第2話 ③
『クエスト中なのでまだあと10分ほどかかる。命名は任せるからしておいてくれ』
アクセリオンさんからの返信はこうだった。命名はこっちでしちゃってOKか。命名のセンスとかも試されてるのかな? まあ、自分では思いつかないとか自分のネーミングセンスに自信がない人とかから丸投げされることは珍しくないしね。
「元が幻玉紅蓮斧槍だし、炎属性ハルバードで名前被りしないように確認して――うん、それじゃあ『霊幻猛炎戦斧槍』で命名っと」
武器の名前は素材から拾ってつけるのが一般的だからね。霊幻玉、猛火茸、爆炎草からそれぞれもらってまとめた名前は、私的には満足のいくものだったわ。
名前を考えるのに時間をかけたこともあり、命名をして程なくアクセリオンさんがやってきた。
「おおっ。本当にユニーク武器になっているんだな。名前も世界観に合っているし、悪くない。――うん。これならホッブの言うように今後の生産依頼はここに一任することにしよう」
「贔屓にしてくださるならありがたいです。よろしければフレンド登録をしませんか? 常連フレンドさんのみを対象とした特典が受けられますよ?」
「特典? いったい何をしてくれるんだ?」
「特典の内容は常連フレンドとなられた方のみに開示していますので、現状対象ではない方へは開示できません。アクセリオンさんはホッブくんの紹介ですから今後贔屓にしてくださるとの事で常連客として登録いたします。フレンド登録はまた別の話ですし、個々の方のプレイ指針もあると思いますのでこちらから無理強いはしたしません」
私の話を聞き、アクセリオンさんが悩む様子がスピーカー越しでもわかる。まあ、かなり軽いノリでフレンド登録した人もいるけどね。ゴルトくんとか。でも、実際プレーヤーがリアルでどんな人間がわからないのに安易にフレンド登録をするのは躊躇われるというのもわかるの。フレンド登録した相手からストーキングされたとかって話も珍しいものでもないし。
「まあ、あのホッブが紹介するやつが性質の悪いプレーヤーなわけないか。よし、フレンド登録をしよう。こっちから申請すればいいのか?」
「いえ、こちらから申請メールを送りますので承認していただければOKです」
言って私はフレンド申請メールをアクセリオンさん宛てに送信する。するとほぼノータイムで承認メッセージが来た。
「登録を確認しました。それでは特典について説明したいと思いますが、お時間等よろしいですか?」
「ああ。特に用事はないから、頼む」
「承りました。では特典ですが、まずは生産費用の割引です。基本は市場価格の1割引きで、全素材持込み時には追加で値引きをさせてもらいます。追加値引きは切りのいい数字にする程度と考えてください」
ますは基本の値引きサービスについて伝える。そして、ここからが大事なところなので一度私は言葉を切った。
「それでですね。ここからが非公開の理由となる特典の説明ですが、こちらの特典についてはこちらから解禁すると言うまでは常連フレンドの方以外には決して口外しないでください」
「そんな大ごとな内容なのか? まあ、秘密にしろって言うなら禁止ワードにでも設定するけど、肩透かしはやめてくれよ?」
「ありがとうございます。ちなみにアクセリオンさんはオーラをまとったデザインが異なる装備品というものを見かけたことはありますか?」
「いや、俺は直接見たことはないな。掲示板とかで目撃情報がちらほら流れている程度だと記憶しているけど、それがどうしたんだ?」
「結論から言えばあれの出所は私なんです。神品質というユニークアイテムの派生みたいなものなんですけれど、今のところ私以外に作れるという人を知らないです。それで、常連のフレンドさんに限り神品質のアイテムの生産依頼を受注するとしています。ひとつ作るのも普通の生産工程より大変なので、私一人で捌ける程度にとどめたいんですよ」
しかしそろそろユニーク生産10個くらい達成した職人さんは出てきていてもおかしくないと思うのに。このゲームでは完成品を手に入れるには生産するか運営さんからの特典くらいしかないし、珍しいかもしれないけどそこそこ見かける程度にはユニークアイテムは出回っている。それなのにいまだに私しかあの条件を達成できていないというのは疑問でしかないのよね。
「そういうことなら神品質ってやつについては発言制限にいれておくよ」
「ありがとうございます。いずれは誰かが気付いてしまうと思いますし、生産可能な人も出てくると思うので、そうなれば解禁にしようと思いますのでそれまでは極力口外しないようにご協力お願いします」
「ああ。それじゃあ、また装備なり道具なり必要になったら顔を出すよ。じゃあな」
そういってアクセリオンさんは帰っていったわ。それを見送ってから時間を確認して、そろそろ寝ないといけない時間だと気付く。素材加工とかいろいろ気になることもあるけどそれはまた明日以降にしましょう。
それじゃあ、おやすみなさい。
【第2話・終】
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