第十章

 河原源蔵、浩司らが逮捕され、暴力団も捜査のメスが入り、逮捕された暴力団三人の所属する組は潰された。暴力団など叩けばいくらでもほこりが出る身である。しかし裏では「藤堂」が徹底的にその組をつぶすよう指示していたからだ。さらにその潰れた暴力団の持つ縄張りや利権は、兼次の関係する暴力団が奪うことで治まった。

 河原圭、神田雄一の事件が一段落した頃、「藤堂」が涼介の事務所に訪れた。事務所には涼介一人であった。普段の接触は携帯電話ばかりであったため、涼介は「藤堂」と直接会って話をすることは珍しいことだった。

「今回は大活躍だったな。お疲れさま」

「藤堂」は涼介に声をかけ、事務所にある古びたソファに座った。

「「藤堂」さんこそ。四人の政治家を政界から追っ払い、暴力団の組を一つ潰し、大企業の不正取引を暴いて、さらに殺人の罪などで河原浩司、そして長年追っかけていた河原源蔵を逮捕したんだから。大車輪の活躍でしたね」

 コーヒーをいれて「藤堂」の分を差し出し、自分の分を一口飲みながら彼を労った。

「如月の件は英吾の父上である阿川大先生がやってくれた。それもお前の隠し撮りや盗聴のネタがあってのことだ。暴力団の件や近藤、畠田の件は組織犯罪対策課と捜査二課が活躍した結果で、殺人の件も捜査一課がしっかりやってくれた。涼介のような頼もしい部下達がまだここにはいる。俺なんかは楽なものだ」

 「藤堂」はあくまで周りを立てた。自分がでしゃばりすぎないのが彼の持つ長所の一つであろう。この性格が周りの人間に、この人の為にやってやろう、と思わせるのだ。上に立つ人間には必要な要素といえる。控え目な元上司である彼に対し涼介は言った。

「これだけ複雑に絡む事件を取りまとめて関係各所に根回しするのは大変なことですよ。覚せい剤と暴力団がらみで組織犯罪対策課を動かし、商社の違法輸出入が絡んだ不正取引などの金銭犯罪事案には捜査二課を、河原圭や神田雄一の殺人事には捜査一課を、とそれぞれの捜査を円滑にさせるのは横のつながりがないとよく言われる警察において至難の業です。私もそれなりの上層部にいた身でしたからわかります」

 そう褒めたあとで涼介はさらに付け加えた。

「それ以上に今回の事件で最重要課題であった河原源蔵の逮捕を成功させたことは大きいですね。長年、奴を追いかけてきた甲斐があったというものです」

 河原源蔵が外交官として活躍していた三十年以上前から「藤堂」は彼を追いかけていた。当時、捜査二課に配属されていた彼は、外務省のある汚職に関して内定している際、外交官特権を悪用した河原源蔵の不正を知った。

 残念ながら当時は立件できるまでの資料がそろわず、逮捕にまで至らなかった悔しい思い出があった。そのため、今回の事件で積年の恨みを晴らすことができたはずだ。

 出されたコーヒーに口をつけながら、それでも彼は仲間のおかげだという。

「河原源蔵の件だって譲二が十年前にフランスで河原圭に接触して親しくなってくれたからさ。それがなければすでに外務省から引退した身である奴を、今回のように逮捕することはできなかったよ。身内を協力者に仕立てたからこそ、用心深い奴から情報を仕入れることができたんだ」

 そうなのだ。河原源蔵の息子である河原圭が親の反対を押し切りフランスで料理修業をしているとの情報を得た「藤堂」は、当時同じように料理の修行中であった譲二と連絡を取り合い圭に近づくよう指示していた。

 譲二は涼介の大学時代の後輩ではあるだけでない関係が続いているが、「藤堂」とはさらにずっと以前から深い付き合いがある。

 譲二の父親、城ケ咲誠一と「藤堂」は親友だった。譲二が生まれて間もなくその父親が交通事故で亡くなったことから、残された幼い彼とその母親を陰で支えていた一人が「藤堂」だった。支えていたのは「藤堂」だけではない。大物政治家であり今回活躍した阿川大悟、阿川英吾の父親である彼もまた、譲二達を支えていたという。

