第2話 ②

 ゴルトくんを見送ってから店内で待つこと10分くらい。黒髪に金銀妖瞳の男の子が赤毛の男の人を連れてやってきた。


「いらっしゃいませ、ホッブくん。そして、ようこそ新しいお客様」


 そう声を掛け、私はアイテムからウェルカムドリンクの『ハッピージュース』を取り出してテーブルに置く。


「えっと、これは?」


「初めてのお客様へのウェルカムドリンクのサービスです。遠慮なく飲んでください」


「ハッピージュースかあ。いいな~、僕も欲しいな~」


 こらこらホッブさん。今まで何人も紹介してきたあなたはここのシステムはよく知っているでしょう?


「ご紹介者の方にはこちらをどうぞ」


 なりきりを崩さず、私は別のドリンクを出す。


「わお。ラッキーサイダーじゃん! やったね!」


 ホッブさんは子供キャラを演じながら出されたジュースをパッと取ってグイッと飲み干す。それを見て、お連れさんもおずおずといった様子でドリンクを取って飲んだ。


「ログアウトするまでレア獲得率+20%とか、マジかよ!?」


「無料提供は初回だけですが、当店で購入も可能ですよ」


 付加効果に驚く新顔さんに軽くセールスを。効果に見合ったグランが必要なので常用は出来ないと思うけどね。素材も貴重だし。


「ちなみにラッキーサイダーは1クエストの間レア素材獲得率+30%だよん」


 ホッブさんの話にさらに驚いている新顔さん。それなりに有名なアイテムだと思うけど、こういうアイテムはあまり使ってこなかった人かな?


「ジュースも飲んだし、そろそろ紹介しないとね。彼はアクセリオンくん。大体の武器なら何でも高レベルで使いこなすウェポンマスターさ。ちなみに僕とはβ版の頃からのお友達だよ!」


 だったらなんで今まで連れてこなかったんだろう? あ、や、そうじゃないよね。ウェポンマスターの称号持ちなんだ。10種類くらい武器スキルを最大まで鍛えないともらえないんじゃなかったかしら。一つ二つの武器なら鍛えきった人も見かけるけど、20個はねえ。私だって自作の装備を試すために最低限武器スキルは鍛えているけど、半ばまで育てると急激に成長しにくくなるの。今は最大レベルが50なんだけど、30もあれば装備の条件としては問題なくなるからそれ以上に上げなくても良くなるし。


「βの頃からひたすらいろんな武器を使っていたらそうなっていただけだ。それはまあ、7個くらい鍛えきったころには称号目指そうって意識したけど」


「なるほど。でも、それだけの武器を用意するのも大変ではなかったですか?」


「安い初期武器を強化して使ってたから。アチーブメントは無理に狙ってなかったし。とりあえず回数こなせばレベルは上がるしな」


 あー、確かにいるね、そういう人。初期装備というか、各武器種を選んだ時に最初にもらえる武器のことなんだけど、あれも鍛えればそれなりに強くはなるわ。ただ、それよりも先に手に入れた素材で違う武器を作る方がその場その場では強くなるし、同じ鍛えるならそうして作った武器を鍛えた方がやっぱり強くなるから。


「ね? 変わってるでしょう、彼。でもさ、ウェポンマスターになったし良い武器作った方がいいよって話したらいい鍛冶屋を教えて欲しいって言うからさ~」


「ホッブから最高品質確定の鍛冶師を知ってるって言ってたからな」


 ちょっとホッブさんをにらむ。勝手にハードルを上げないでほしいわ。それはまあ、普通にやればそれなりの品質にはなると思うけど。最高品質を前提と言われるとランクの高い武器とかだと「最高」にはならないかもしれないじゃない。


「それで、腕を見たいから武器を一つ発注しても良いか? 幻玉紅蓮斧槍は作れるよな?」


「はい。問題ないですよ。加工素材が多いので1時間ほどかかりますがよろしいですか?」


「ああ。その間は狩りにでも行くから。製作費用は230万グランだな」


「紹介割引になりますから200万グランで結構ですよ」


「・・・・・・思い切った割引だな。いや、嬉しいからそれでお願いするよ」


 うん。入金確認、と。


「それでは1時間を目安に、完成しましたら連絡を入れますので」


「ああ、頼む。それじゃあ、またあとで」


 そう言って連絡先の交換をするとアクセリオンさんは店を後にした。


「・・・・・・ホッブくんはいかないんですか?」


「まあ、僕自身も君に用事があるからね。ほら、こんな素材が手に入ったんだよ」


 そういうと、ホッブさんはレア素材倉庫を開いてそこにぎっしりと詰まった素材の数々を提示してきた。


「自分のコレクション用には全部よけてあるから、気になるものがあるならどんどん買い取ってほしいんだよね」


「それはまあ、欲しいものはたくさんありますよ。私のレベルやスキルだと取りに行けない物も多いですから。ただ、市場価格を考えるといくら春休みの依頼消化で資金があるといっても限界がありますし」


