第65話:……感想?(後編)

燃え尽きたように力なく座る要の目の前で、三度カーテンが開いた。今度の陽葵は何も言わず、また開ける時の音も静かだった。


未だに顔がほんのり赤いまま登場した陽葵は、小手先の装飾で魅せることのない白いワンピースを着ている。肩甲骨くらいの高さには大きなフリルがあしらわれ、真っ白な肩と鎖骨が晒されている。ワンピースによってウエストが絞られ、陽葵のスタイルの良さが顕にされていた。


神々しさすら感じられるその姿に、要は一瞬息を飲んだ。陽葵はカーテンから外した手で、恥ずかしがるように体を抱いた。心做しか潤んだ瞳で要を見る。


「ど、どうですか?」

なぜか陽葵の羞恥は要にまで伝染し、心拍数が数段上がる。

「と、とてもいいと思います」

「あ、ありがとうございます……」

初々しいカップルのように双方頬を染めている。陽葵がありがとうと言ったところを見れば、今回の褒め言葉は彼女のお眼鏡にかなったのだろうか。それにしては、驚くほど内容の薄っぺらい褒め言葉な気もするが。さては服に感じる羞恥が大きく、脳のメモリを最大限使えていないのだろう。


「その、思ったのが」

「は、はい」

「……ちょっと露出が多いかなと」

「……それは私も思いました。思ったより肩が出てて」


どうやら彼女からしてみても、この露出度の高さは予想外だったらしい。今までにないほどあからさまに恥ずかしそうにしている。


「でも、ほんとに……可愛いと、思う」

「ーーーーー!! きっ、着替えてきます!」


どうやら恥ずかしさゲージが限界を迎えたらしい。陽葵は要の言葉に何を言うでもなく、音すら超えそうな速さで試着室に入っていった。


要は彼女が試着室から出てくる度に感じる疲労を抱えながら、へたりこむように再び着席した。仮に今自室のベッドの上ならば、一分もあれば寝れてしまいそうなほどである。


一方、試着室の中では――

(要くん、ちゃんと褒めてくれたな……この服が結構効いてそうだったしっ)

――羞恥と歓喜が七対三で混じりあった表情の少女がいた。



その後元の服に着替えた陽葵は、要とともに試着室を後にした。その間にお互い七割程の羞恥は抜けたようだ。


「私の分は、とりあえずこのくらいにしときましょうかね。あんまり買いすぎてもですし。要くんのを選ぶレジに行きましょう!」

「了解。それ全部買うのか?」

「はい! どれも要くんが褒めてくれたものなので」

「そうか……このワンピースもか?」

要は先程のワンピースを軽く持ち上げてみせる。


「買います! でも、その……」

「?」

要が首を傾げると、陽葵は突如、要の耳に口を近づけた。

「これは要くんのお部屋でだけ着ますね」


陽葵の耳打ちに、要はハッと彼女の方を見る。頬はほんのりと赤らんでいるが、口角はいたずらっぽく上がっている。

「お、おまえな……!」

「ささ、レジに行きますよー!」


やられた、という風にわなわなとする要から逃げるかのように、陽葵はレジへずんずんと一直線に進み始めた。その顔には、満開の笑顔が浮かんでいる。

最近彼女がいたずらを仕掛けることが増えてきたのは、要との距離が少しずつ縮まってきたからなのだろうか。


二人のこの店でのやり取りは、もうしばらく続く。

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