第23話

 キッチンに置かれた五合炊きの炊飯器を開けると、今朝炊いたご飯がまだたっぷり残っている。これなら昼は炊かなくても良さそうだ。


 鈴木君は体が小さいのにご飯をよく食べる。

 何を作ってもモリモリ食べる。

 一食で白米を二合は食べる。

 この前青椒肉絲を作った時は三合くらい食べた。

 きっと食べ盛りなのだ。


 しかし、これだけ毎回モリモリ食べてくれると、料理をする私も作りがいがある。

 ただ、鈴木君に美味しいかどうかを聞くと、いつも無愛想に「まぁまぁ」としか言わないのはちょっと不満だ。


 私はこれまで自分で食べるためにしか料理をしなかったので、適当に作る事が多かったけど、鈴木君とご飯を食べるようになってから、ちゃんと美味しく作れるようにレシピ本を見ながら丁寧に手順を踏んで作るようになった。自分が作った料理を誰かが食べてくれるというのは嬉しくて良い事だ。


 レシピ本を読むようになった事により、あれも作ってみたい、これも美味しそうだ、と思う事が多くなり、それらにチャレンジするうちに、簡単な料理しか作れなかった私のレパートリーも日に日に増えていっている。

 クリスマスにはケーキを焼いてみようかと考えているが、失敗した時の事を考えたら、どっかのお店から取ってきた方が良いだろうか……。成功したとしても、多分そっちの方が美味しいだろうしね。


 しかしながら、いつまで経っても冬が来ないこの世界で、日付け上でしか存在しないクリスマスを楽しもうとしてしまうのは女子高生のサガだろうか。


 フライパンで回鍋肉を作りながら寝室の方を見ると、鈴木君はコンピューターを相手にパズルゲームの練習をしている。

 鈴木君は旅から帰ってからすっかりインドア派に……というか、半分引きこもりのニートみたいになってしまった。

 生まれて初めて異性と二人きりでクリスマスを過ごす相手が彼かと思うと、なんだかちょっと悲しい。

 いや、一緒に過ごすかどうかを私が勝手に決めるのは傲慢だし、なんなら一人で過ごそうかな……。


 そういえば、私は元の世界でどんなクリスマスを過ごしていただろう。

 毎年家族で過ごしていたような気がするけど、やっぱり詳しくは思い出せない。

 残念な事にクリスマスを一緒に過ごす素敵な彼氏がいた記憶もない。


 忘れているだけであって欲しいと思うが、そもそも私は男の人が苦手だし、あんまり恋愛に興味もない。芸能人や二次元も含めてだ。

 別に白馬に乗った王子様が現れるのを待っているわけではないけれど、あまり男子と接した経験のない私からすれば、男子というのは粗野で乱暴で思いやりがない人種に思えてしまうのだ。そんな私に彼氏がいたなどとは考えられない。


「雨宮、コーラ取ってくれ」

「もうご飯できるからちょっと待ってー」


 鈴木君は彼氏というよりかは、どちらかといえば弟みたいな感じだ。いや、なんなら息子だろうか。


 一緒に昼食を食べながら、私は相変わらずニコリともせずにご飯をモリモリ食べている鈴木君を眺める。

 顔は整っているし、もっと服装と髪型をちゃんとすればカッコいいと思えるのだろうけれど……。


 私が見た事のある鈴木君の服装は、ジャージとスウェット、それからTシャツと半ズボンだけだ。

 今日だって、一応女の子が部屋に来ているというのに、上下共にジャージである。元の世界でもあんまり服装に拘らなかったのだろうか。


 すると私は、私がアドリブで回鍋肉に入れたシイタケを、鈴木君が皿の端に避けている事に気が付いた。


「ちょっと、好き嫌いはダメだよ」

「シイタケ苦手なんだよ」

 これまで鈴木君と何度か食事をしたけれど、彼がシイタケを苦手だという事は知らなかった、


「ダメ、ちゃんと食べて」

「いや、この味とモニュモニュ感がマジでダメなんだって」

「そんなんじゃ背が伸びないよ。じゃあ、さっきゲームで負けた罰はシイタケを残さず……」


 そこまで言いかけて、私は口籠る。

 嫌いなモノを無理矢理食べさせるのは良くない。

 それに、私の脳裏には一つの素晴らしいアイデアが浮かんでいたのだ。


「ねぇ、さっきゲームで負けた罰だけど……」


 多分ちょっとだけ笑っていただろう私の顔を見て、鈴木君は訝しげに眉を顰めた。

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