第67話:ゲームセンター(前編)
「こ、ここが……!」
陽葵は要に続いてゲームセンターに踏み入った。服屋を出た時点では陽葵が先導していたのだが、どうやらいざ入るとなったら緊張が湧いてきたらしい。上目遣いで要に先行するよう頼み、要はそれを受けて陽葵の手を引いて入ったというわけだ。しかし今の陽葵は緊張なんてどこへやら、いっぱいに満ちるライトとゲーム音に目をきらきらさせている。
要も要で、ゲームセンターに来るのは実に久しぶりだ。地元にいた頃はよく行ったものだが、受験期に入るとパッタリと行かなくなってしまった。
「要くん、どれからやりましょうか!!」
陽葵は目を輝かせたまま、要に尋ねる。
「そうだな……あれでもやってみるか?」
「……?」
要が指さしたのは、よくあるクレーンゲームだ。陽葵がテレビで見ていたのもクレーンゲームだったから、基本動作は見たことがあるだろう。
「どれか欲しいのあるか?」
「じゃあ……あれがいいです!」
陽葵が目をつけたのは、国民的アニメのぬいぐるみだ。白い毛並みの犬が、真ん中に「おすわり」の体勢で鎮座している。
要は陽葵の後を追い、その筐体の前に立つと、とりあえず百円だけ入れて、彼女の前でデモプレイをしてみせることにした。
久しぶりに触れるクレーンゲームのボタンの感触、時間あたりに進むアームの速度を確かめながら、ぬいぐるみの首元を狙ってアームを下ろしていく。三本のアームで重心のある部分を掴むと、ぬいぐるみは地面から浮き――
「……あれ」
「……!」
――想像よりもずっと呆気なく、景品取り出し口に吸い込まれていった。あまりにも珍しいことに、要は数瞬立ち尽くしてしまう。
「すごいです要くん!!」
「いや、これは……」
この筐体はアームが三本だったため、俗に言う確率機だろう。確率機は大概、二千から四千円の間でアームが強くなるように設定されているため、一回で景品が取れてしまうことはかなり稀である。
つまり、あと一回で取れるという状況で、前にこの機体を遊んだ人物がプレイを止めたのだろう。そしてその後に店員が景品を元の位置に戻した、ということか。
「たまたま運がよかっただけだよ」
要は引きつった笑みでそう答える。しかし、陽葵は要の技術によるものだと信じて疑わない。要はため息をひとつついた。
「まあ、クレーンゲームはこんな感じでプレイするんだ」
「はい! 了解しました!」
「あと……これやる」
「え……いいんですか?」
要は先程取った景品を排出口から取り出し、陽葵に手渡した。彼女はぬいぐるみの胴体を抱え、要の目を見る。
「うちにあってもって感じだしな。それと、テストも頑張っていたんだし」
目を逸らしながら答えると、陽葵は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! 大切にしますね」
「お、おう」
二人の間に、少し照れくさい空気が流れる。
「じゃあ、次行きましょっか!」
「そうだな」
二人は自然に手を繋ぎ、次の獲物を探し始めた。
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