 城ケ咲誠一はただの交通事故で死んだのではない。誠一は飲食産業の会社を立ち上げた社長だったが、ある暴力団とのトラブルに巻き込まれ、交通事故に偽装されて殺されたのだ。

 誠一の乗っていた車には当時八歳であった譲二の兄も乗っていた。残された彼の母親は失意の中でその五年後に病死してしまった。幼くして一人になった譲二を阿川大悟と「藤堂」が支え、育てることとなったらしい。

 経済的には父親が残した遺産などがあったため不自由なく暮らすことができた譲二は、飲食業を営んだ父親の後を継ぐように自らがフランス料理の修行をし、帰国して店を開いた。父親の社長としての才覚をも受け継いだのか、料理人としてだけでなく経営者としても成功し、親の遺産と自らが稼いだ財産で今の地位を築いたのだ。

 深いつながりを持つ「藤堂」の依頼だけで譲二は河原圭に近づいた訳ではない。父親を殺したのは、河原浩司とつながっていて「藤堂」に今回潰された暴力団だったのだ。今回の事件には「藤堂」と譲二にとってはある意味、復讐の意味合いも強かったのかもしれない。

 そういう背景を今は全てを知る涼介は呟いた。

「誠一さんが殺されてから三十年近く経ちますからね。長かったですね」

「ああ、長かったな」

 彼は立ち上がり、事務所の窓に近づいて外を見ながら頷いた。

 外はすっかり暗くそして雨が降っていた。夜の街の滲んだ明かりが雨で濡れた窓にぼんやり映っている。窓ガラスをつたう滴を「藤堂」はじっと見つめていた。静かに降り続く雨が今まで彼の心に残っていた汚れをほんの少しだけ洗い流してくれているようであった。

 少し感傷に浸っていた彼はふと思い出したように、しかし歯切れ悪く尋ねてきた。

「ところで、奥さんは、え~と元気か」

 そう言った彼の少し赤くなった顔を見て、思わず吹き出してしまった。

「加奈子は元気にしていますよ。子供たちも元気です」

 笑ってそう答えた。加奈子とは「藤堂」の娘だ。つまり涼介は彼の義理の息子でもある。その子供達は孫に当たるわけだ。

 それでも「藤堂」と涼介は仕事上で特殊な関係を築いているため、公には親子のような表立った交流は控えている。彼は仕事が忙しく家庭を顧みない男ではあったが、自分の信頼すべき元部下が自分の娘と結婚し、孫が二人もいるのだ。

 本当はいろいろ娘や孫のことを聞きたいはずだろうが、そこはぐっと我慢している。その気持ちがわかるため、涼介は申し訳なく思う反面、可笑しくなったのだ。

「今度、子供達を連れて遊びに行きますよ」

「ああ、ありがとう。しかしまた厄介な別の事件でなかなか忙しくてな。家にもまともに帰ってないんだ。会うのはしばらく難しいな。残念だが」

「お義母さんはお元気ですか」

「ああ、元気だよ。だが俺はまともに帰ってないから、昼間は銀座あたりで友達と一緒にぶらついているらしい。だから加奈子と子供達には家内の相手をしてやってくれ」

「わかりました。言っておきます。そういう私も最近はまともに帰っていませんから、まずは私が相手をしてやらないといけないんですが」

 そう言った涼介は苦笑いした。「藤堂」も笑った。

「そうだな。たまには早く帰って子供達と遊んでやったらいい。このおじちゃん誰、なんて言われないようにな」

「「藤堂」さん、昔、加奈子にそう言われたことがあるそうですね」

 思い出したように涼介は尋ねた。

「ああ、あの頃も家に何ヶ月もまともに帰らなかったことが多かったからな」

「藤堂」は過去の苦い思い出をつつかれて、涼介を睨んだ。大きな事件があると警察署にある道場や会議室に泊まり込むことも多いのが刑事の仕事だ。キャリアである彼であっても例外ではなかったらしい。

