここからフィールドに出ると他のパーティーと出会う可能性がある。ある程度サーバーで振り分けられるみたいだけど、疑似オープンフィールド仕様ということでパーティーが複数同時に活動できるようになっているの。まあ、フィールドはかなり広いし、出る場所もある程度選べるからあんまり顔を合わせることって少ないんだけど、人気のスポットはどうしても取り合いになりがちかしら。今回の目的である採集であればプレーヤーごとに採集ポイントが出現するし、かぶっても全員が採集できるようになっているけど、『ヒュージー』はさすがにそうはいかないからね。


「採取ナイフにツルハシ、伐採斧に釣り竿と解体ナイフと一通り用意してあるんだよね? じゃあ、まずは草花やキノコからだね」


 そういってホッブさんが進んでいくのは探索系スキルを高レベルで複数所持するキャラクターじゃないと発見できない隠し通路。パーティーを組んでいるから私たちも進んでいけるのね。


「ここには回復ポーションに使う薬草や癒し茸なんかが良く採れるスポットがたくさんあるからね。駆け出し錬金術師の人のためにマーケットボードへ流すにはちょうどいいところなのさ」


 ホッブさんが得意げな様子で説明してくれるのを聞きながら、私は装備してる採取ナイフを使って薬草を取ってみた。比較のために神品質と高品質くらいのものを付け替えながら、とりあえず交互に1回ずつね。


「へえ。元々ここは記号付きが出やすいけど、一発で記号付きが出るなんてすごいね。やっぱり神品質だからかな?」


 アイテム入手ログをパーティーで共有する設定にしているから、神品質のナイフで記号付きと呼ばれる高品質な薬草が採れたことがわかってホッブさんが興味深そうに聞いてきた。


「前に使ってた高品質の方は記号なしだったからそうかもしれないけど、出やすいだけなら神品質のおかげとは言い切れないかな。ポイントを変えながらもっと回数を増やして試してみるね」


 そういって、私は薬草に限定して何か所かを回り10回ずつ試した。


 結果から言えば神品質の道具だと10回中10回全部が記号付きだったので、ほぼ確実に記号付きが出ると言えそうかな。ちなみに出た記号の種類は今の私がわかる中で一番品質が良さそうな“%”が付いているのが一番多くて6個、私にとってもまだ謎の“@”と“&”が2個ずつね。


「さすがにいくら出やすいって言っても10回連続で記号付きは天文学的確率だからね。検証回数云々は置いておいてもいいんじゃないかな。じゃあ、あとは森の深奥部に向かいながら採掘と伐採、それに釣りを試してみようか」


 素材採集のプロであるホッブさんの意見にみんなうなずくと、森の奥へと向かって移動を始めた。


「しかしいいポイントだったな。ホッブが一緒じゃないと行けないのが残念だが」


「それは別に、ホッブさんに同行して頂けばよろしいのでないですか?」


「僕もいつでも暇なわけじゃないからね~。頑張って野外系のスキルや探索系のスキルを成長させなよ~」


「戦闘メインの人が行けるようになったら採集メインの人が活躍できなくなるでしょ? ゴルトくんは記号付き素材が欲しいならホッブさんから買おうよ。それが“棲み分け”だと思うな」


 そんな会話を交わしつつ、私たちがやってきたのは伐採場と呼び習わされた場所だ。いわゆる伐採可能とされる樹木が密集しているので、採集メインの人が枝や原木といった木材系の素材を手に入れるための伐採スキルを鍛えるために打って付けの場所なの。まあ、今じゃほとんど人は来ないけどね。バージョンアップの関係で新規ユーザーさんのスタートダッシュがサポートされてからはここで上げる程度のスキルレベルはすぐに上がっちゃうようになったし、ここの素材は森フィールドならありふれているからわざわざ来なくなっちゃったのよね、みんな。

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