第4話 転校生(二)
「ギリギリよ。
「ギリギリなだけで、間に合っている。いちいちフルネームで呼ぶの止めて貰える?」
そう。僕の名前は
生徒会長ヴェリン・チャーチワースはキッパリと西洋人の容貌を備えている――金髪碧眼だし。わがままボディだし。腰の位置も高いし。身長も百七十近いかそれ以上――が留学生というわけでは無い。
国籍はライノット公国という大西洋に浮かぶ小国なんだけど、彼女はほとんど日本で暮らしている。その事情は当たり前に知らない。とにかく日本語で嫌味を言えるほどにすっかりと馴染んでいる事は確かだ。
らとこの制服姿もなかなかに“そそる”物があったが、生徒会長に関して言えば“そそる”なんてぐらいで治まる物ではない。
八洲島学園の校章が刺繍された胸ポケットが変形するぐらいに押し上げる胸部装甲。フレキシブルな動きを保証するかのような引き締まった腰部の柔軟さ。それでいて豊かさと機能美を同時に兼ね備えた腰回り。こんなフォルムの機動兵器が戦場に出現したら、次の手は白旗を振る以外にあり得ない。
その上で、我が学園の生徒会長は優美なのだ、華麗なのだ、ファンタスティックなのだ! らとこが「可愛さ」の象徴ならば、生徒会長は「美しさ」の現し身。そんな完璧な美貌の持ち主でありながら、朝の陽を浴びて輝く金の髪を彩るのは
そんな生徒会長の追求に対して軽口で応じることが出来た僕は、もっと褒められても良いはずだ。
「……いつもはもっと余裕があるじゃ無い。そして私とこうやって」
「そうそう。生徒会長は立ち番でここに居るんだから、僕にそんなに構わなくても良いよ」
僕は問題児では無いと思うんだがなぁ? どうしたわけか校門前で必ず生徒会長に捕まってしまう。
「お兄ちゃんは、ゲームを夜遅くまでやっていたみたいです」
「らとこちゃんも大変ね……杜も先輩なんだから自覚を持って――」
「こ、今回だけだから!」
このままでは包囲網が完成されてしまう。そんな危険を僕が感じ始めたところで予鈴が鳴った。今ばかりは救いの鐘でもある。立ち番のために並んでいた生徒会の面々に僕とらとこは声を掛けて、靴箱へと向かった。
さて予鈴にさえ間に合えば何とかなるのが学生生活というものだ。HR前に教室に滑り込み鞄をひっくり返す。すると周囲からは「転校生」という言葉が聞こえてきた。これは誤解の仕様も無い。転校生が来るのであろう。それもどうやら同じクラス――つまりこれから行われる朝のHRで紹介されることになる。
「おおい、席に着けよ~」
そんな僕の未来予測は正確で担任の数学教師、
僕がそんな風に心の内で軽口を叩いていたその時。
――とんでもない「爆弾」が先生の後に続いて現れた。
爆弾というのはもちろん比喩表現だ。だけど本物の爆弾の方が破壊力は小さかったに違いない。何しろ……とにかく巨大だったのだ。その破壊力も推して知るべし。いや慌ててはいけない、順番に行こう。
先生に続いて現れたのだから、その爆弾……違った彼女は「転校生」で間違いないのだろう。八洲島学園の制服では決して無い、白いセーラー服姿がそれを証明している。
「もう知っている者もいるだろうが、転校生だ~」
そんな見ればわかるような事を、教卓の後ろに立った先生は宣言した。それはもうわかるから! 焦らしプレイか! などと僕がイライラしていると彼女はこちらに向き直る。
それが爆発の第二波になったことは言うまでも無いだろう。ざっくりと言うなら濡れ羽色のボブカット。その左側に青色の一房。そういった物に彩られたコケティッシュ――この形容詞は生徒会長から取り上げてしまおう。意味はよくわかってないけど――な笑みを見せる猫のような面差し。小悪魔的とでも言うんだろうか。コケティッシュ=小悪魔的で良いんだろうか? それはともかく猫のような大きな琥珀色の瞳が妖しげに輝いていた。
そんな容貌が絶品である事はともかくとしてだよ! ――ともかくとしてだよ!(大事な事なので二回言いました!)
彼女が着ているセーラー服は本当に寸法が合っているのだろうか? 具体的に言うと――とにかく丈が足りない。プリーツが心を沸き立てる紺色のスカートはよく街中で見かける丈の短さだとしてもだよ。けしからんのは上半身だよ。丈が圧倒的に足りないよ。その理由は言わずもがな。彼女の二つの胸の膨らみが巨大すぎることが、百戦錬磨の仕立て屋さんの目算を狂わせたに違いない。そして上着の丈が足りないことで、必然的にこういった現象も発生することになる。
僕がかつてから提唱している、
「セーラー服にだけ発生する陰影礼賛のドレープ」
これが、これほど蠱惑的に出現している様を我々はかつて目撃したことがあっただろうか!?(いや、ない!)
膨らみの頂点から優美に流れ落ちるドレープ。それはある程度の“大きさ”が無ければ発生しない自然現象であったとしても、これほどの陰影を我々に見せつけるためには、一体どれほどの質量が必要になるのであろう?
僕は彼女が教室に現れたときから、るんっ! と弾けるそれの観察に勤しんできたが、未だにその全容は計り知れない。果たして僕はそれを知りうることが出来るのであろうか?
追求したい! 僕はそれを切望する!
「……と言うわけで、こちらが彼女の名前だ」
先生が、いつの間にか手順通りに所定の手続きを進めていた。ホワイトボードに記された四つの漢字。それは彼女の名であることに間違いないのだろう。
それもまた重要な情報だが……一体、何と読むのだろう?
「じゃ、自己紹介を」
「はい!」
ナイスだ先生! 焦らしプレイは止めたようだな! そして彼女の声。なんて魅力的なんだ。高すぎず、低すぎず。いや高音と低音が綯い交ぜになって僕の耳朶をくすぐって来るじゃないか。
そして彼女は、その魅力的な声でこう告げた。
「――ボクの名前は
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