「お前も他人事じゃないからな」

「わかっています。親のいない家庭がどれだけ寂しく辛いことか。私も身に染みておりますので」

 先程まで笑っていた顔とは異なり厳しいものになった。父親は涼介が中学三年生の時、目の前で殺されて亡くなっている。彼の父親もまた警察官だった。ある日、精神異常者による無差別殺人事件に巻き込まれ、勤務時間外の時、たまたま居合わせた父はその犯人を取り押さえようとして逆に殺されてしまったのである。

 当時は、勇敢な警察官が犯人を取り押さえようとして殉職したという美談となったが、後にその事件は仕組まれた犯罪であることが判った。事件の解明における過程で起こった警察内部における捜査の不明瞭さに不信感を抱いた涼介は、怒りを覚えながらも大好きだった父と同じ警察官の道を歩むことを決心し、キャリアとして警察官となったのだ。

 涼介や譲二、恵子、そして「藤堂」や阿川といった彼らをつなぐもの、それは「犯罪被害者遺族」である。智子や兼次、謙太郎やふみえ達もそれぞれが違った形の過去を持つが同じく「犯罪被害者遺族」であった。

 謙太郎は父親が外務事務官であったが、ある国でゲリラに襲われて射殺された、と報道された。しかし、実態は外務省の汚職に関して口封じで殺されたのだ。それをゲリラに殺されたように偽装された。

 ふみえの父親は自衛隊員で訓練中に事故死したとされたが、武器の不正流用を告発しようとして殺された。

 智子の母親は通り魔による無差別殺人の被害者となり殺された。通り魔は精神科に通院歴があり、その現場で駆けつけた警察に射殺されたことから、心神喪失者として犯人死亡のまま事件は幕を閉じられた。

 しかし実際は、裁判官である今の彼女の父親に裁かれていた大物暴力団の幹部が復讐のため仕組んだ殺人だったのである。

 彼らはただの「犯罪被害者遺族」ではない。隠蔽された、影の「犯罪被害者遺族」なのだ。「藤堂」や阿川大悟の親の世代が、いつまでも無くならないこの影の「犯罪被害者遺族」を救うためにある集団を作った。この集団に属する彼らが助け合い、また同じ境遇の仲間を集い、少しずつその輪を広げた。

 それが今ではその仲間達が政界、財界、法曹界、医師会、そして警察の上層部にまで大きな力を持つまでになっている。その力を如何なく発揮するためにまとまった集団が譲二の持つ「城ケ咲ビル」に集結した。涼介は警察を辞めて探偵事務所を開いたのは情報収集、調査担当として動くためだ。

 そして彼らの活動費を賄っているのは、彼らの仲間がそれぞれ社会的に成功して稼いだお金と、合法、非合法に集められた資金である。それらは譲二が設立したNPO団体が「犯罪被害者遺族の救済」の名目でプールしている。そのある集団、団体こそが『セイフプレイス』なのだ。

 今回、河原圭や神田雄一が死亡したことにより受け取った保険金や河原浩司から奪った一千万円などがここに集められた。もちろん譲二や恵子、智子や英吾が本業で稼いだ資産の一部が寄付としても集められているのだ。

 涼介達の闘いはまだ続いている。そしてこの闘いは世代を超えて続けられてきた。これからもまた悲しくも続けられるのだろう。隠蔽された影の犯罪というものがこの世から無くならない限り。

  

 「藤堂」と涼介が話をしていた一カ月後、河原源蔵が保釈された。

 河原浩司と捕まった暴力団三人は、当初、河原圭の殺人を認め、河原圭の居場所を知っていたとされる河原源蔵から河原圭を殺すことを示唆された、と自供した。そのため、河原源蔵を河原圭の殺人教唆または殺人を教唆した疑いで逮捕されたのだ。

