第9話 デート(三)

 最寄り駅からポポポン! と三駅ほど通過しまして~ 結構大きなショッピングセンターを横目に見ると~ やって来ました屋内プール「ジャポーン」に。

 ……なんだその名前! 上手いこと言ったつもりか!

 と、丁寧にツッコんでいる場合では無いんですよ。何しろ目の前に下乳が!

「う~ん、サイズが合わない」

 風波は下乳を普通の乳に換装してしまった。いやこれはこれで……“まろみ“がイイネ。熟成されたみりんのような“まろみ”を風波のおっぱいから感じてしまうのは、何としたことだろう?(どうしたもこうしたもない)

 風波が身につけているのは白色ベースのビキニ。その左側に斜めストライプの青いラインが刻まれいる。これは風波の髪色に合わせての事なんだろう。恐らく多分。で、やっぱりブラの左胸だけに真っ赤なハイビスカスがワンポイントで描かれている。青いラインを波と考えると波に揺らめくハイビスカスみたいな効果を望んでいたんだろうけど――それ、無理だから! 着ているの風波だから!

 元々、爆博物扱いしてきた風波だけど、今回はその爆発によって津波が起きているから! ほんの少し風波が身じろぎするだけで、一体周囲にどれほどの影響を及ぼすのか? 僕はこれをバストフライ効果と名付けよう。

 だって、弾む風波のおっぱいって本当に飛んでいるように――

「お~い、モリモー! 戻ってこい」

 ……は!?

「うんまぁ、見とれてくれたのは嬉しいけど、相変わらずの赤裸々振りでおっぱいしか見てないね。だけど今日のモリモーの使命は伝えたはずだよ」

 そうか。そうだった。今の僕には使命がある。そのために名残惜しいが、まず一歩離れてみよう。そして視界の中に風波の全身像が入るように調整する。そして風波の周囲をぐるりと回った。さすがの「ジャポーン」設備でプールだけで無くプールサイドも十分に余裕のある設計。所々に南国気分を高める椰子の木なんか設置されていて、僕“ら”はそんな椰子の木をなぎ倒すように、大移動を開始していた。つまり僕を先頭に、多くの男達が僕に率いられた兵士のようにプールサイドを回っているとう言うのが現在の状況。「ゲルマン民族の大移動」って、こういう事だったんだな、と納得できる……風波め、相変わらずの教材娘振りを見せつけてくれるじゃ無いか。

 何しろプールに遊びに来たんだから、概ね上半身裸の蛮族振りに余念も無い。僕も迷彩柄のサーフパンツ姿だったわけだが、まかり間違ってブーメランだったら詰んでいた――いや持ってないんだけどね。

「何それ。ボクが回って見せようか?」

 と、周囲の男どもの動きに笑みを見せながらその場でクルリとターン。あ、そんな事したら――僕の背後、って言うか斜め後ろで派手な水音が破裂した。それこそ本当に爆発物でも放り込まれたように。もちろん、その正体は風波に見とれた男どもが集団でプールにダイブしてしまったことが原因だ。僕はもちろん無事さ。風波の近くにいることで被害を最小限に留めることが出来たのだから。これはきっと遠心力の問題なんだから――やはり教材。

「……しっかり堪能――じゃ無くて確認したけど、やっぱり似てるというかそっくりだ。健康的な肌の色も含めて」

「ここまでやって、どうして色合いに行くかなぁ……やっぱりモリモーは面白いね」

 いや、せっかく水着になったんだから、その辺りの確認も重要では無いだろうか?

「とにかく、随分と恥ずかしい格好になってることは了解したよ。フルダイブ式だとスクリーンショットは……」

「出来るみたいだけど、そんな機材持ってない。実況してるわけでも無いし」

「ほほう」

 それを聞いた風波がニヤリと笑った。

「つまりモリモーは、現在のところボクを独り占めって事だね。“リベワー”でも」

 そんな風波の言葉に抗う術は無い僕は、それ以上に風波を独り占めしているということを再認識して……ゴクリとつばを飲み込んだ。


 まぁ、そんなわけで提案されたデートがプールになったのは、こんな風に深い理由があったわけなのだよワトソン君。風波の身体を確認するのに、水着姿を確認出来るというプールほどに合法的な方法は無いに違いない。

 ちなみにプールサイドでの被害はプールの中にまで波及し、

「フルダイブって事は、感触もあるんでしょ? 確認した? それも確認出来る?」

 なんて二者択一を風波に迫られたりもしたよ。ちなみに「リベルタス・リワード」の「彼女」については、急遽用意した「ホーム」において待機状態である。ちょっと無理したけど、それが一番だと思うんだよね。つまり「彼女」とは同棲状態、というか新婚状態。そう自覚してしまうと……やってしまうよね。何しろNPCなわけだし。つまりは確認はした――主に柔らかさについて。それを確認出来るかは……ああ今! へにょん、って! 赤裸々なのは一体どっちなんだ!? 


「ごめんね。ボクもだから、加減がわからなくて」

「はじめて!?」

「男の子とデートするのがさ……なんだい、その意外そうな表情は」

 取りあえず一段落して、今はプールサイドでビーチチェアに並んで寝そべっている僕と風波。そこで、風波からそんな告白をされてしまった。

「男の子と遊びに行くのが“はじめて”だって別に良いだろう? だから力加減がわからなくて……何度もくっついちゃった。水着もサイズもちょっとね」

 風波がやたらにくっついてきたのは、それが理由だったのか。あれはもう、シュッと刺して捻るって感じだったよ! なんならシュッと刺して捻りたくもあったよ!

「だけど、ボクって凄かったんだねぇ。今までも男の子達の視線には気付いていたけど。こんなことになるとは」

 何て言いながら風波がビーチチェアの上で伸びをするものだから! ははぁ、風波。さてはわかってないな?

「でもさ。今は“デート”なんだから、いくら視線を集めても、今はモリモーは独り占めなんだよ。嬉しい?」

 伸びからの横回転。風波の右の僕に見せつけるように、肘を付いて僕を見つめてくる。そのポーズも十分に扇情的だし、琥珀色の瞳も魅惑的なんだけど! やはりそういうポーズをとられるとですね。

 いや十分に、そのポーズだとよくわかる腰の張りとかも凄いんですけどね!? それよりも重力の存在を疑ってしまう双球の存在がですね!?

「で、とにかくモリモーのお墨付きも出たし、ボクが周りからどんな風に見られているのかもわかったよ。さすがに手を打たないとマズいみたい」

 そうだった。それがこの“デート”の目的だった。そして風波は本物の危機に気付いてくれたようだ。でも手を打つって?

「――実はモリモーに告白したいことがあるんだよね」

 

 ……“愛の”、なんて接頭語が付かない事は僕にもわかるよ、うん。

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