第6話 (続 遡)

 龍が児童養護施設の前に着ぐるみに包まれて置かれていたのは2008年の10月、リーマンショックと呼ばれることになる金融恐慌が始まった直後の事であった。その後資産や職を失い、社会から落ちこぼれた人々が続出したが、龍の親はその最初の犠牲者だと思われた。包んでいた産着は捨て子には似合わぬ高価なもので絹糸で「和田龍一」という名前が縁どりされていた。だが、都内には該当する子供の届け出はなく近県に調査をひろげても同じことだった。

 それから9年、龍は独りでいるのが好きな大人しい子供として育った。学校でも養護施設の子供にありがちないじめの対象となるわけでもなく、目立たないが成績の良いおとなしい読書好きな子供だと周囲には思われていた。


 あの日も龍は独りで施設の裏で本を読んでいた。

 「十五少年漂流記」・・・施設の中にある古い書物の中で龍が一番好きな本だった。声が聞こえ始めたとき、その本を手から取り落とし、静かにじっと耳を傾けていた龍は、最後に一人の男が悪魔が自分のしっぽでハエを叩くという風景を描いた一瞬、くすりと笑ってしまった。緊張した心が急に和らいだからだろう。突如それをとがめる声が響いた。何を叱られているのかもわからず、龍は息を潜め静かにしていたが一人の男が執拗しつように追求してきた。仕方なしに龍は答えた。いったい何なのだろう、これは、と思いながら。


 名前を明かした翌日、一人の男が児童養護施設を訪ねてきた。龍がいままで会ったことのないタイプの男だった。仕立ての良いスーツと磨き上げられた靴。ジャージにサンダルの児童養護施設の職員の大人たちとはまるで違う世界に住んでいる大人だった。男は子供と接する機会が余りないのだろうか、ぎこちない様子で龍に接触した。その時、彼の姿があの時にみた大人たちの中にいた日本人の一人だと龍は気づいた。あの日はカジュアルな装いだったのでそれまで気付かなかったのだ。男は龍の表情で龍が自分の事を知っていると悟ると、目を瞠り龍の顔を凝視した。

「ヴィジュアルまで見れるのか?」

 男の言っている意味が分からなかった龍だったが、

「君は、あの時、僕を見たのだね?」

 と尋ねられ、素直に頷いた。

「そこまで感応する力のある人間はいままでいなかった」

 男は呟いた。


 それから男は暫く施設の大人たちと話をしたようだった。次の日には施設長が龍に、

「君を引き取りたいという人がいるそうだよ。一度会ってみたらどうだい」

 と言って来た。

 答えを渋った龍であったが、大人たちは熱心に勧めてきた。確かにそれは龍にとってとても破格の条件だった。大学の卒業まで一切を面倒みる、対価は必要ない。夫婦が年を取っても面倒を見る必要はない。そんな好条件で引き取られる子供は滅多にいない。こんな条件を飲まないなら、今後面倒を見切れない、というほどの強い調子に遂に龍は頷かざるを得なかった。

 彼を引き取ったのは天津という家族であった。

 天津の家は約束通り龍に惜しみなく金を使ってもっとも良い教育を与えてくれた。優秀な高校に入ることができ、そこから最難関の大学に入学し、一年間の留学も許された。たとえ龍がどれほど優秀であったとしてもそういう経歴を持つには経済的条件が必要だった。だが、同時にその施設にとっても何らかの見返りがあったことは確実だった。大学に入学するにあたって挨拶に訪れた時、児童養護施設の建物は建て替えられ、収容可能な人数は龍がいた時の二倍に増えていた。設備も遥かに充実していた。

 龍を説得した担当者は今や施設長になっていて、龍が訪れると最大限のもてなしをしてくれた。その時の施設長の媚びるような態度に一瞬、自分は売られたのかもしれない、と思った。それはざらりとした嫌な感覚だった。だが・・・少なくとも児童養護施設にあのままいたよりも、今の自分は恵まれている、と考え直した。売られたならば、売られたなりにどこまでその道が続いているのか確かめた方が良い。同時にどこか人を信じきれない性格は強くなった。

 彼に会いに来た男は一度だけ、天津の家を訪れた。男は天津の知り合いのようであった。そして、彼は一つだけ、龍に約束をさせた。持ってきた包みを開けると、そこにはヘッドフォンのような機械があった。

「大学を卒業するまで、あの声が聞こえたらすぐにこのヘッドフォンをつける、それだけを約束してくれ」

 男は真剣な目で龍に言った。

「君はまだ幼い。聞かない方がいい話もある。だが、君が成人したら私はもう一度、ここにやってくる。その後の事は話し合って決めよう」

龍は頷いた。男は僅かに頬を緩めると、

「分かってくれてありがとう。だがもし約束を破ったら、我々はすぐに気づく。そうならないことを望むよ」

 そう言った。恫喝のような物であったが、龍は頷いた。そしてその約束を違えることはしなかった。


 龍は浪人することもなく大学に合格した。成績は最難関の大学のもっとも難しい法学部にでも十分合格する水準だったが、龍は教養学部を選択した。成人するまであと、二年、自分の人生はそこから始まるような予感がありそれまでは方向性を限るような選択はしないでおこうと考えた。大学に入ってすぐ親から勧められたのが家庭教師のアルバイトだった。それまで殆ど放任主義で龍の望むように全てを叶えてくれ、一切口を挟むことのなかった養父たちであったから不思議に思いつつ、龍はその勧めを受けた。

 そもそも天津の家は不思議な家であった。家族全員、と言っても四人であったが、に初めて会った時に「この人がお父さん、お母さんになるのか」と思った三十代半ばの夫婦の子供としてではなく、その親である六十代の老夫婦の子供になるのだと言われた。

 若夫婦の二人はどちらも感じの良い、優しそうな人であった。だから・・・ちょっとがっかりした。優しいお父さん、美しいお母さんは龍の憧れであった。若夫婦はそのどちらも叶えていたのに・・・。

 だが老夫婦も明るくて優しい人であった。山手線の内側にある彼らの家は一見、普通の家であったが、それは通りに面している部分であって、背後に広大な庭を有していた。まるでわざわざ目立たないように通り沿いの土地をスライスするように切り売って背後の庭を隠すような作りになっていた。近所の人たちもみな家族と同じ匂いがした。上品で優しく温かい眼差しで自分を見てくれていた。

「おや、龍君。御遣いかい?えらいね」

 会うとそう必ず声をかけてくれる隣のおばさんは龍が福祉施設から貰われてきた子供だときっと知っているはずなのにそれを蔑むようなことは決してなかった。

 若夫婦の旦那さんは外交官で龍が貰われてきてすぐにアジアのある国へと派遣され、残ったのは老夫婦と龍だけだった。通うことになった小学校は私立のこじんまりとした小学校で家からそんなに遠くなかった。学校の子供たちは必ずしも成績優秀な生徒ばかりでなかったけれど、みな性格の温順な子供ばかりで遅れて入ってきた龍をいじめることなどなく受け入れた。


 そんな平穏な生活の中で、突然 

「龍、家庭教師をやってみるつもりはないか?」

 と養父に尋ねられた時、龍は驚いた。

「いいけど・・・なんで?」

「実は知り合いにな・・・。中学生を持った女性がいるんだ。その子に家庭教師をつけたいらしいんだが。だが、色々と複雑な事情があってね」

「わかった、引き受けてもいいけど、何の科目?」

「お前なら何の科目でも大丈夫だろう。細かいことは直接聞いてくれないか」

 そう言うと父親は、住所の書かれた紙を手渡した。

「明日会ってくれると助かる。時間が空いているそうだ」

「忙しい人なんだね」

 軽く頷いて、父親は澤さんという家だ、何時が良い?と聞いてきた。住所を確かめると、龍はじゃあ、午後の二時に、と答えた。


 その家は世田谷の区内だったが、駅からバスで十五分もかかる所だった。バス停に降りる前には、調べておかなければ迷ったに違いないと思った。

 だが実際には迷いようもなかった。それは大きな畑のある中にぽつんと建ったひどく大きな一軒家だった。家の周りには林とよんでも差し支えない木々が生い茂っていた。とても東京の中とは思えない景色だったけれど、畑の両側には道が走っていて、そこにはバスが走っていた。だが玄関に辿り着いた時にはミニチュアに見えるほど遠かった。それだけ畑は広かった。つまり・・・バスを降りてからもう十分近く歩かなければその家に辿り着けなかった。

 東京にあって、これだけ広く、これだけ不便な場所の地価って一体幾らくらいなんだろう、と考えながら龍は目の前にある壮大な門を暫くの間眺めた。


 その家で龍を待っていたのが母親の里美と娘の楓だった。父が複雑だと言った意味はすぐに分かった。里美は龍でも知っている有名な女優だった。テレビで何度となく見たことがあったが、確か独身の筈だった。その人に娘がいる・・・それだけでおよその事情が呑み込めた。

 昔から綺麗な人だとは思っていたけれど、実物の里美はテレビの里美とどこか違っていた。女優という職業がら、彼女の素の姿を見たことはなかったけれど、十倍も魅力的だった。楓は・・・里美と同じ顔立ちだった。でもまだ十三歳の楓の魅力は花の蕾のように、薄いヴェールに包まれたままだった。

 ただ、里美が龍の顔を見た瞬間、ただでさえ大きな瞳を丸くしたのが龍の心に引っかかった。その唇は何かを呟いていた。


 楓に教えるのは数学と英語、ということだった。楓ははきはきとした子で、英語は前置詞、冠詞が良く分からないの、と言った。数学は関数が苦手らしい。でも自分が何が分からないのかはっきりしている子は教えやすい。成績はどちらも平均的だった。でも、他の科目は成績が良いのよ、と楓は自慢げに言った。事実だった。

 教えるのは週に二回、水曜日と金曜にという事になった。授業料は相場よりちょっと高く、それは家族の秘密を洩らさないことを前提に設定されていた。その上、交通費は場合によってタクシーを使う事もあるだろうという前提で十分以上の設定になっていた。

 家庭教師は意外と楽しかった。楓はまるで妹のように龍になついた。成績はみるみるうちに、とまではいかなかったけれど少しずつ良くなった。福祉施設でも友達と呼べるほどの者もいなく、大学でもさして深い友人関係を持たなかった龍にとって近い世代の楓と話すのは楽しかった。たぶんそれは楓にとっても同じだったのだろう。楓は自分の母が芸能人であることを決して誰にも明かすことはできなかった。戸籍上、彼女は里美の両親の里子という事になっていた。

 龍は彼女たちにとって初めて自分たちが親子だと名乗った外部の人間で、それが彼女にとって嬉しいみたいだった。


 その良好な関係は半年ほど続いた。いや、もう少し長く、多分8か月。

 世田谷を訪れると、楓とお手伝いさんの佳代さんが迎えに出て来てくれた間は・・・。

 その日私鉄の駅を降りた龍がロータリーを横切ろうとした時だった。車のフォンの短い音が聞こえ、振りむいた龍の目に見覚えのある車が映った。するすると窓が開き、サングラスに帽子をつけた里香が顔を少しだけ出して合図をしてきた。