 警察は、殺人教唆だけでなく外交官時代からの不正を追及し、今回の不正取引も外交官としての人脈を利用した商社との癒着などがあるとして余罪追及を行っていた。

 ところが、警察が河原源蔵の外交官としての不正追及を始めた途端、河原浩司も暴力団三人とも河原圭の殺人は認めていたが河原源蔵は殺人に関与していないと供述を覆したのである。さらに河原浩司と暴力団三人が拘留中に監視の目を盗み、自殺してしまったのだ。

 河原源蔵は当初から殺人教唆に関しては完全に否認そしてその他のことは黙秘を続けていた。その為検察による厳しい追及は続いていたが決定的な証拠が見つからず、証拠不十分として殺人罪の被告とされたまま三億円の保釈金を積んで保釈されるという異例の事態が起こってしまったのだ。

 

 榎木法律事務所の所長である智子の自宅マンションに訪れた恵子は、智子と二人で話をしていた。智子が出産を控えて自宅で療養していたため、恵子はそのお見舞いを兼ねて訪れ、河原の件についての話も聞いて欲しくて来たのだ。

「こんなふざけたことが許されるの?」

 恵子は怒りを爆発させて、弁護士である智子に迫った。 

「今回河原源蔵の殺人教唆は、実行犯である河原浩司と暴力団三人組という複数の自供と河原圭の居場所が河原源蔵しか知らなかった、ということで逮捕、起訴されたはずですけど、その自供が全て覆されたのであれば本人が否認していることから立件は難しくなりましたね」

 智子の説明に恵子はさらに質問する。

「だって河原圭の居場所は父である源蔵しか知らなかったという話はどうなるのよ」

「それも河原浩司が、圭の居場所を父が書いたメモを盗み見た、という供述に変えたりしているから、それを覆す証拠を示すことは難しいですね」

「第一、殺人罪で起訴されている人が保釈なんてされるの? 保釈ってそう簡単に許されないと思っていたけど」

「実際、保釈はそう簡単には許されません。でも今回は証拠不十分で無実の可能性も残されていますから、保釈要件の一つである、重い刑罰が科せられる特定の犯罪に課せられる犯罪を犯した場合、には当てはまらないと判断されたようです。それだけじゃなく裏の力も相当働いて、私の父達の力だけでは権利保釈の原則から、証拠隠滅の恐れがある、という主張だけでは保釈許可を出さない訳にはいかなかったようです」

「また裏の力ね。阿川君のお父さんが押さえたんじゃないの?」

「押さえられたのはほんの一部の政治家達だけですよ。今回は河原源蔵の外交官時代の悪事もばらそうとしたから外務官僚達が必死になって食い止めようとしたのでしょう」

「どうするのよ。こんな結果じゃ「藤堂」さんや譲二さん、涼介さんだって納得しないでしょ」

「当然です。こうなったら裏の力には裏の力です」

 智子は目を剥いて天井を見上げた。その眼は厳しくそして哀しみが映っていた。そんな智子のただならない様子を見て、恵子は話題を変えた。

「ところで智子、お腹の子はもうそろそろよね。大丈夫?」

 恵子は大きくなった智子のお腹を見て彼女の体を気遣った。

「大丈夫です。もう再来週が予定日ですけど」

「気をつけてよ。何時でも呼んでね。すぐ駆けつけるから」

 恵子の言葉に智子はお礼を言った。

「ありがとうございます。お医者様が近くにいると安心します」

「お医者様はお医者様でも私の専門は精神科だけどね」そう言って恵子は笑った。

 

 恵子と入れ違うように今度は涼介が智子のお見舞いに訪れた。

「怖くないか?」

 涼介は先ほどまで恵子の座っていた椅子に座り、智子の大きくなったお腹を見て言った。智子はその問いに何と答えればいいのか判らなかった。しばらく考えた後、逆に質問した。

「涼介さんは怖くなかったんですか?」

「もちろん怖かったさ」

 真剣な顔でそう即答した。智子は涼介の態度に戸惑いながらさらに尋ねる。

「どうして、ですか?」

 今度は答えるまで間があった。右手を顎にあて考えるような仕草をした涼介は言った。

「こんな仕事をしていればやはり怖いものさ。それに身内を失った経験のあるお前にもそれはよく判るだろう」

 涼介の言葉に智子は軽く頷いた。そうか。子供を産むこと、身内を持つことに怖さを感じないか、という質問だったのか。そして再びその身内を失う悲しみを経験するかもしれないとの怖さはないか、という問いだったのか。智子はそう気付いて少しホッとした。

「私は涼介さんより安全な任務が多いし、涼介さん達の様に守ってくれる方が居るから安心していますよ。でも一番危険な任務についていて、警察時代も含めて恨まれたり、命を狙われたりする涼介さんの方が、お子さんが生まれた時は怖かったでしょうね」

「子供を産むより前に、今のカミさんと結婚する時も怖かったな」

「ああ、そうかもしれませんね。最も愛する人を失う苦しみと言うのは……」

「辛かったか?」

 智子は涼介の問いに答えず、俯いた。涼介は智子の言葉を待たず、話を続けた。

「ただ、俺の場合も智子が言うように、たくさんの仲間が支えてくれていたから身内を持つ決心をしたんだと思う。「藤堂」さんもいるし、特に兼次の野郎なんか、カミさんと結婚する時も子供が出来たとわかった時も、命に掛けて守ります! なんて涙流しながら土下座しやがったからな」

 その時の様子を思い出し、涼介は笑った。しかし、また真面目な顔に戻る。

「そういう“仲間”がいるからこそ、俺のような危険なポジションにいる奴だからこそ、俺は愛する人を失う事を恐れずに生きていかなければならない、と思ったんだよ。俺が組織の仲間にそれを見せつけることもまた使命だと思うから」

 そう言って、智子の顔をじっと見つめた。その視線から逃げず答えた。

「私も大丈夫。怖くなんかないわ。この子を無事産んで大事に育てる。そしてまた私達の遺志を継いでくれる子に育てるから」

 強い意志を持った目で告げるとふっと笑い、普段の優しいとっちゃん坊やの顔に戻った。

「そうか。楽しみだな。早く元気な智子の子供の顔を見たいな。智子の子供なら綺麗な顔立ちのハンサム君になるのは間違いないからな」

 すでに智子のお腹の子は男の子だとわかっていた。生まれてくる我が子の顔を想像し、涼介と顔を見合わせて二人で笑った。ああ、この幸せが続けばいいのに、とその時智子は強く願っていた。

 

 涼介は智子の家を出た後、『セイフプレイス』の一員である自衛隊の幹部から気化爆弾を手に入れるため、極秘に連絡を取った。自衛隊員だったふみえのお父さんの関係で、組織は自衛隊とも太いパイプを持っている。

 この気化爆弾という特殊な爆弾は核爆弾に次ぐ驚異の大量殺戮兵器とされているため、日本では秘密裏に保有されているものだ。爆破地点では何千度という高熱を発し、周囲の酸素を一気に燃焼することにより人を酸欠にしたり、爆風により圧死させたりする爆弾である。しかしサイズは様々で所謂ロケットの弾頭につけるような大型のものからヘリなどから投下させる程度の小型のものもあった。

 涼介の手に入れたものは、超小型のものだ。超小型と言っても爆弾すれば半径数十メートルの範囲にあるものは一瞬に燃え尽き、そこに人間がいたならば身も骨もあっという間に蒸発し、肉体を形成する炭素やたんぱく質がわずかに残される程度となる。

 そこに人間がいたという証明すらできないほどの破壊力があった。今回涼介が必要とするには十分なものだった。

 爆弾を手に入れた涼介は、兼次に指示し、組織が隠し持つクルーザーの中にある救助用ゴムボートの裏にその爆弾をセットしてその日に備えた。

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