第13話 パーティー(二)
で、現在の状況を思い出して貰えれば――生徒会長が性別を偽って、直接会うことのないネトゲで僕たちとアクセスしている――一体何が起こっているのかは、簡単に想像はつくと思う。
で、このアイデアを言い出したのは僕からだったんだよね。これが随分と風波のお気に召したみたいで、モニターの向こうで拍手をしながら笑い転げてしまっていた。どうやらローテーブルの上にモニターを置いて、その前であぐらを掻いていたらしい。
笑い転げると同時に、ショートパンツから伸びた風波の太ももがさらけ出されてしまった。それはもう凶器以外の何物でもないよ、うん。思わずモニターに詰め寄ってしまった。水着姿でしっかりめに収めてきたはずなんだけど。
『なるほど! それは良いね! それなら当面の間は誤魔化せるだろうし、一緒に遊ぶことも出来る。最高の方法かも』
ゴロンと起き上がった風波が、僕に対抗するように向こうのカメラに詰め寄ってきた。僕はそれに押されるようにして姿勢を正すと、過剰に思えた風波の言葉に首を捻る。
「……でも、こんなの先にリベンジポルノ疑惑の問題があったからこそで、なんというかシンプルすぎない?」
『シンプルなのが良いんだよ! それにモリモーからアイデアが出た事が良いんだ――それで最初はどうする? とりあえずキャラメイクかな?』
「いや、その前に“リベワー”をプレイしてくれるかどうかが」
『その辺りはボクにまかせてよ。何と言ったってボクは同性だし、転校生の面倒を見るのは生徒会長の義務だし』
義務かどうかはともかく、体裁を整えやすいことは事実だろう。こうなってみると風波が、何らかの計算で学園に現れたことが見えてくる……ような気がする。
その後は性別変更や、パーティ編成とか色々話しあい、らとこも巻き込むことになって――らとこも風波の目的らしいし――「リベルタス・リワード」に二人を招待する運びとなったわけだ。
……ちなみに風波はツテを使って何やらしたみたいだな。
というわけで――
仕事を請け負って「カクニスタ周辺での野盗退治」という常駐クエストを引く受けて現在挑戦中。普通なら初心者が受けるクエストじゃ無いんだけど僕がいるしね。向こうの人数が隠れているのも含めて七人。で、一番弱いのを残して、全部僕が片付けた。あとは練習用だな。
「……モリモー、随分な強さだけど何かやってたの?」
「いいや」
風波の疑問は「杜元親は武道か何かをやっていたのか?」って事だと思うけど、それに対して僕は胸を張って「否!」と答えることが出来る。別に嘘つく必要も無いし。それでも僕の手際が良いように見えたのなら――
「それは手間を省いてるからだけだよ」
「手間?」
「うん。斬るよりも急所を突いた方が早いし。それに剣と剣をぶつけるとすぐに歪むしね。だからまず突けるように立ち回るんだ。これって“リベワー”のシステム的な弱点だと思うよ。剣同士だと、必ずチャンバラすると思い込んでるみたい」
実戦――実戦じゃ無いけれど――では、長剣で突く方がビックリするほど効率的だ。で、それを抜いていると手間が掛かるから、捻って刃で切り裂いた方がこれまた効率的。ゲームの中でしか通用しない剣術だとは思うけどね。
その内、
「モリモー……それ、やっぱり凄いことだよ」
「それよりも風波は参加しなくて良いの? 練習用に残してるんだけど」
僕の前では
生徒会長は間違いなく、西洋剣術的なものを修めているんだと思うけど、如何せん
この状態はいわゆる“パワーレベリング“という奴だな。それは良いんだけど、それならそれで風波にも参加して貰いたい。僕がそう訴えると黒装束の風波はこともなげに、こう答えた。
「あ、ボクはちょっとだけレベル上昇してるから。実はこっそりとログインして『彼女』を拝みたかったんだよね。それは失敗したんだけど、ムカムカしたから八つ当たってみた」
「そりゃそうだよ。フレンド登録も無し、パーティーも組んでいない状態で僕のホームに入れるわけがない」
物理的にでは無く、システム的に。そして今のクエスト受ける前に、ちゃんとホームに招待した上で「彼女」にも会って貰っている。
彼女たちが目配せし合って何か言いたげだったけど、それを僕は華麗にスルー。もはや比喩表現も必要も無いほど「エロ本の所持を目撃された」気分だけど「彼女」用意したの僕じゃ無いから! まるで「友達のだから!」って訴えて無駄な抵抗してる気分だけど! とりあえず「彼女」に迂闊な名前を付けてなくて助かった事は間違いない。
「とまぁ、そんなわけだから今ボクが参加しちゃうとね」
「了解。それに……」
もう片付くしね、と口に出す前に盗賊を倒した二人が僕たちに近付いてきた。
「お疲れ様。二人ともスキルは増えた? らとこはステータスの増加も確認して。生徒会長も――」
「学校ではないのだから、それやめて」
いきなり生徒会長にダメ出しされた。それで、確かにそれもそうかと考え直したわけだけど、はて?
「ボクはちゃんと“ヴェリン”って呼んでるよ」
何と手回しの良い。そして察しが良いな風波。
「ん~~っと、じゃあチャーチワースさんで」
「ふぁ、ファーストネームで良いのよ! 都会さんなんてすぐに“風波“って呼んでたじゃない」
「いや、そう呼ぶように言われたからで……」
「では、命じます。私のことは“ヴェリン“と呼ぶように」
ああ……それは大丈夫なのかな? 一応男同士ってわけで、その建前が重要だったはず。お伺いを立てるように風波に視線を向けてみると、思い切りよくサムズアップされた。大丈夫らしい。確かに音声いちいち拾いはしないか。そこまで手間を掛ける時にはもうバレてるって事なんだろうし。
「……じゃあ、ヴェリンもステータスとスキル確認して。ただヴェリンはスキルは望み薄かも」
「何故?」
「元々、剣の扱い方が上手すぎるんだよ。何度か失敗するのがスキル獲得の基本だから……」
「私、上手かった?」
いきなり表情を輝かせるヴェリン。そんな様子を見て、僕も風波の狙いがわかったような気がした。逆に言うと、今までのヴェリンはこんな小さな楽しみも体験してなかったことにも気付いてしまう。
「――ああ、間違いなく。今度はらとこを中心にレベリングするから、フォローお願いするよ」
「まかせて!」
「お、お、お手柔らかに……」
らとこも付き合ってくれるみたいだ。今度ちゃんとお礼しなくちゃダメだな。水ようかんが好物だったけど……今度ちゃんとリサーチしよう。
「じゃあ、しばらくレベリングして、一段落したら挑戦したいクエストがあるんだけど、いいかな?」
突然、風波は切り出して来た。でも風波はこの状況のプロデューサーでもある。よほどの無茶じゃ無ければ……というかヴェリンと、らとこには無茶かどうかもわからないんだろうしな。
となると見極めるのは僕の役割か。
「それって、どんなクエストなんですか?」
らとこが、そう尋ねると風波は我が意を得たりとばかりに大きく頷き、こう告げた。
「――“ソル派からの救援要請”だよ」
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