第12話 パーティー(一)
「……という感じでプレイヤーは、異世界転移してきた――という設定なわけだ」
僕はそんな感じで三人を目の前に「リベルタス・リワード」の基本設定を説明する。その「リベルタス・リワード」内で。正確に言うと「港湾都市カクニスタ」の街角で、かな?
それで三人というのは、まず普通に風波だよね。どういうキャラメイクしたのか黒装束で短刀を腰に差した……つまりは「忍者」だった。
「良いでしょ? 性別不詳な感じが、ボク好み」
確かに言葉遣いは少年っぽいんだけど、あの胸じゃななぁ……と、「リベルタス・リワード」では諦める必要は無い。そのぐらいの体型変化は可能だ。いや風波の胸を変化させて小さくするのは、何かしらチートな技術が――
「らとこちゃんもゴメンね? 無理矢理参加して貰ったのに職業まで指定してしちゃって」
「え? う、ううん。それは……問題無いよ。それより上手く出来るかな……」
さすがのコミュ力で、風波はすでに、らとこと気安く言葉を交わしている。今はお互いゲームキャラ同士の姿だけどね。
らとこはパーティー構成の都合上、
第一、僕のキャラが被ってる帽子なんて、ほとんどテンガロンハットだもの。らとこのキャラは飛行帽みたいなの被ってるけど、アレはアレで防御力が高いんだよね。
改めて考えると、らとこにばっかりしわ寄せが集まってる気もする。でも今回のパーティー結成の最大の目的は……
「えっと、これ……ああ、なるほどね。こういう感覚で剣を振るんですね」
鞘に入ったままの
ただいきなりは無理だけどね。まずはフルダイブ環境に慣れないとダメだから、これは納得の仕様。で、生徒会長のキャラクターなんだけど……なんて言うか、違いはほとんど、男か女か、ぐらいのもの。ビジュアルは、ほとんど生徒会長そのものだし。金髪はカチューシャじゃ無くてバレットで襟足の辺りでくくってるけど印象はあまり変わらない。
で、濃緑の貴族服の上から
では、無理をしてまで生徒会長が男装、と言うか“男”になってる理由。これがなんともアクロバティックで……半分ぐらいは僕のせいでもあるんだよね。
まずはリベンジポルノ疑惑。これはすぐに対処が為された。何故風波とそっくりのNPCが現れたのか? その原因はよくわからないけど「彼女」のビジュアルは変更されていた。少なくとも見た目で風波思いだす感じじゃ無くなったね。
髪の青い一房がなくなって、琥珀色の瞳が緑色に。スタイルも随分大人しくなった。そして僕が装備を手に入れてメイド姿に。今は無理して手に入れたホームの管理運営をまかせている状態だ。元はそういう仕様のNPCだったんだろう。それが何かの手違いで……
「で、結局風波のツテって?」
『それは内緒。それよりも、ちゃんと変更されてた? ボクからじゃ確認のしようがないんだよ』
「それは大丈夫。もう風波だとは思えない」
僕たちは、PCのモニター越しに“打ち合わせ中”を行っていた。その目的の一つに「彼女」がしっかりと変更されているのか? の確認も含まれている。ただ確認出来るのは現行で「妖しげな研究施設」をクリアしている僕だけだから、こんな感じに手間が掛かってしまったというわけだ。「彼女」の名前も付けることが出来るんだけど、それは保留中だ。さすがに「風波」とは付けづらいし……もっとも、このあとの展開から、それが正解だということが判明するんだけどね。
『よし、じゃあ本題に行こう。実は会長――ヴェリン・チャーチワースの故国はちょっと問題を抱え込んでいてね』
国? あまりに話が大きくなった事で風波の胸元に注目していた僕の視線が上にずれた。ちなみに風波の格好は白とピンクのボーダーキャミソール。相変わらず油断しっぱなしの出で立ちだ。そういう僕もスウェット姿なんだけどね。
「問題?」
『そう。簡単に言っちゃうと国内の政情が不安定なわけ』
「簡単になってないと思うけど……うん? それで生徒会長は日本に?」
『大体正解。国王と第一王位継承者は国にいるんだけど――そうじゃないと政情が安定するも何も無いから』
何だか……かなりヤバくないか? えっとライノット公国って言ったっけかな? 生徒会長の国。だけどそれは……
『会長は王位継承権三位なんだよね』
風波はなにやら事情通らしいけど、それだけ聞かされてもわけがわからない。だからこそ風波は、こう続けた。
『でもね、将来的に国王っていうか、女王様になる可能性は全然あるわけ。となると会長はこんな風に要求されてるに違いない』
「よ、要求……?」
『要求はちょっと大袈裟だけど、間違いなくこんな事を言われてると思う。日本で関わりが深くなる人間を作ってはいけない――なんて事をね』
それは……酷くないか? 第一それなら日本に生徒会長を住まわせなければ良い……ああ、それだと王家の血統がどうとか。英国の王位継承者が同じ飛行機に乗らないなんてトリビア、テレビで聞いた気もする。
でもそれなら……
『単に逃がしているんじゃなくて、外国に留学に出ている、なんて建前が欲しいわけなんだよ。そういう開明的な王家である、みたいな雰囲気作りも必要ってこと。ね? 凄く厄介そうな“実家”でしょ』
僕は一体、そんな風波の言葉に何と答えれば良いのか。と言うかこれ、学生でどうにか出来る範疇では無いよね?
『そんなに難しく考え無くても良いよ。ボクとしてはモリモーに会長の友達になって欲しいんだよ。せめてファーストネームで呼び合えるぐらいにはね』
「それは……それが協力する事になるなら」
否も応もない。
『それでね。ここが肝心な所なんだけど男女交際は絶対禁止。まぁ、これはあれだよね。子供が出来ちゃうとね』
「ああ~うん。でもそれだと、僕と友達になるのも面倒な事にならない?」
『モリモーは絶対条件だから』
……一体、風波は何を考えているんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます