殺し屋の田中君
Leiren Storathijs
一人目 田中君の一人遊び
ある所に、何処にでもいるごく普通の小学生である田中君が居ました。
おやおや? 今日の田中君は不機嫌な様です。解剖する動物を調達できなくて困っている様です。
田中君は大きくため息を吐きながら、苛々しながら外へ出て行きました。一体何処へ行くのでしょう?
──────────────────
俺の名前は山田敬。四十歳。独身。子供の頃に考えていた夢も壊れ、行きつけの居酒屋で酔い潰れるまで飲み続け、朝になったら仕事に行く。何もかも諦めたクソ人間だ。
もう俺には仕事と酒が有れば生きていける。それ以上に望む物は無い。望んでも意味が無いからだ。世の中都合よく話が進むなんて事は無い。何をやっても、やろうとしても駄目な人間は居るんだよ。俺みたいにな。
でも今日は珍しく、酷く疲れてるせいか、あんまり飲まずに家に帰る事にした。
仕事から家に帰る通路は、途中から薄暗い住宅街に入り、行きつけの居酒屋は必ず通り過ぎる。居酒屋を通り過ぎると直ぐ前に踏み切りがあり、そこを通り切ると直ぐにボロアパートである俺の家に着く。
今日は別に仕事が大変だった訳でも無いのに……日頃の疲れが今日になって来たか? とにかく、今は早く家に帰ってそのまま寝たい。
「はぁ……」
踏み切りの赤い二つのランプが左右に点滅し、電車はまるで疲れ切った俺の目に淡く走馬灯を映すかの様に、周囲の音を掻き消しながら、騒々しく目の前を過ぎ去っていく。
電車が完全に通り過ぎた後、遮断機がゆっくり上へ開いた時、俺は妙な物を見た。
遮断機が上がる前の向こう側の景色には何も映っていなかったのに、遮断機が上がる時、俺の視界を一瞬だけ遮った瞬間、まるで
別世界に来たかの様に、それは映り込む。
今は夜11時。俺が見た物とは、子供の姿だった。少年か少女かはっきりしないが、外灯の逆光で映るシルエットからは、髪型的に男の子だと思った。
親も連れずにただ一人立つ少年。俺は迷子かと思った。だから俺は……疲れているがどうしても気になり、少年に近づこうとした。
「あれ……?」
しかし何故か足が動かない。足に無数の重りが付いているような重さではなく、足を動かそうにも、脳から"足を前に出せ"という指令が行き届いて居ないかの様に、動かないのでは無く、正確に言えば"動かせない"が正しいだろう。
そう足を何とか動かそうと悪戦していると、目の前に居た筈の子供のシルエットが瞬きをすると同時に消える。すると、その少年は、いつの間にか俺の真横に居た。
「おじさん。何してるの? 踏み切り閉まっちゃうよ?」
「え?」
俺は、目の前に居た子供が真横に移動した事に驚いたのでは無く、突如として先程まで聞こえていた風や人の話し声、車の走る音、夜の虫の声、凡ゆる環境音が、子供の声以外聞こえなくなった事に驚く。
まるで鼓膜が破れたかと思う程無音で、一切の音が遮断されている。ふと、子供の声に踏み切りの方へ視線を移すと、まだ遮断機は閉まっていなかった。
それにしてもいつか閉まってしまうのは確実、そう思うと何故か先程まで動かなかった足が動き出す。俺は急ぎ足で踏み切りを渡ろうとした。
「ふふふふ……」
踏み切りを渡ろうと、手前の遮断機を超え、子供の不気味な笑い声が背後で聞こえた瞬間、"音"は取り戻される。
無音という不安から解放された感覚に一安心し、早く踏み切りを渡り切ろうと足を早めるが、もう既に遮断機は閉まっており、危ない! と焦る。
しかしその反応は直前の電車が鳴らす警笛の所為で遅れる。警笛に横を振り向いた時にはもう遅かった……。
殺し屋の田中君 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。殺し屋の田中君の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます