第18話 救援(二)

 そんなわけで現在は「ダルテムスの密輸事件」なんてクエストを請け負っている。実はシティ・アドベンチャーは久しぶりだったりするんだよね。今までは、基本的に「ハックアンドスラッシュ」がベースだったから。というかMMOならその方が自然なんだろう。

 “男装の麗人”、エヴェリーナの警護というのは名目で訪問した各都市でのお使いをこなしていく感覚。こういう事を続ける内に成長レベルアップし、エヴェリーナが自動的に名声を稼いでくれているという寸法だ。

 「名声」はどうも隠しパラメーターみたいで、ステータスでは確認出来ない。それでもNPCの反応とか見てれば状況は掴める。そんなわけで良い気分になって到着したのがダルテムスという名の都市だ。

 カクニスタに匹敵するほどの都市で、やはり良港に恵まれている――という設定だ。プレイヤーとしては単純に、街の中にも敵がいる、みたいな部分の優先順位が高くなるんだけどね。それに今回のクエストは繰り返しになるけどシティ・アドベンチャーだ。となると今まで獲得してこなかったスキルが重要になる。

 しばらくはここで足止めになるか、それとも「ハックアンドスッラッシュ」系の依頼に切り替えてしまうか。その選択も重要な部分になるだろう。

 僕としては、このクエスト失敗でもいいか、と考えていたりする。……やり直しも出来るし。そもそも僕のキャラはシティ・アドベンチャーに向いたビルドを行ってないんだよね。ソロだったし。となるとどうしても「ハックアンドスッラッシュ」を中心に依頼を受けていくことになる。ますますスキルが偏る。そういう悪循環が……いや悪循環とは言えないんじゃ無いか?

 そういう不得意を補うためにパーティーを組むわけだし。そんなわけで、今回のクエストで活躍したのは風波だった。さすが黒装束。それとシナリオの肝となっている推理パートで活躍したのはヴェリンだった。本人曰く、

「推理というか、各キャラの人間関係を観察していればわかってくるものです。……けれど本当に良く出来たゲームですね」

 またしても“リベワー”の沼に沈んでしまうものが現れたようだ。確かに一連のクエストのフレーバーシナリオは秀逸な出来だと思う。さすがに掲示板でも“リベワー”の変化に気付いている書き込みが目立ち始めてきた。

 近々、運営から何か発表されるんじゃ無いかな?


 しかし「リベルタス・リワード」に大規模アップデートが行われる前に、自らのアップデートを決意した女の子がいた。言うまでも無くヴェリンだ。

 創作が現実に影響を与えることは、ままあることだと思うし、この流れはわからないでも無いんだけど――

「もう、国元なんかどうでも良いから日本に残ろうと思います。と、言うかそうすると決めました」

 そんな重大な決意を、一介の学生である僕に表明されても。いや、それ以前にこの状況、マズくは無いんだろうか? 放課後、生徒会室で何故か僕とヴェリンは二人きりなのだが……まず、こういった状況になったのかの説明が必要だな。

 建前上は「新規同好会サークルの設立のための聞き取り調査」みたいな話だったはずだ。サークルの目的は“リベワー”で遊ぶため。

 うん。そんなサークルが認可されるはずが無い。そんなわけで「現代フルダイブシステム環境における心療研究」という、これまたやたらに豪華でそれっぽい看板を掲げたわけだが……このサークルが設立されたら、ただ単に昼寝部屋が出来上がるだけだな。それも男子生徒が渦巻く環境で……うん無理。

 つまりはダベる場所が欲しいと言うことなんだろう。そんな事を考えながら、流れるままにサークル代表者みたいな立場に押し上げられた僕は生徒会室に呼び出されて――こういう状況なわけである。

 ヴェリンは最初からサークル設立は、ええっと囮? 僕を呼び出すためのだったらしい。そんな事をしなくても……と思ったけど、ヴェリンの立場になってみるとわかる。他に方法が無いと言うことに。

 まず放課後は言うに及ばず、休日に会うことも難しいだろう。つまり学外で約束を取りつける事はまず無理。となると学内になるわけだけど、それでもヴェリンに自由は無い。

 前にやったみたいに昼休みに僅かな時間を何とかやりくりするか、今みたいに「生徒会の仕事」という建前をでっち上げるしか、やりようが無いのだろう。問題はそこまでして僕と一対一で会いたがった動機は何なのか? という問題が残るわけだけど、僕に宣言されても――というわけで最初に戻る。

「もうすぐ私は十八になります。そうなると国元では社交界デビューの準備が始まる事になります。ギリギリになっては我が儘言えませんから……非常に迷惑掛けることになりますし」

 さっき国元はどうでもいいと……つまり、ヴェリン自身が自分のやりたいことがよくわかって無い感じなのかな? 生徒会長の椅子に座って逆光状態で窓をバックにしている座っているヴェリンの表情は良く見えないけど、何となく想像はつく。しかしこれって話をまとめると――

「ヴェ……じゃ無くて、生徒会長。それって”亡命”したいって事なのか?」

 危うくファーストネームで呼ぶところだった。もっともこの状況で生徒会長と呼ぶことにどれほど意味があるのか。それに“亡命”なんて単語、聞かれていたとするなら、そっちの方がもっとややこしくなると思う。

 思うけど誤魔化したままだと――いや、いったいヴェリンはどういう話にしたいんだろう?

「いえ……そこまでは。ただ、この日本での生活は守りたいと思うのです。国に言われるままに行動していたのでは私自身が納得出来ません。それが大事なことだと……気付いたんです」

 その考え方には僕も頷くことが出来る。部外者の立場としてなら確かにちょっとライノット公国のやり方はおかしいとも思うし。

 ただヴェリンにこうした決意をさせたのは「リベルタス・リワード」のNPC、エヴェリーナだと思うと、ちょっと……ね。いや悪いことではないはずだし。ただエヴェリーナの台詞、ほとんどそのままっぽいのが……ただそこを追求してもなぁ。それに結局僕はどういった理由で呼び出されたんだろう?

 「リベルタス・リワード」のオーソリティってことだから? それでエヴェリーナの蘊蓄が欲しいって事なのかな? だけどエヴェリーナに関してはヴェリンと同じぐらいの知識しか無いし、掲示板でも先行状態の僕らに必要な情報が出回っているわけでは無い。

「そんなに難しく考え無くても良いですよ。ただ言っておきたかっただけですから」

 だからそれを――うん?

 エヴェリーナのフレーバーを考えていたせいか、妙なことを閃いてしまった。これって僕に宣言するよりもよっぽど有意義なんじゃ無いかな?

 まぁ、無理なら無理で良いんだし提案するだけはしてみよう。

「生徒会長」

「はい!」

 うん? 逆光状態でも良くわかる、なんだか期待に満ちた青い眼差し。これは正解かな? 「他の人に言われた」なんて建前が必要な時もあるし。それじゃ、思いきって言ってみよう。


「――生徒会長、継承権を無くすって事は出来ない?」

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