第2話:ゴールド公爵ヴィルヘイム卿

「はぁあ、借金の肩代わりだけでなく、ガマガエルまで潰してくれるんですか?

 そんな都合のいい話を、信じろと言うのですか?」


 ダニアは父親が親友に騙されてから、少々疑い深くなっていた。

 元々は父同様お人好しな性格だったのだが……


「それだけこちらのお願いが厳しいモノとお考えください、ダニア様」


 ダニアは真剣に悩んだ。

 よほど酷いお願いでない限り、ガマガエルに嬲られるよりはマシだった。

 だが、冷酷非情と噂されるゴールド公爵のお願いである。

 ダニアが考え付く最悪より酷いお願いという事もありえる。


「そのお願いの内容を教えてください、そうでなければ返事できません。

 父親が親友に騙されたばかりで、人が信じられなくなっているのです」


「そのお気持ちはよく分かりますよ、ダニア様、ええよく分かりますとも。

 ただ私にはその条件をお話する権限がありません。

 お願いを聞いてくださる気があるのなら、ゴールド公爵閣下が直接お話されますので、屋敷までご同道願います」


 ダニアは正直ムッとした。

 あのゴールド公爵家の筆頭家臣ともあろう者が、お願いの内容も話せないというのは、絶対に嘘だと思った。

 だが直ぐにその考えを否定した。

 相手は王国を陰で支配しているゴールド公爵だ。

 筆頭家臣であろうと、全く信用していない可能性があると思い直したのだ。


「分かりました、同道させてもらいますが、私の身の安全は、ロメロ準男爵殿が保証してくださるのですね?」


「この命に代えましても、誰であろうとダニア様に指一本触れさせない事、保証させていただきます」


 男爵家にふさわしいささやかな屋敷を出たダニアが見たのは、国王の馬車よりも豪華絢爛な金銀財宝に飾られた馬車と、完全武装の正規騎士二百騎だった。

 王国最強と噂されるゴールド公爵家の騎士二百騎がいれば、小国が相手なら直ぐに占領できるほどの戦力だ。

 そんな国王の行幸以上の護衛に護られて、ダニアは唖然としながらゴールド公爵邸に向かったが、屋敷に入って公爵と会って、顎が外れるかと思うほど驚愕した。


 ダニアは自分の目の前にいる男性が、ゴールド公爵とはとても信じられなかった。

 何時散髪したか分からないほどボサボサの髪型をして、髭も全く手入れされていない伸び放題で、上布団を頭からかぶって、自分から隠れるようにしている男性を、どうしたら冷酷非情と評判のゴールド公爵だと思えるというのだろう。


 しかもそのボサボサ頭の男の周りを、完全武装の騎士団が厳重に警備しており、屋敷に来ていたロメロ準男爵が恭しく接しているから、影武者という事もない。

 そもそも影武者なら、もっと公爵らしい格好をさせているだろう。

 ダニアは混乱の極致に陥った。

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