 採取・採掘・伐採・育成といったスキルが最大になっているホッブさんでないと手に入らないような素材も多く、それらすべてを買い取るにはさすがに資金が足りない。これは取り置きをお願いすることも考えないとダメかもだわ。


「天上蒼玉と絶氷大樹の原木、虹色スミレに黄金小麦を10ずつ買います。あと、無理のない範囲でいいので属性大樹の原木と心茶の葉は取り置きしてもらえませんか?」


「マリアの頼みならもちろんOKだよ! 煉獄大樹と風塵大樹と覇岩大樹と天光大樹と深闇大樹に心茶の葉、と。取り置きボックスに移しておいたからこれで大丈夫。また資金ができたら買ってね」


 よし。これで需要の高い属性武器の材料が確保できたわ。心茶はお茶系アイテムを作る時の基礎素材だからいつでも確保しておきたいのよね。


「それはそうと、最近鍛冶ばっかりだね。ゴールデンウィークのイベントに『スプリングウェア・コンテスト』とか『GWアクセサリー品評会』とかいろいろ生産系のイベントあるみたいだから、エントリーしてみたらいいのに」


「鍛冶仕事が多いのはこのゲームの性質上仕方のないことですから。イベントについては自分でも調べながら検討してみますよ。それでは私は作業に入りますので一時閉店とさせていただきます。またのご来店をお待ちしていますね」


「了解。それじゃあ、またいい素材が手に入ったら持ってくるねー」


 そう言って店を後にするホッブさんを見送ると、お店の扉を『CLOSED』に設定してから工房に向かう。今のところ実装されている中では一番レア度の高い武器を最高品質で作ってほしいとか、生産職に対する挑戦よね。


 幻玉紅蓮斧槍は霊幻玉という宝珠をあしらった炎属性のハルバードなんだけど、名前の由来である紅蓮飛竜の鱗や甲殻、牙に爪をふんだんに使うし、爆薬草とか猛火茸に煌炎鋼などのヒュージー以外の素材もレアなものを使うから難易度は高めなの。


「そういえば、煌炎鋼って炎煌石と鋼鉄岩をファイアポーションで溶かし固めて作っているのよね。神品質についてはホッブさんのセリフではないけど最近鍛冶ばかりだったから、素材加工で神への挑戦!をしたら神品質の素材になるのかしら?」


 そんなことをふと思う。武器や防具では【神への挑戦!】ができるのはこれまでさんざんやってきたのだから間違いない。けど、おしゃれ用の類やアクセサリー類、消費アイテムや加工素材アイテムなどの作成でもできるのかは試していない。私としたことが研究不足にもほどがあるわ。


「とはいえ今は依頼の品が先よね。パーツ工程が斧刃・槍身・鉤刃・長柄・柄頭か。それにこの武器はギミックがあるから組み立て工程も神経使うし、微調整は手間取りそうね」


 それでもプライドにかけて最高品質を作り上げて見せるけどね!


 錬金水に細かく裂いた猛火茸と爆炎草を入れて弱火で煮る。その間に煌炎鋼を溶かし、パーツごとの型に流し込んで硬化結晶液に漬け込んで固める。固まったら煮出した液体をまぶしつつ磨き上げる。綺麗に磨き上げたら刃出しのために炎妖精の砥石でひたすら研ぐ。刃が研ぎ出せたら属性安定剤を溶いた液に浸しておく。その時間で霊幻玉をカットして磨いて成形しておく。


 パーツができあがったら組み立て工程に。長柄にギミック用の細工を施してから斧刃→鉤刃→槍身→柄頭の順で取り付けていく。ギミックとの噛み合わせや結合部の強度を確かめながら最適な形で取り付ける。


 そしていつもの数字の羅列をいじる微調整。新顔さんの初依頼だとどんな風に武器を使うのか、どんな思い入れがあるのか、どういうのが好みなのか、などの情報がないから微調整の最適解へのイメージが難しい。それでもほとんどの武器種を極めた人だという情報はある。ぶっきらぼうに見せているけど根っこは素直で優しい感じがする。色々な武器を使い分けるけど、一つ一つの武器を大切にしてくれる雰囲気は感じた。なら、こういう調整が合っている気がするな。


「あ。まさかのユニーク認定が付いちゃった。命名はどうしよう。一応、連絡の時に一文入れておこっか」


 ということで、完成連絡と併せてユニーク武器になったことを知らせる一文をつけた。

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