「どうしたんですか?」

 車に近寄って尋ねると、里香は囁くように、

「いいから乗ってちょうだい」

 と言った。まさか、里香自身がこんな大きな車を運転するとは思っていなかったが、龍は言われるままに車に乗り込んだ。

「いつも運転するんですか?」

 尋ねた龍に、

「昔はね・・・最近はそうでもないけど」

 と里香は言いながらアクセルを踏みハンドルを切ってロータリーを出た。巧みな運転技術を彼女はもっていた。

 里香がそこで龍を待っていたことはすぐに分かった。でもその理由がわからなかった。


「どうしたんです?」

 龍が尋ねた時も顔はそのままで、

「一つだけ・・・教えてほしいことがあるの」

「何でしょう?」

「天津さん・・・あなたのお父様かるかがったのだけど、あなたは養子だそうね。本当のご両親の事、知らない?」

「知りません」

 龍は即答した。

「何か・・・手掛かりになるものもないの?」

「なぜ、そんなことを知りたがるんです?」

 龍の問いに一瞬だけ、里美が龍の顔を覗き見た。

「あなたの顔が・・・。知っている人にそっくりなの」

「誰ですか、それは」

「その前に、何かあなたのご両親を探す手掛かりは?」

 龍は里美から視線を逸らせると、

「捨てられていた時に和田龍一という名前が書いてあったそうです。でも調べた限りその名前で生まれた子供はいなかった。それ以外は・・・たった一つ」

「ひとつ?」

「良くある話です。お守りが・・・」

「お守り・・・」

 里美は少しその意味を考えたようだった。意味と言っても親の愛情とかそういう事ではなさそうだった。

「どこのお守りか分かる?」

「さあ、特に調べませんでした」

「じゃあ、そのお守り、今でも持っているの?」

「ええ、でもここにはありません」

 棄てるのには忍びなかったが、天津の家に入ってこのかた一度も空けたことのないお菓子の缶にお守りは入っている筈だった。

「両親のこと、知りたくはない?」

「別に、今は・・・」

 天津の家に入って十年、最初の頃は本当の自分の両親を知りたいという気持ちは強かったが、次第にそれが薄れて行ったのは育ての親たちが優しくしてくれたからだと龍は思っている。その育ての親たちを裏切る気持ちにはなれなかったのだ。それがお菓子の缶が児童福祉施設の空気をそのまま封じ込めている理由に違いない。

「そう・・・でも、私は知りたい。あなたの両親は私の思うとおりならば、私にとっても大切な人たちだから」

「だから、こんな風に?」

「別に誘拐しようとか思ったわけじゃないわ」

 里美が初めて笑った。魅力的な笑顔だった。

「そのお守り、見せてくれない?」

「いいですよ」

「じゃあ、来週。同じ所で待っている」

「分かりました」

「楓には気づかれたくないの。バス停で降ろすから、バスが来たら家に向かって」

「そうします」

 バス停の近くで車を降りると里美はちらりと、龍を振り返った。その口もとが何かを言いたそうで、龍は思わず車に引き返そうとしたが、里美は何も言わずに車を出した。

 時計を見るとバスが来るまであと十分ほど待たなければならないようだった。バス停に置かれているベンチに座って、龍は考え続けた。里美の知り合い・・・それが自分の両親なのだろうか?それを知ることが果たして自分にとって良いことなのだろうか?そして、なぜ里美はその事に拘っているのだろうか。いくら考えても答えは見つからなかった。やがて遠くの方からバスがやってくるのが見えた。


