第57話:宿題考査のご褒美

「うお……でかいな」

要は目の前にそびえる建物を見てこぼした。いつもより数段服装に気合いが入った陽葵は、隣で誇らしそうに胸を張っている。


二人が来ているのは都内でも有数の広さを誇るショッピングセンターだ。要の地元にはここまで大きなショッピングセンターどころか建物も少なく、圧倒されてしまうのも無理はない。


響たちは頻繁に遊びに来ているらしいが、生憎要は来たことがない。休日は勉強か読書が映画の極度のインドアには縁がない場所である。遠くで見ても目立つのに、近くまで来ると圧巻だ。


なぜここに来たかはもちろん、陽葵との約束によるためである。


彼女が半日をショッピングセンターで過ごすと言ったのは少し意外だった。もっとガッツリ体を動かすようなレジャー施設に連れていかれるかと思っていたからだ。

行く場所や内容は彼女に一任していて、要が事前に聞いているのは場所と行く時間だけだ。


「まずどこから行くんだ?」

「とりあえずお昼ご飯からです! ちょっと早いですけど、これから混んでくるので」


陽葵は「行きましょう」と笑いかけると、要を先導して歩き出す。


「どこで食べるかはもう決まってるのか?」

「歩きながら探そうかな〜と。要くんはどこか希望ありますか?」

「特にないな。適当に歩くか」

「はい!」

要は威勢のいい返事を聞き、前を歩く少女を追いかけ始めた。



「飯食う所だけでこんなあるのか……」

「上の階にはフードコートとかスイーツもあるらしいので、これでも一部ですね」

要たちのは昼食を摂るべく、一階のフードフロアに来ていた。まるで商店街のようにテナントがずらりと並んでいる。ここだけでも相当な数だが、陽葵曰くこれで一部なのだそう。


「陽葵は何か食べたいものあるか? 任せるぞ」

「そうですね……要くん、十五までで好きな数字を言ってください」

「……じゃあ十」

「いちに……十番目ならあそこです!」


突拍子のないことに一瞬戸惑ったものの、どうやら入る店を決める数字だったらしい。もう少し悩むものかと思っていたが、彼女の思い切りには驚かされる。


そんなことを考えている要を尻目に、陽葵は目的の店へとずんずん進んでいく。

「今日は随分急ぐんだな?」

「要くんとやりたいこといっぱいありますから! 行きますよ!」

「へいへい」

要は微かに笑みを浮かべ、ふわりと漂う栗色の髪の後をつけた。

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