第55話:テスト返し(前編)
「ふぅ……」
要は細く息を吐き出し、ゴトンと音をたててリュックサックを床に置いた。今日は七限の内教科書を持っていかなければならないものが五つもあったのだ。毎週水曜日はこれなので、もうなんとも感じないが。
要も昔はいわゆる『置き勉』をしていたが、予習復習をしたい教科の教科書やノートがないのが不便に感じてからは毎日持ちかえるようにしている。如何に背中が重くとも、ふとやりたいと思った勉強ができない方が不便と考えたのだ。
今日は週で一番リュックサックの中身が重い日であり、それに加えて宿題考査の返却日でもある。
返ってきた時間に多少の差異はあれど、響の情報によるとどのクラスも一通り返却されたようだ。ちなみに彼は国語と数学が平均より少し上、英語は赤点スレスレだったそうだ。
せっかくいい地頭があるんだからもったいない、とは思うが、要はあまり他人の成績にとやかく言わない人だ。それか、響の点数が高い方に見えてしまうのは、身近な二人の女子のせいだろうか。
週末に陽葵に対して最低限の補強はしたものの、果たして赤点を回避できたのかはまだ要も知らない。
当然下校は二人でしたのだが、いくら点数を聞いても教えてくれなかったのである。と言っても、その是非は彼女の反応が既に教えているようなものだったが。
今日の陽葵は放課後、やけに嬉しそうな顔をしていた。
空にちらほらと見えた雲も彼女の頭上を避けて通ったように見えて、羽が生えたように飛び跳ねながら近づいてくる。
「……ずいぶん陽気だな」
「えへへ〜、そう見えます?」
要が言うと、肯定するでも否定するでもなく、ふわりと軽やかに着地した。
「もうそれはそれは嬉しそうに。テストどうだった?」
「それは帰ってからのお楽しみということで!」
そのまま具体的な点数を聞くことなく、今に至る。陽葵は一度自室に戻り、部屋着に着替えている最中だ。程なくすれば、玄関から解錠音が聞こえるだろう。それまでに、要も着替えなどの準備を済ませておかなければならない。
要はベッドに脱ぎっぱなしの部屋着を手にとり、代わりに今脱いだ制服を放った。
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