 一週間後、里美の車に乗ると龍は持ってきたお守りを里美に渡した。褪せた緑色のお守り袋を里美は大切そうにハンカチで包むと、

「どこのお守りなのか私の方で調べるけど、何か他に聞いていることはない?」

と尋ねた。

「いえ・・・。一応、僕もある程度調べましたけど、関東の同じ名前の神社のお守りではないみたいです」

 八幡神社とお守りには書かれていた。日本で一番多い神社の名前だった。

「そう・・・でも何とかなるかもしれない。詳しい人を知っているから」

「一つ聞いていいですか?」

 龍の問いに里美は頷いた。

「その・・・僕の両親かもしれない人と里美さんの関係って?」

「そうね・・・」

 里美は呟いた。

「あなたのお父さんかもしれない人は・・・私があこがれていた人、新進の役者さんだったの。そしてお母さんかもしれない人は私の付き人をしていた女の子」

「・・・でも、なぜ?」

「なぜって?」

「その人たちと何かあったんですか?」

「私は彼らが付き合っていることすら知らなかった。知らないまま、付き人をしていた女の子にその事を打ち明けてしまったの」

「でも、だからと言って」

「その辺の事情は分からない。龍君は今何歳?」

「二十歳です」

「何月生まれなの?」

「正確なことは分かりません。たぶん、春ごろだというだけで。だから4月2日生まれという事になっています」

「そう・・・」

 里美は溜息を吐いた。

「もし、私の勘が正しかったなら、私が打ち明けた時にはもう、その女の子のおなかには子供がいたのかもしれないわ。それがあなたなのかもしれない」


 例えそうだとしても・・・もう実の両親を恋しがる歳ではなかったし、現実的に天津の家を捨てる気などはない。だいたい生まれたばかりの子を捨てる両親などに龍はそう考えていた。だから、さらに一週間後、再び駅で里美の車を見た時も動揺はなかった。

「何か分かったんですか?」

 里美が開けた助手席のドアから車に乗り込むと龍は尋ねた。

「ええ」

 里美は神妙な声で答えた。

「どうしたんですか?」

「ごめんなさい。あなたにとって辛い結果だった」

静かに車を出すと里美はそう言った。

「そう・・・ですか」

 それ以上聞いても仕方ない、そう思った。おそらく両親は二人ともこの世にいない、そういう事だろう。

だが、里美の話はもう少し突っ込んだものだった。


 龍の父親と思われる男の名は須佐毅、母親と思われる女は神崎仁美、その二人が里美の知り合いだった。その須佐に里美は恋した。

 彼が島根の出身であることを里美は知っていて彼が姿を晦ました時に密かに探偵を通じて島根を探した。探偵社は優秀な探偵社だった。実際に島根に行くだけではなく、ネットのあらゆる技術を通じて人探しをする能力を持っていて、人探しでは95%の確率で探し当てる能力を持っていた。それにもかかわらず彼らは須佐を見つけることができなかった。

 しかし、龍の渡したお守りを再びその探偵社に持ち込んで、調査を頼むと今度はあっさりと様々なことが判明した。そのお守りはやはり島根の、だが須佐の地元から離れた山中にある神社のお守りであった。須佐の祖父方の郷里であるその村の更に山深い一軒家に若い夫婦が住みついたのがちょうど、十年前の事で彼らは最先端の文明を拒否するような形で暮らしていた。電気と電話は通っていたが、それ以外のインフラは何一つなく、ネットを駆使しても見つからなかったのは彼らがそもそもコンピューターもスマートフォンも持っていなかったからであった。

 そこで彼らが子供を産んだことは確かめられた。田舎の小さな医院で産まれたのは男の子であった。

 彼らは名前を変えていた。なぜそんなことができたのかはわからないが、彼らは秋津豊彦・狭霧という完璧な戸籍を持っていた。だが、秋津豊彦は子供が生まれた三年後に交通事故で亡くなり、その後すぐに妻と子供は姿を消した。

 そもそも交通事故というのも妙な事故だったらしい。事故というより殺人ではないか、と疑われたらしい。というのも、遺体に明らかに二度轢かれた跡があったからである。しかし、一度跳ね飛ばされてそのあと地面に落ちた時にもう一度轢かれたのではないかという意見もあったらしい。それほどの事故であったにもかかわらず、事故車は忽然と姿を消し、どんなに警察が探しても見つからなかった。遺体は妻が確認した。顔の部分が損傷して見分けるのが困難な死体だったが、妻は着衣と身に着けていた品物で夫であると証言した。

 その後突如妻と子供の行方が分からなくなったことも警察を困惑させたらしい。一時は妻が犯人ではないのかという疑いさえかけられたが、免許は持っていたものの彼女が車を運転している姿を見たものもなく、車も所有していないこと、そもそも夫を殺しても保険にさえ加入していなかった事、そして夫が殺されて以来彼女が見せていた怯えなどから彼女が犯人であるという説は消えた。一方でその怯え方から彼女が犯人を知っているのではないかと警察はみて彼女の行方を追ったが、大阪へと向かう電車に乗っている姿を見られて以降、彼女の行方は杳として知れなかった。


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