没落男爵令嬢ですが、本家の引きこもり初老公爵と政略結婚させられます。

克全

第1話:政略結婚希望

 ダイン男爵家令嬢ダニアの前には、本家の筆頭家臣が座っている。

 陪臣なので、表向きへりくだってはいるが、その実力は王家重臣を凌ぐ。

 ランド・スチュワード、家令、家司、城代家老、呼び方は国や時代、各家の規模で違っているが、セント・クルシー王国を陰で支配しているという評判の、本家ゴールド公爵家の最高実力者に違いない。


「それで、ロメロ準男爵殿、しがない男爵家にお願いとは、いったい何ですか?」


 ダニアの正直な気持ちは、うんざりしていた。

 相談やお願いをしたいのは、ダニア、いや、ダイン男爵家の方だった。

 お人好しの父、ダイン男爵が友人に騙されて保証人となり、莫大な借金を背負されてしまい、男爵位を売らなければいけない状態になっていたのだ。

 ゴールド公爵家の権力と財力ならば、どうとでもできる事なのだが、五代も前に分かれて、普段全く親戚付き合いしていないダイン男爵家としては、冷酷非情と評判のゴールド公爵ヴィルヘイムに頼む事などできなかった。


「あ、はん、ゴールド公爵は、ダイン男爵家の事情は全て把握しておられます。

 当主ジョナサン卿が友人に騙され、莫大な借金を抱えられて、ダニア嬢に持参金付きの婿をもらわなければいけない事をです」


 ロメロ準男爵の言う通りだった。

 本来国王が与えるべき爵位を、勝手に売り買いなどできない。

 だが何事にも裏があり、娘に婿を取るという体裁で、売ることが可能だ。

 本来なら跡を継ぐべき男子がいようとも、乱心、無能、不適格などと王家に届けて、全く血縁関係にない所から婿を迎えるのだ。

 借金を棒引きしたり、莫大な持参金と引き換えにしたりして。


「そこまで知っておられるのでしたら、ダイン男爵家に相談するような事は何もないのではありませんか?

 もう直ぐダイン男爵家は、男系が途絶えてしまって、ゴールド公爵家の分家ではなくなるのです。

 それとも本家が借金を肩代わりしてくださるのですか?!」


 ダニアは心底悔しかった。

 何が哀しくて、六十代のガマガエルのような男に弄ばれなければいけないのか!

 表向きはガマガエルの孫を婿に迎えるという条件だったが、あの話し合いの席で見せたガマガエルの獣欲に満ちた目は、ダニアを襲うと雄弁に語っていた。

 それを思い知らせたうえで、借金の棒引きと父親の隠居料を条件としてきた。

 何度本家に頼みに行こうかと思ったか分からない。

 だが父の汚点を表に出せなくて、我慢していたのだ。


「ええ、条件さえ飲んでくださるのなら、全ての借金を肩代わりしたうえで、ガマガエルを潰して差し上げます」

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